「炎で焼かれる兵士」動画だけじゃない…北朝鮮のミサイル事故
北朝鮮の金正恩党委員長は昨年、相次ぐミサイル発射で周辺国に脅威を振りまいた。幸い、周辺国に人的被害はなかったものの、ミサイルを発射するたびに日本国民を不安に陥れたことは間違いない。そして最近になり、北朝鮮国内でミサイル発射によって被害が生じていたことが明らかになりつつある。
500人死亡の地獄絵図
米国の外交安保専門誌ディプロマットは3日、米政府の消息筋の話として、北朝鮮が昨年4月29日に平安南道(ピョンアンナムド)の北倉(プクチャン)付近から発射した弾道ミサイルが、同道・徳川の民間地区に落下し、深刻な被害が生じたと明らかにした。ディプロマットは昨年4月と5月に撮影した産業衛星写真をその証拠としている。
このような被害が北朝鮮側から明らかにされることはない。
北朝鮮は昨年11月29日、北朝鮮大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」型の発射実験を行った。同日、重大報道を通じて「われわれが目標としたロケット武器システム開発の完結段階に到達した最も威力ある大陸間弾道ロケットである」と強調する朝鮮民主主義人民共和国名義の声明を発表した。
しかし、発射実験の現場で朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士と思しき人物が、エンジンから噴出した火炎に焼かれて死亡し、その場面がテレビ映像で流れたとの情報が出ている。
(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道)
金正恩氏は、ミサイル発射実験の裏で甚大な被害が生じていても、一向に意に介さないようだ。
昨年12月に開かれた「第8回軍需工業大会」で、金正恩氏は「国家核戦力の完成」、すなわち米国を攻撃することが可能な核兵器の開発に成功したと宣言した。大会の情報が初めて公開されたことや、開催のタイミング的に見ても、2017年が金正恩体制の核ミサイル開発で重要な節目となったことを誇示する狙いがあったと見るべきだ。
その一方で、大会では「国防科学研究部門と軍需工業部門に内在している欠陥と教訓」が分析、総括されたという。
「欠陥と教訓」を素直に読めば、核ミサイル開発においてまだまだ解決すべき課題があるという意味に思えるが、むしろ現場の技術部門に対して、より高いレベルの核開発を進めることを促す意味合いの方が強いのかもしれない。現場に対する要求性を高めると言ったら聞こえはいいが、どちらかといえば「無理難題をふっかける」とする方が適切だろう。
(参考記事:金正恩氏も認めた核ミサイル開発の「欠陥と教訓」とは何か)
北朝鮮は、こうした強引なやり方で成果を生み出してきたこともある。しかし当然のごとく、そのしわ寄せは現場に及び、多大なる犠牲を生むことになる。ミサイル落下が招いた被害も、炎で焼かれた兵士もそうだ。
そもそも、北朝鮮の国家事業の裏では甚大な被害が多発している。とりわけ建設現場での事故は後を絶たず、過去には橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたことがあった。
(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)
金正恩氏は、核兵器開発の目的について自国と人民を守るための「自衛的抑止力」「平和守護の強力な宝剣」などと豪語し正当化しているが、多大なる犠牲の上に成り立つ抑止力に何の意味があるのだろうか。