金正恩氏が英雄視する「日本人拉致」の実行犯
北朝鮮国営の朝鮮中央テレビに、元大物工作員らしき人物が登場した。日本人拉致にも深く関与したとして国際手配されている辛光洙(シン・グァンス)容疑者だ。
朝鮮中央テレビは23日夜のニュースで、南北統一を呼びかける行事が平壌で開催されたことを報じた。その参加者の席に、辛光洙(シン・グァンス)容疑者らしき人物の姿がある。映像を見る限り、本人と判断して間違いないだろう。
(参考記事:【動画】北朝鮮テレビに「日本人拉致実行犯」らしき人物)
大阪で日本人を拉致
辛容疑者は、1985年に韓国国家安全企画部(現:国家情報院)によって逮捕された。供述や調べによると、辛容疑者は日本人になりすます、いわゆる「背乗り」を目的に、大阪の中華料理店に勤務していた日本人料理人の原敕晁(はら・ただあき)さんを北朝鮮に拉致した。
その後、日本人「原敕晁」として対南工作のため、韓国へも渡航し工作活動に従事していた。
辛容疑者は、原さんを拉致する過程においては、朝鮮総連に所属する商工人の李三俊(リ・サムジュン)と李吉柄(リ・キルビョン)が幇助したことと、日本と韓国で北朝鮮工作員として暗躍していたことを自供していた。事件の概要に関しては、当時、朝日新聞が最も詳細に報じた。しかし、日本人が拉致されたという極めて深刻な問題にも関わらず、社会的に大きな関心を引くことはなかった。
辛容疑者が逮捕されてから22年後の2002年9月15日。日朝首脳会談において、故金正日氏は日本人拉致を認め謝罪し、ようやく日本人拉致問題の存在が明らかになる。しかしその後、一部拉致被害者の帰国は実現したものの、現在に至るまで拉致問題は膠着状態だ。
(参考記事:検証「日本人拉致問題」を振り返る)
抵抗したら殺せ
北朝鮮の工作活動として行われた日本人拉致の闇は深い。
現在は行われていないと見られるが、まだ表に出ていない過去の事実が数多く隠されているはずだ。朝鮮半島と日本を舞台に工作活動の最前線にいた辛容疑者は、北朝鮮による拉致の闇を知る数少ない人物だ。逆に言えば、拉致問題解決のキーマンと言える。日本側は、辛容疑者が、地村保志さん夫妻や原敕晁さんを拉致した容疑などで身柄の引き渡しを求めているが、北朝鮮側は応じていない。
(参考記事:東京新聞、北朝鮮「拉致」を指示する文書を入手…「抵抗したら処断せよ」)
なによりも、画面に登場した辛容疑者は、胸には勲章を付けており、英雄扱いされている。つまり、金正恩体制は拉致問題や工作活動に対しては、微塵も反省していないということだ。