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新型コロナと思ったら、まさかの一酸化炭素中毒 冬のいろいろな発生条件

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

冬は、閉め切った室内で過ごすことが多く、なかなか換気ができません。12月と1月に多い一酸化炭素中毒は、新型コロナなどのウイルス感染症と似た症状になることがあり注意が必要です。いくつか発生条件をおさえておきましょう。

「新型コロナと思った」

ある日、微熱と頭痛がある高齢男性が、新型コロナを心配して受診されました。体のだるさやボーっとした感じがあったので、血液検査をおこなったところ、軽度の一酸化炭素中毒の状態にあることが分かりました。9か月ぶりに石油ストーブを出して、点火がうまくいかず、不完全燃焼になっていたそうです。

タイムリーに一酸化炭素中毒だと診断できる事例は決して多くないのですが、疑って検査すると意外にも一酸化炭素中毒だったという経験は何度かあります。

一酸化炭素中毒は風邪と似ている

一酸化炭素を吸うと、ものすごいスピードで肺から血液中に移行します。酸素を一緒に運搬するはずだったヘモグロビンが一酸化炭素に乗っ取られてしまうことから、体中に酸素が行き渡らなくなります。

一酸化炭素は、無色・無臭の気体です。いつの間にか、頭痛や吐き気などの中毒症状が出現して、重症になると死亡するリスクもあります(図1)。

図1. 空気中の一酸化炭素(CO)濃度と中毒症状(参考資料1より引用)
図1. 空気中の一酸化炭素(CO)濃度と中毒症状(参考資料1より引用)

軽症の一酸化炭素中毒では、軽い症状がいくつか出現することから、「風邪っぽい」という患者さんが多いです(2)。ただ、重要なポイントは全体の9割以上に頭痛がみられるということです(図2)(3)。

図2. 一酸化炭素中毒の症状(参考資料3をもとに筆者作成)
図2. 一酸化炭素中毒の症状(参考資料3をもとに筆者作成)

どのような環境要因が危ない?

石油ストーブ、ガスストーブ、ファンヒーターなどの「開放型暖房器具」は、室内の酸素を使って燃焼して、排気ガスを室内に出します。そのため、つけっぱなしで換気しないと一酸化炭素中毒に陥る可能性があります。

また、ガス瞬間湯沸器、カセットコンロなどを使用している場合も、換気不良だと一酸化炭素中毒のリスクがあります。先日、理科室でカセットコンロを使っていた石川県の小学生17人が一酸化炭素中毒を発症したことが報道されました。

最近は季節を問わずキャンプが流行っており、テント内に一酸化炭素が充満しないよう、火を使わずに保温する工夫が必要になります。

さて、12月に入り、北海道では積雪が増えてきました。車が立ち往生した際、電気自動車でない場合、マフラーの出口が雪で覆われると行き場を失った排気ガスが車内に入り込み、一酸化炭素中毒を起こすことがあります(図3)。何らかの理由で車内に滞在しなければならないときは、マフラー出口が雪で塞がれないよう、車体後面を除雪しておくことが重要です。

図3. 積雪による車内の一酸化炭素中毒(筆者作成)(イラストは、無料イラストの素材ライブラリー.com、イラストACより使用)
図3. 積雪による車内の一酸化炭素中毒(筆者作成)(イラストは、無料イラストの素材ライブラリー.com、イラストACより使用)

子どもは注意!

成人よりも基礎代謝率が高いため、子どもは中毒になりやすいので注意が必要です。キャンプのテント入口のタープ下にバーベキューコンロを設置して調理したところ、テント内に入った複数の子どもが意識を失ったという報告もあります(4)。

乳幼児は症状を伝えることができませんので、より注意が必要です。

その他、妊婦もリスクが高いです。一酸化炭素は、胎盤を容易に通過して胎児に移行します。妊婦自身の症状が軽度であっても、胎児に深刻な中毒がおよんでいる可能性があります。

高齢者は、慣れた石油ストーブなどを長年使用していることが多いです。閉め切った部屋で、頭痛を伴う風邪症状が出現した場合、一酸化炭素中毒を疑う必要があります。中毒の程度によっては、後日認知症のような後遺症を残すこともあるため(5)、早期発見が大事です。

一酸化炭素中毒を疑ったら

まず、新鮮な空気を吸うようにしてください。外気を吸うことが優先されます。調子が悪そうな家族を見たら、「大丈夫?」と声をかけることも大事ですが、まず窓を開けましょう

具合が悪ければ、医療機関を受診するようにしてください。意識がおかしいなどの緊急性がある場合は、119番で救急車を呼ぶべきです。

医療機関では、即座に酸素投与を行います。たくさんの酸素を吸ってもらいます。意識障害やけいれんなどを起こしている場合は、高圧酸素療法という特殊な治療を適用することもあります。

一酸化炭素中毒の予防

偶然かもしれませんが、「30分~1時間ごとのこまめな換気」は、新型コロナと共通する一酸化炭素の予防策です。もし、何らかの原因で一酸化炭素が発生しても、換気で部屋の滞留を防ぐことが可能です。

最近の住宅は、断熱目的などの理由で昔より気密性が高くなっています。コロナ禍も相まって、より換気が重要な時代になったと言えますね。

(参考)

(1) 日本ガス石油機器工業会(URL:https://www.jgka.or.jp/gasusekiyu_riyou/anzen/co/index.html

(2) Tomaszewski C. Postgrad Med. 1999;105(1):39.

(3) Ernst A, et al. N Engl J Med. 1998;339(22):1603.

(4) 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. 2ルームテント内での一酸化炭素による中毒. 日本小児科学会雑誌. 2019; 123(11): 1726-8.

(5) Rose JJ, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2017;195(5):596.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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