ロシア中銀の“異例”の透明性=円外貨の詳細、政府・日銀も頼る
政府がウクライナに侵攻したロシアに対する制裁措置として、同国が保有する円建ての外貨資産を凍結。松野博一官房長官は1日の記者会見で、その規模が「3.8兆円程度に上る」と明らかにした。興味深いのは、金額の根拠としてロシア中銀の公表資料が挙げられたことだ。これは、同中銀の情報開示の透明性が異例に高く、それに政府・日銀が頼ることにもなったとも言える。
外貨運用について、驚くほどの詳細な報告書
欧米諸国は26日、ロシアの本格侵攻を受け、厳しい経済措置を科すことを決めた。「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からの排除と保有外貨の凍結だ。前者は、国際的な資金決済からロシアを締め出し、貿易に打撃を与えるのが狙いだ。後者は、制裁で下落するルーブルの買い支えに必要な外貨を凍結。ルーブルをフリーフォール(自由落下)に追い込むためだ。
一連の措置が公表された際、筆者がまず注目したのはロシア中銀の外貨保有状況だった。ホームページを検索すると、外貨運用について、驚くほど詳細にまとめた報告書があり、昨年6月時点で全保有外貨(5850億ドル)に占める円貨比率が「5.7%」とあった。1ドル=115円で計算すると、約4兆円弱で、そのまま放置なら金額に大きな変化はないだろうと推測された。
ロシア中銀の円貨保有額を知る日銀は沈黙
次に着目したのは日銀の統計だ。実は、日銀は外国中央銀行の円貨運用を受け入れており、その合計額は「営業毎旬報告」で確認できる。負債側の「その他預金」が該当項目で、先月は25兆円程度で推移した。ロシア中銀が報復を恐れて直前に引き出すと数兆円は動く。そうした数字の急変動は2月分の統計からはうかがえなかった。
この間、ロシア中銀の円貨保有額を知る日銀は沈黙を続けた。なぜか。取引先との守秘義務による。日銀は一貫して「外貨運用に関する一般的な国際慣行に鑑(かんが)みて具体的なコメントは差し控える」(広報)とのスタンスを維持した。そして、1日に松野官房長官が「(ロシア中銀の)公表資料に基づき、凍結対象の円建て外貨準備が3.8兆円程度」と明らかにした。
ロシア中銀の異例の開示、政府・日銀も見習うべき、との声
松野長官がロシア中銀を持ち出したのは、守秘義務のある日銀を数字の確認先として使えないからだ。しかも、ロシア中銀の開示が詳細を極め、円貨保有額が昨年6月から動いていないのなら、堂々と同中銀の資料を使える。皮肉なことでもあるが、制裁を加える相手の情報開示が優れており、それに政府・日銀は頼ることになった、という構図である。
ちなみに日銀も外貨を保有(日本の外貨準備に入る)するが、ロシア中銀のように通貨別や地域別の見やすい表やグラフ(下を参照)などはなく、詳細な報告書もない。財務省が管理する外貨準備も同様だ。市場関係者からは「ロシア中銀の外貨運用の情報開示は異例なほど透明であり、むしろ政府・日銀も多少は見習った方がいいぐらいだ」(大手邦銀アナリスト)との声が聞かれる。