高齢者の万引きは増えているのか
万引き総数は減る方向に
高齢化社会の到来と共に高齢層(今件では65歳以上と定義)が引き起こす問題にもこれまで以上に注目が集まっている。自動車運転時のトラブルによる事故同様、特に問題視されるのが「万引き」と呼ばれる行為。しかし本当に、高齢者の万引きは増えているのだろうか。警察庁が毎年発表している報告書「犯罪情勢」などを元に、その実情を確認する。
まずは万引き検挙人員の経年推移を精査する。警察庁の「万引き検挙人員」では、未成年者として公開されているのは14歳から19歳まで。14歳未満は「触法少年」の扱いで、刑法第41条の規定「14歳に満たない者の行為は、罰しない」に従い、刑事処罰されないことから、今データにも反映されない。
全体数は2005年までは漸増、そしてそれ以降は漸減傾向。2009年から2010年にかけてイレギュラーな動きを示したものの、その後再び減り、直近の2013年では前年2012年の大台10万件割れからさらに1万件マイナスの9万件台すら割り込み、前世紀末期の水準にまで減少している。
これを全体、さらには高齢層と未成年者(14歳から19歳)に限定し、その動きを見たのが次の折れ線グラフ。
2013年の未成年における万引き事案での検挙人数は1万6760人、高齢者は2万7953人。1998年以降においては、2008年、そして2011年以降は連続し、2013年まで合わせて4回目の「高齢者の万引き者数が未成年者以上」の状態となっている。未成年者数の減退、高齢者の増加という人口そのものの増減、そして未成年者の行動性向の変化も一因だが、注目すべき状況ではある。
人口比率という視点
「高齢者の検挙数増加は大問題」「高齢者そのものも増えているので仕方ない」双方の意見とも説得力はある。そこで「該当年齢階層人口」に占める「万引き検挙者」の比率を算出し、別の切り口から万引きの現状を推し量ることにする。要は、例えば人口1万人に対し、どれだけの万引き検挙人員数がカウントされるか、ということである。
1998年以降の人口推移について総務省統計局の「人口推計」から1歳単位の人口を取得。世代別人口を算出した上で、絶対人数では無く、その世代における検挙発生率に該当する値を導き出す。
高齢者は微増から横ばい。この7、8年では9.3人~9.5人/万人を維持していた。他方未成年者は大きな流れとしては減少傾向にある。直近の2013年では未成年者・高齢者だけでなく、全世代において小さからぬ下げ幅を示している。
中でも未成年者の減少率は注目に値する。例えば2013年の未成年者による万引き検挙人員数は1万6760人だが、これは前年比でマイナス14.8%であり、世代区分の中では最大の下げ幅を記録している。対人口比でも前年比でマイナス14.6%。さらに言えば2013年に限らずここ数年間、未成年者の万引き率の減少幅が著しい動きを示している。
この原因について元資料などには解説は無い。単純に未成年者の人口が減ったからでは無く、むしろ万引きをするような機会が減っている(個人書店の減少)、監視体制の強化、さらには未成年者の行動性向の変化(スマートフォンなどへの注力)が要因として挙げられると思われる。
ともあれ、「お年寄りの万引きが増えている」という話に関しては、少なくとも警察が把握している限りでは「絶対数」「対人口比」双方において間違っているということになる。ただし他世代と比べて減少幅が小さいため、相対的に増加しているように見えるのかもしれない。あるいは警察に通報されない事例による上乗せも考えられるが、残念ながらその数については、官公庁発表のデータからでは把握できないのが実状である。
そして一方で、若年層の万引きはこの数年急速な勢いで減少しているのも、事実に他ならない。
「万引き」という表現
やや余談となるが、今回使用した元データである警察庁の「犯罪情勢」でも「万引き」との表現が使われている。しかしこれは実のところは「窃盗」でしかない。さらに「万引き」の際に店員や警備員に抵抗し、何らかの暴力を振るった場合(例えば逃走中に警備員を払いのけ、警備員を転倒させただけでも)には「強盗」(事後強盗)に該当し、罪は一層重いものとなる。
「万引き」は得てして心の迷い、気の緩みによるものとされる。しかし本人はもちろん、さらには周囲の人の人生を大きくゆがめてしまう。言葉の印象の軽さから軽率に道を外してしまうことのないよう、くれぐれも注意してほしい。また願わくば、「万引き」という表現そのものを止め、「窃盗」と表記することにより、罪の意識を認識させるようにしてほしいものだ。
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