Yahoo!ニュース

【DUCATI ムルティストラーダV4S 試乗】“全ての道”を制す多目的マシン。その実力は想像以上!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
DUCATI MULTISTRADA V4S 画像出典:Webikeニュース

V4エンジンとレーダーを採用した新世代ムルティ

ドゥカティの新世代アドベンチャー、「ムルティストラーダV4」の国内試乗会に参加してきたのでレポートしたい。

スポーツ、アーバン、ツーリング、エンデューロという4つのカテゴリーを1台に凝縮した「4 bikes in 1」のコンセプトを掲げて2010年に登場したムルティは10年の歳月を経て新たなステージへと進化した。

要となるのが「V4グランツーリスモ」と名付けられた新開発の水冷90度V型4気筒1158ccエンジン。これはパニガーレV4系のパワーユニットではあるが、排気量や出力特性も最適化された専用設計。最高出力は170psと現行ムルティストラーダ1260を12ps上回る。

また、伝統的なデスモドロミックから耐久性に優れるバルブスプリング方式に変更し、6万kmのメンテサイクルを実現したことも注目される。

もうひとつのトピックは世界初の2輪用レーダーシステムの導入。これはボッシュの安全運転支援システムをドゥカティ用にカスタマイズしたもので、車体前後に搭載されたレーダーが計測した距離や速度などのデータを基に、エンジン出力やブレーキを制御する仕組みだ。

2つの機能があり、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)はライダーが設定した速度で前走車を自動追尾するもの。もうひとつが死角検知(BSD)でバックミラーの死角に入ってきた車両を検知するとインジケーターが発光して知らせる機能。高速道路での快適なクルーズや、安全な車線変更などをサポートするものとして期待されている。

■試乗インプレッション

極低速もスムーズで安定、足着きも良い

ひと目でムルティと分かるシルエットだが、近付いてみると従来モデルとはまるで違うマシンであることに気付く。新採用のDRL(デイタイムランニングライト)が眩いフロントマスクはパニガーレV4顔に似て、22Lに増量したタンクのボリューム感とは対称的にコンパクトに収められたV4エンジンが地面との距離を稼いでいる。

前後に短く、より脚長になった印象だ。車体も従来のスチール製トレリスフレームに代わってアルミ鋳造モノコックが採用され、逆にサブフレームにはオフロード走行にも耐える頑丈なトレリス構造が使われている。

そして、ついにフロントホイールは19インチ化、スイングアームも両持ち式に強化されるなどエンジンから車体の隅々まで完全なフルチェンジとなっている。

スタンドを外して車体の軽さを実感しつつ、エンジン始動。Lツインとは異なる細かい鼓動と甲高いサウンドがV4であることを主張してくる。Lツインの荒々しい鼓動感も味わい深いが、V4は回転がより緻密でスムーズだ。さっそくUターンを試してみたが、歩くような速度でもV4エンジンは粘りがあって半クラも使わないほど。

ハンドル切れ角も十分にあるし、トルク変動が少なく回転がスムーズなので極低速でも安定しているのだ。ちなみにライポジは従来の1260と大差ないが、シートがフラットになって着座位置の自由度が増えている。日本仕様のシート高(820/840mm)はアドベンチャーモデルとしては低めで、足着きもかなり良いほうだと思う。

まるで19インチのスーパースポーツだ

ワインディングを模したコースではライディングモードを「スポーツ」に変更してトライ。エンジンの瞬発力が増すとともに排気音もワイルドに、電子制御サスの動きやトラコン&ABSの介入度も含めてスポーツ寄りの設定が出来上がる。

ムルティ史上最強170psを発揮するV4エンジンに身構えたが、走り出すと拍子抜けするほど扱いやすく穏やかでさえある。もちろん、全開にすればスーパーバイク由来の強烈な加速力を味わえるが、レッドゾーンの半分にも満たない5000rpmも回していれば日常域では十分すぎるほど余裕がある。

ハンドリングも素直かつ正確で、19インチならではの接地感と安定性を感じつつ、狙ったとおりのラインを描けるのだ。左右への切り返しでもエンジン部分にマスを感じない不思議な軽さがある。Lツインとはだいぶ違う感覚だ。

