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今年のメジャー大会を振り返る~前編

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
タイガー・ウッズが勝利を挙げたマスターズは世界中の人々を歓喜させた(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

 今年のメジャー4大会は、どれも見ごたえのある内容だった。その4大会をあらためて振り返ってみようと思う。今回はその前編。マスターズと全米プロを振り返った。

【マスターズ】

 タイガー・ウッズが見事な復活優勝を遂げた今年のマスターズは、ゴルフファンのみならず世界中の人々を沸かせた大会となった。

 マスターズ5勝目、メジャー15勝目、米ツアー通算81勝目。2005年以来、14年ぶりのマスターズ制覇であり、2008年以来、11年ぶりのメジャー制覇。そんな数字や記録の数々も素晴らしかったが、人々の心を打ったものは、大方の予想に反してウッズが勝利を挙げた展開だった。

 未曽有の不倫騒動。4度に渡る腰の手術と長期戦線離脱。そして驚きの逮捕劇。世界ランキング1199位まで転落したウッズが、さまざまな苦難を乗り越え、昨年9月のツアー選手権を制し、1876日ぶりにチャンピオンに輝いたことは「奇跡の物語」だった。

 だが、その奇跡の物語がさらに拡大し、今年のマスターズを制覇するという筋書きを開幕前に予想できる要素は少なかった。最終日最終組で回ることになったときでさえ、ウッズ優勝を予想させる要素は多くはなかった。

 昨年の全英オープン覇者であるフランチェスコ・モリナリをはじめ、トニー・フィナウ、ブルックス・ケプカ等々、ウッズが戦おうとしていた選手たちは、ウッズに憧れて腕を磨いてきた屈強な新世代の強者たちばかり。その狭間で「43歳の中年ゴルファー」が勝利する確率は、きわめて低いと思われていた。

 その低い確率をひっくり返し、実現困難と思われていた優勝を遂げたからこそ、ウッズ優勝は世界中を沸かせたのだ。

「これまでで一番難しい優勝だった」

 ウッズのこの言葉が、どれほど至難のワザであったか、どれほど大きな喜びであったかを物語っていた。

【全米プロ】

 開催時期が従来の8月から5月へ前倒しになった今年の全米プロは、ブルックス・ケプカの連覇で幕を閉じた。わずか3シーズン内でメジャー4勝を挙げ、圧倒的な強さを誇示したケプカ。その強さの秘訣は、彼が貫いてきた「ケプカの流儀」にあった。

 雑誌の撮影のために減量に挑み、昨秋から24ポンド(約10キロ)も体重を落としたケプカは、そのせいで飛距離が落ちたことを大会前に批判されていた。だが、ナルシスティックであることは「決めたことに挑む」「定めた目標に向かって進む」という意味で強いモチベーションになる。そう考えるところがケプカ流であり、彼の精神面の礎なのだ。

 今年の全米プロ最終日にもケプカの強いメンタリティが見て取れた。後半、4連続ボギーを喫したケプカを「優勝を意識して崩れかけた」と見る向きは多く、べスページの観衆からは、追撃をかけていたダスティン・ジョンソンを応援する「DJコール」まで上がっていた。

 だが、前日の夜に「最終日はダブルボギーだけは決して叩かない」と心に誓ったケプカは、4連続ボギーを喫していたその間も、自身の誓い通りにダブルボギーを回避したことを自己評価していた。それゆえ、ボギーパットを沈めると、微笑みを浮かべたり、小さくガッツポーズを取ったり。

 貫き通す意志、揺らがない心。もちろん、その背後には人知れず重ねた努力があった。決意したら実行し、結果にコミットする。それが「ケプカの流儀」であり、それが彼の強さの秘訣であることが、今年の全米プロで実証された。

→後編に続く

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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