大人も麻疹(はしか)にかかるのか? 生まれ年によってワクチン接種歴に差
東京都で大人の麻疹(はしか)が2例発生しました。麻疹は子どもの病気だと誤解されがちですが、国内では大人の感染に注意が必要です。生まれ年によってワクチン接種歴に差があるので、注意してください。
インフルエンザの約10倍の感染性
5月10日・11日、東京都で成人の麻疹が2例発生しました。疫学調査によると、4月末に茨城県で確認された麻疹患者との接触歴があったそうです(1)。茨城県の麻疹は海外からの持ち込みによるものです。
麻疹は、インフルエンザの約10倍の感染性があります。空気感染していく、やっかいなウイルスです。免疫を持っていない人が麻疹ウイルスに接触すると、ほぼ100%感染します。
なぜこれほど怖いウイルスが問題にならないかというと、麻疹ワクチン接種が広く普及しているためです。
「麻疹は子どもの病気」という印象が強いかもしれませんが、ワクチン接種によって子どもの発症は抑えられ、現在は成人の発症に注意が必要です。
生まれ年によって異なるワクチン接種歴
この記事を読んでいる皆さんは、自身に麻疹ワクチン接種歴があるかどうか、ご存知でしょうか?母子手帳がある人は、確認してみましょう。
麻疹ワクチンが定期接種になったのは1978年で、当時1回の定期接種でした。1回の接種では十分な免疫がついていない可能性があります。
2008年に特例措置によって、追加接種がおこなわれました。2000年以降に生まれた人は、2回の定期接種を受けている可能性が高いと思われます。
生年月日ごとのワクチン接種歴を表1に示します(2)。(2024年3月15日追記)
追加接種を希望する場合、健康保険の適用外であることから、自費となります。自治体が助成してくれる場合もありますが、平均的には数千円~1万円ほどの自己負担がかかります。
※過去に確実に麻疹にかかっている場合については、免疫を持っているため予防接種の必要はありません。ただし、本当に麻疹だったかどうかは抗体価を調べないと分かりません。抗体価をみる検査は数千円の自己負担が発生します。
ワクチン接種率の低下
麻疹ワクチン接種率は、95%以上が目標です。しかしながら、2021年度のデータでは、この目標値を達成できていない地域が多くみられています(表2)(3)。
麻疹ワクチンは、1回の接種だけだと、接種後数年で予防効果がみられなくなる人が一定割合出てきます。2回接種だと99%の人が予防可能な水準に到達します。そのため、地域で麻疹を防ぐためには、高い2回接種率が必須なのです。
特に発展途上国では麻疹ワクチンの2回接種率は低く、集団免疫が不十分であることから子どもを中心に感染が広がっています。そのため、海外渡航後の発熱には注意しましょう。
麻疹の「2峰性」
10~12日の潜伏期間を経て、発熱、咳、鼻水、のどの痛みなど風邪のような症状がしばらく続きます。
治るのかと思いきや、高熱と発疹が同時にやってきます(図1)。この「2峰性」が麻疹の特徴です。およそ、7~10日で回復します。ただし、成人が麻疹ウイルスに感染すると、子どもより重症化することがあります。
発疹が出てくる1~2日前に口の中の頬の裏側に、やや隆起した小さな白い斑点(コプリック斑)が出現します。
もし麻疹を疑う症状があったら
「これは麻疹かもしれない」と思ったときは、医療機関に電話して、公共交通機関の利用をできるだけ避けて受診してください。
いきなり病院を受診すると、ワクチンをまだ接種していない乳児に感染を広げてしまう恐れがあるので、電話などで指示をあおいでから行動しましょう。
マスクは効果がない?
麻疹ウイルスは、新型コロナウイルスのエアロゾルよりもさらに小さな粒子で空気感染を成立させるウイルスです。
残念ながら新幹線で近くに座っている人が麻疹だった場合、通常マスクでの予防は難しいです。唯一の予防法は、ワクチン接種によって麻疹に対して免疫を獲得しておくことです。
(参考)
(1) 東京都福祉保健局. 麻しん(はしか)患者の発生(URL:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/hodo/saishin/pressboueki230512.html)
(2) 一般社団法人日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集(URL:http://www.wakutin.or.jp/medical/)
(3) 令和3年度麻しん風しん定期予防接種の実施状況の調査結果について(URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/655-measles/idsc/11589-01-2021.html)