車実は車体のディメンションにそのヒントがあった。従来モデルに比べてV4はエンジンがだいぶ軽量コンパクト化されている(前後と上下がそれぞれ9cm程度小さくなり幅だけ2cm増、単体重量も1.2kg減)。

故に大径の19インチでありながら、エンジン搭載位置をフロント側に寄せつつキャスター角を立ててフロント荷重を稼ぐことが可能に。さらにスイングアームを長くとりつつホイールベースを切り詰めるなど、スーパースポーツ的な手法で運動性能を引き出している。何故V4エンジンなのか、その答えが透けて見えるはずだ。

超高速で真価を発揮するV4パワーと空力

ブレーキも秀逸でコーナーに向けてバンクしながらでも繊細なタッチで速度をコントロールできるし、一方で危険回避の急制動でも最先端のABSがタイヤのグリップ限界に近い領域でも最短距離で止めてくれる。坂道発進でブレーキ力をホールドしてくれる機構や、追突防止に有効なエマージェンシーストップランプが装備されるなど、安全性の向上も見逃せないメリットだ。

また、高速周回路では空力性能の進化にも目を見張った。V4はジェット機のような高回転サウンドを響かせながら、あっという間にアウトバーン的速度域へ。そのレンジでもメインスクリーンと両サイドにあるサブスクリーンの効果は絶大で、まるで風圧を遮断するカプセルに包まれたかのような快適さ。

19インチに加え、新設されたフロントウイングによるスタビリティ効果もあるはずだ。パニアケース装着車両でテストしたが、取り付け部のステーが左右にスイングする仕組みで横風をうまくいなしてラインの安定をキープしてくれる。そして、クリップヒーター&シートヒーター(タンデム用もあり)は熱いほど効いてくれる。

スイッチひとつでエンデューロマシンへ

新型V4では特にオフロード性能の向上を強調している。ここではモードを「エンデューロ」に切り替えてみたが、出力特性がマイルドになりABSはリヤが解除されてトラコン介入度も最適化されるなど、適度なスライドにも対応した設定になる。電制サスもプリロードをかけつつストロークさせるなど走破性重視の方向へとスイッチひとつで瞬時に変身するところが凄い! 

ダートセクションでまず感じたのがやはりフロント19インチの接地感と安定性。加えてV4エンジンの配置がフロント寄りの低重心であるためフロントグリップにも安心感がある。延長されたスイングアームにも注目したい。

横から見れば一目瞭然だが、スイングアームピボットは前後アクスルの中間辺りに設定され、エンデューロモデル並みの長さが与えられている。重心バランスの良さとダートを捉えるV4の優れたトラクション、そして長い脚とロングスイングアームの効果によってダートでのハンドリングも格段に高められた。

実際のところ、スロットルを開けつつトラコン任せで軽くテールスライドしながらマシンの向きを変えていくような芸当も難なくこなしてしまう。さらに、大幅に増えたロードクリアランスと熟成された電制スカイフックにより、ちょっとしたヒルクライムや土手を利用したジャンプなどもできてしまう。

従来の17インチ時代には「その気になればオフも走れる」だったのが、新型V4では「オフを積極的に楽しめる」ようになった。

それはまさしく歴代ムルティが求め続けてきた「4 bikes in 1」の理想であり、それを現実のものとするための最良の選択がV4化だったのだ。

安全で快適な旅を担保するレーダーシステム

今回の目玉とも言えるレーダーシステムについても触れておきたい。最近の4輪には既に普及しているシステムであり、経験者にはその便利さをすぐに理解いただけると思う。

ACCは前走車がクルマであってもバイクであってもほぼ瞬時に補足して自動的に最適な車間距離を保って追走する。実際にバイク4台で前後一列になってACCを試してみたが、高速道路で想定されるような緩やかな速度変化には十分対応できた。

また、BSDはバックミラーに映らない死角にいるクルマやバイクを確実に検知し、また、ある程度以上の速度差で追い越しをかけてくる後続車にも素早く反応しライダーに注意を促してくれるなど頼りになるシステムだった。

きっと悪天候や夜間、長距離走行で疲労しているときなど、条件が厳しくなるほどそのメリットや有難さを実感するはずだ。

誰もが簡単に手に入れられるマシンではないが、「全ての道」を表すネーミングに恥じない本当の意味での多目的冒険マシンとして、その実力に見合った価値は十分にあると思う。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

佐川健太郎の最近の記事