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MLBに新時代到来?開幕後1ヶ月続いている史上初の“逆転現象”

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
現在MLBトップの三振数を記録してるヨアン・モンカダ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLBが開幕して1ヶ月以上が経過した。実は4月下旬ESPNが指摘していたある“逆転現象”に興味があり、ずっと推移を見守ってきた。それはMLB史上初めて起こっているもので、今後のMLBの潮流まで変えてしまうような出来事なのだが、それが今も継続しているのだ。

 5月1日現在、MLB全体の打撃成績を見てみると、安打数(6992本)が三振数(7335個)を下回っている。実は近代野球が始まったといわれる1900年以降、シーズンを通して安打数が三振数を下回ったことは一度たりともないのだ。

 今シーズンは開幕から天候不良が続き多くの試合が順延されている。中には氷点下に近い天候の中で公式戦が実施されるなど、カブスのアンソニー・リゾ選手が悪条件で試合をしなければならない現状に「シーズンが長すぎるのではないか」と不満を表明したほどだった。その影響もあってか、今シーズンは頻繁に先発投手が長いイニングで完全試合やノーヒットノーランを継続するというケースが起こっている。4月8日のアスレチックス戦で7回途中まで完全試合を演じていた大谷翔平選手のその1人だ(この試合は決して天候は影響していないが…)。

 確かに安打数が三振数を下回っているのは、ここまで間違いなく“投高打低”で推移しているのを裏づけているものだが、だが約120年もの間一度も起こらなかったことが現在継続しているという事実はやはり看過できない。しかも単に天候に影響された“春の珍事”として単純に片づけられない面があるからだ。

 1900年以降、安打数は常に三振数をはるかに上回ってきた。安打数は2万本前後で推移していく中、三振数は1952年に至るまで基本的に1万個を突破することはなかったほど大差が開いていた。それ以降も安打数、三振数ともに増加傾向を辿っていき、1969年には安打数が3万本、三振数が2万個を突破し、さらに1993年に安打数が4万本、そして1998年に三振数が3万個を突破していく。だが常に安打数が優位で、三振数との差が大幅に縮まることはなかった。

 安打数と三振数の差が縮まり始めたのはここ最近になってからだ。安打数は1999年の4万5327本をピークに、現在は4万2000本前後で推移しているが、三振数に関しては増加の一途を辿り、2008年以降はほぼ毎年のように記録を更新し続けている。そして2016年から上昇率が一気に加速し、2017年には遂に4万個の大台に到達している。

 これには2つの理由が考えられる。まずは投手のパワー化だ。2008年といえばジャスティン・バーランダー投手を筆頭に100マイルに迫る速球を投げる先発投手が次々に台頭してきた頃で、それ以降は先発、中継ぎともにパワー全盛の時代に突入していった。

 現在もパワー派投手が主流であることに変わりはないが、2016年からもう一つの要因が加わった。未だにロブ・マンフレッド=コミッショナーは否定しているが、いわゆる“飛ぶボール”の導入だ。本欄でも何度となく指摘させてもらっているが、2016年からMLB公式球が飛ぶようになり本塁打が量産されるようになっていった。そして昨年は遂に史上初めて6000本を突破する(6105本)までに至っている。

 つまり現状は投手はパワー派が揃う一方で、打者は“飛ぶボール”の登場で本塁打を狙う傾向が強くなっている。この2つが噛み合った結果、三振数と本塁打数は増えている一方で、安打数が伸び悩んでいるといえないだろうか。その傾向が今シーズンは顕著に表れていると推察しているのだが…。

 いずれにせよ5月を迎え今後は打者も天候を気にせず思う存分プレーできるようになるので、多少なりとも状況は変わってくるだろう。だが現在の“逆転現象”がこのまま続くようなことになれば、我々は時代の“移り目”に立ち会っているのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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