日銀「転進」で難解な金融政策=効果は乏しく、特段の影響はなし
日銀が21日の金融政策決定会合で、新たな金融緩和の枠組みを発表した。従来の3次元緩和を「総括的に検証」した結果だが、出てきたものは「長短金利操作付き量的・質的緩和」というシロモノ。3次元緩和も難解だったが、さらに難解になったと言えるだろう。こうなったのは、3次元緩和から撤退すべきところを、中途半端に「転進」したためだ。もとより、新たな枠組みの物価への目立った効果は乏しく、国民経済への特段の影響もないだろう、と考えられる。
行き詰まりを認めずに転進
新たな枠組みによる金融政策は、カタカナでは「イールドカーブコントロール」という。金融政策の専門性にこだわるマニアにとっては「ほう、珍しい策を考えついたなあ」と感心する面もあるが、一般的な読者は「長短金利操作付き量的・質的緩和」という文字列にげんなりするだろう。このため、以下では日銀用語はなるべく使わずに説明してみたい。前述したように、ざっくりとまとめると、これまでの緩和策の行き詰まりを認めずに転進したため、緩和手段の整理ができず、複雑になってしまった。
まず、3次元緩和は「量」と「マイナス金利」と「質(ETF購入など)」という三つの緩和手段があった。このうち、中心となるのは「量」であったが、どんどん「量」を出しても物価はマイナスに落ち込んでしまった。しかも、「量」を出していくにしても、限界が近いところに達していた。だとすると、「量」を出すのをやめればいいわけだが、政策委員会でそれに反対する意見も一部に根強かった。
一方、今年に入って導入した「マイナス金利」は、金融機関の収益を過度に圧迫する懸念も強かった。理論的には、為替を円安にするはずだったが、実際には裏目となり、収益圧迫懸念から銀行株が下落。株価全体も低迷し、それがリスクオフの円高を招く悪循環にはまっていた。だったら「マイナス金利」もやめればいいのだが、導入して間もない緩和手段を引っ込めると、いかにも失敗したという印象が強まる恐れがあった。
こうして煮詰まった緩和策を打開するため、日銀がひねり出したのが「長期金利」の操作である。ただし、従来の緩和策は温存されたため、複雑な名称の枠組みとなった。これまで「マイナス金利付き量的・質的緩和」との名称だったが、このうち「マイナス金利」は印象が悪いので「短期金利」という言い方に改められた。これに「長期金利」の操作が加わり、げんなりするような名称になったわけだ。
名称はどうあれ、効果があればいいわけだが
さて、名称はどうあれ、効果があればいいわけだが、実際には撤退もできずに中途半端に転進し、やたらと手段の数だけは増えただけにすぎない。日銀は引き続き2%の物価目標の達成を急ぐ方針だが、「目立った効果はないだろう」(外資系証券エコノミスト)との見方が多い。また、日銀の公表声明の文面から将来的に「量」が削減する方向もうかがえ、金融市場も好感するには至っていない。
もともと早くにバブルが崩壊し、低成長・低インフレとなった日本では、金融政策で経済・物価を押し上げる力は弱い。異次元緩和で何かとなると思い込んだ黒田日銀だが、やはり金融政策の非力さを思い知ったわけだ。ただし、それを率直に認めると敗北宣言になる。そうはできないため、今回のような中途半端な「転進」策を余儀なくされた。やたらと難解になったのが、そのことを証明するとも言えるだろう。
人々の生活にどのような影響を与えるかだが、低成長・低インフレに変わりはないと見込まれるため、それほど目立った影響も変化もないだろう。長期金利の操作で、借入金利が若干変動するぐらいだと思われる。政府・日銀が強引に経済・物価を動かすならもはや日銀の出番はない。財政政策を発動するか、あるいは為替介入で円安にするかしかない。そうした策が打ち出されない限り、身の回りで大きな変化は見込みにくい。