上田綺世の早期合流が望まれる理由/フェイエノールト対PSV戦の簡易解析
エールディビジ開幕1週間前に行われる夏の風物詩『ヨハン・クライフスハール』は8月4日、ロッテルダムで開催され、PSV(昨季KNVBカップウイナー)がフェイエノールト(同オランダリーグチャンピオン)を1-0で下した。
立ち上がりはフェイエノールト優勢だったが、PSVが五分の戦いに持ち込んで前半を終えた。0-0のまま試合は終盤を迎えたころには、明らかにPSVのペースで試合が進んでいた。後半34分、ノア・ランにゴールを許して敗れた後、フェイエノールトのアルネ・スロット監督は「試合の流れから見て、PSVの正当な勝利」と認めざるを得なかった。4日後にCL予選3回戦(対シュトルム・グラーツ)という重要な一戦を控えているPSVのほうが、フェイエノールトより調整が進んでいる印象だ。
フェイエノールトには何人か昨季のレベルに達しなかった選手がいた。エースストライカーのサンチアゴ・ヒメネスがその一人。7月30日のプレシーズンマッチ、対ベンフィカ(2-1でフェイエノールトの勝利)では、技ありのチップシュートを決めた生粋のストライカーは、実はまだコンディションが整っておらず、ヨハン・クライフスハールでは60分に出場時間を限定してプレーした(後半17分に交代)。
テレビ解説を務めたケネト・ペレス氏はハーフタイムに「ヒメネスはボールハンドリング、判断に遅い」と語ったが、ヒメネスにとっては調整を兼ねた試合ということもあり、現時点での不調は仕方のないところ。メキシコ代表の一員としてゴールドカップに参戦した彼は、1週間しかオフが無かったのだ。ちなみにヒメネスは決勝の対パナマ戦で後半34分から登場し、その4分後に0-0の均衡を破るゴールを決めて、母国を優勝に導いている。遅かれ早かれ、しっかり調子を戻すだろう。
後半17分からストライカーを務めたのはミンテ。攻撃的MFにはステングスに代わりティンバーが入った。ここからフェイエノールトに混乱が生まれた。
この夏、ニューカッスルからローンでフェイエノールトに加わったミンテは、どちらかというとサイドアタッカー。ピッチではミンテとパイションが不規則にポジションを変わり始めた。これはベンチの意図したことと違うだろう。
また中盤のリンクマン、コントローラーだったティンバーは、このプレシーズンは攻撃的MFにチャレンジしている(『プロジェクト10』と言われている)が、PSV戦でブレーキだったことも誤算だった。
後半27分、パイションが下がり、ディルロスンが左ウイングに入ると、今度は右ウイングのヤハンバフシュとミンテの入れ替わりが始まり、事態が好転しなかった。
パイションのシュートがPSVゴールに吸い込まれたものの、オフサイドだったということもあり、この時点で後半のフェイエノールトが放ったシュートは0本だった。それでも試合は0-0のまま進んでおり、PSV優勢とは言え勝負の行方はわからなかった。
後半34分、試合が動く。PSVはCBボスカグリのロングフィードを受けたFWサイバリが右から折り返し、ゴール中央ややファーサイド寄りに待ち構えていたノア・ランが先制ゴールを決めたのだ。
スクランブルを仕掛けたいフェイエノールトだったが、ベンチにストライカーはいない。アルネ・スロット監督はシステムを4-3-3から3-4-3に変えることで前への圧力をかけ、ようやくPSVゴール前まで迫るも時すでに遅し。攻撃の手数も少なく完封負けを喫した。
試合後の記者室では「上田の早期合流が必要」という声を聞いた。この試合では本職のストライカーがヒメネス一人。ビハインドを負った際の手駒に欠いた。会見ではアルネ・スロット監督もミンテのストライカー抜擢がうまくいかなかったことを認めた。
スロット監督は上田に就いて「彼はセルクル・ブルージュでプレシーズンをしっかり過ごしており、別に日本からヨーロッパに来るわけでもないから、調整に時間はかからないだろう」と述べた。
フェイエノールトのリーグ初戦は8月13日、フォルトゥナ・シッタルトとのホームゲームだ。
ヒメネスのコンディションがどこまで戻るか。
ベンフィカ、PSV戦のような強度の高いプレシーズンマッチを戦ったなか、上田がどれだけ早くチームメートと感性や強度を共有することができるか。
楽しみでしか無い。