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英国の50ポンド紙幣の肖像にエニグマを解読したアラン・チューリング氏

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 英国の新しい50ポンド紙幣の肖像に、コンピュータ科学の先駆者で暗号解読者のアラン・チューリングが採用されることが明らかになった。イングランド銀行総裁が6月15日に発表した。

 英国には5ポンド、10ポンド、20ポンド、そして50ポンドの紙幣が存在している。このうち5ポンド紙幣は2016年9月にポリマー製の新札が発行された。ポリマー製は従来の紙製よりも耐久性があり、安全で、偽造が困難だとされている。5ポンドの肖像はウィンストン・チャーチルとなっていた。10ポンド紙幣も2017年の9月に新しいポリマー製のものが発行されている。こちらはジェーン・オースティンと小説家の肖像が描かれている。そして、画家JMW・ターナーが描かれた新しい20ポンド紙幣は、2020年に流通が始まる予定となっている。

 つまり今回の新50ポンド紙幣が最後の切り替えとなる。ただし、50ポンドそのものはあまり見たことがない人も多いのではなかろうか。50ポンド紙幣はかつて「腐敗したエリート層の通貨」とされるなど、他の金額のものと比べて、日常的に取り引きされる量は最も少ない紙幣となっている。英国では20ポンド以上の買い物の際には、紙幣を使うよりもクレジットカードを使うことが多いとか。

 また注意すべきこととして、英国では新しいデザインのお札がでると、それまで使われていたお札が使えなくなることがある。この点に日本と大きな違いがある。日銀券については、それが円という単位であるならば、戦前に発行されたものでも利用できる(戦前の1円札ならばコイン専門店に持ち込んだほうが良いかもしれないが)。もちろん、戦後に発行された聖徳太子が肖像の1万円札も普通に利用できる。

 ちなみに英国の新しい50ポンド紙幣の肖像に採用されたアラン・チューリングは暗号解読機を開発し、ナチス・ドイツの海軍作戦の暗号通信「エニグマ」を傍受・解読する作業を行った人物として知られている。これは「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」という映画にも描かれていた。

 アラン・チューリングは「エニグマ」解読のほかにも、英国立物理学研究所で初期のコンピュータの開発に着手し、後にマンチェスター大学で研究を進めた。演算処理を機械に命令する「アルゴリズム」の概念確立に貢献し、現在のコンピュータの基礎を作った人物としても知られている。

 紙幣の肖像となった科学者には、ドイツ旧マルク紙幣でのガウス、イギリス旧ポンド紙幣でのニュートン、フランス旧フラン紙幣のパスカルなどがいる。そして、日本では野口英世が千円札の肖像となっている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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