大谷翔平・山本由伸の超大型契約の裏で…日本プロ野球「空洞化」問題の悩ましさ
海の向こうからまたも、超大型契約のニュースが舞い込んできた。オリックスからポスティングシステムでメジャー移籍を目指していた山本由伸投手が、12年総額3億2500万ドル(約462億円)でドジャースと基本合意したとの報道が伝わってきた。ドジャースは大谷翔平選手と10年総額7億ドル(報道発表時のレートで約1015億円)で契約を結んでいる。ドジャースは今オフの移籍市場の目玉だった2選手をいずれも獲得したことになる。
大谷選手に続き、山本投手の超大型契約も高い期待の表れでもある。ドジャースが最終的に争奪戦を制したのだが、獲得に乗り出した球団の評価は同様に高いとみられる。山本投手はメジャーで1球も投げていないとはいえ、春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)やここ数年のシーズンの投球など、メジャーの高評価には根拠があるはずである。
これだけの契約ゆえに、1年目から主戦級として15勝ラインが評価の“ノルマ”になってくるだろうが、勝ち星は打線との巡り合わせもある。まずは日本時代のスタイルを変えることなく、メジャーのマウンドでも日本と同じマインドで投げ抜くことを優先してもいいのではないだろうか。1年目は対戦相手のデータも少なく、投手有利になるはずである。対戦が何巡目かするまで、アジャストしていく時間はあるだろう。
報道によれば、山本投手の移籍によって、旧所属球団のオリックスも71億円を超える「譲渡金」を手にすることができる。これも報道ベースでは、山本投手がオリックスに入団してからの契約金と年俸総額(いずれも推定)は13億5000万円ということで、オリックスからすれば、リーグ3連覇に貢献してくれた右腕が、移籍と同時に5倍超の金額をもたらしてくれたことになる。
現状のポスティングシステムは、選手をメジャーに送り出すまでの在籍年数が短くなってきている。選手はその分だけ、メジャー球団と長期の契約が結ぶことができ、年俸総額も高くなる。同時に送り出す側の旧所属球団も、山本投手を例にしても、好条件での移籍によって高い譲渡金を手にすることができる。メジャーと選手会による労使協定で25歳以下の海外選手との契約には上限が定められているが、25歳を超えた選手のポスティング移籍は、選手にも球団にもWin-Winの関係が成立する構図が出来上がっている。
選手がフリーエージェント(FA)の権利を取得するまでポスティングを認めなければ、譲渡金は入らない。その分、選手を長く保有できるが、現状でポスティングによる移籍を認めていないのは、ソフトバンクくらいだ。選手にとっても若い時期に移籍するチャンスを逃してしまう。
しかし、日本球界全体でいえば、人気、実力ともにトップの選手が譲渡金と引き換えにメジャー移籍を容認するのは、マイナス面が大きい。私自身もメジャーに挑戦した立場であり、選手サイドに立てば、メジャーを目指すという姿勢は後押ししたい。一方で、「移籍が早くなりすぎていないか」というのも正直な心境である。
メジャーは莫大な放映権料などを背景に市場規模が拡大している。年俸の相場もメジャー平均が6億円を上回るなど、日本とは比較にならないほどにまで高騰している。
こうした流れの中で、日本球界全体としては厳しい舵取りが迫られている。WBCなどの国際大会が選手の「品評会」のようになり、活躍した選手もメジャー志向を強くする。
日本球界が、メジャーに行く選手たちの「足掛け」のような位置づけになってしまうと、いずれ人気に陰りが出てしまわないか。譲渡金についても、ドラフトで有力選手を引き当てた球団(もちろん、下位で獲得して育成した選手も含まれるが)が独占していいのか。日本球界の繁栄のために、それこそ子どもたちへの普及・振興などの財源にするなど、球界全体のための使い道はないだろうか。日本人選手の評価がかつてないほどに高まりを見せるこのオフ、正解を見いだせない複雑な思いが頭を巡っている。