コロナ禍で露呈したやっぱり変われない地域金融機関
1983年に静岡銀行に入行し金融マンとしての経験を20年近く積んだ後、2001年に出向の形で公的産業支援の世界に足を踏み入れた。2008年に独立を経たが今日まで20年この業界の最前線にいる。地域の中小企業・小規模事業者との接点はもう40年近い。
2年近く続いているコロナ禍で中小企業・小規模事業者が負ったダメージは過去に経験のない深刻さだ。支援者としても対応に苦慮する事の連続だった中、垣間見える地域金融機関の相も変わらない姿勢に対して元金融マンとして失望している。
事業性評価融資の本質
地域金融機関にとって、地域の中小企業の経営支援は本来最も重点的に取り組むべき責務だ。金融監督当局は手を変え品を変え様々な方針を打ち出し地域金融機関による中小企業の積極的な支援を促してきた。
2016年頃から重点的に取り組むべきだと言われているのは「事業性評価融資」の導入・促進だ。企業の決算内容や担保、保証に依存せず、企業の持つ可能性を適切に評価して融資すること、またその実績を公表する事を金融庁から求められるようになった。
取り組みの本質は「取引先に寄り添う支援をすること」なのに、全国の地域金融機関から受けた研修や講演の依頼を通して現場の彼らから聞こえてきた実態は、事業性評価に使うシート(書式)の枠を埋めて融資を行いその件数を金融庁に報告することに主眼がおかれている印象だった。
2019年夏に金融庁の幹部と対談した時にもその問題が話題の一つになった。本来の目的にそった取り組みになっていない、と。事業性評価融資を何件したという報告をすることばかり頭にあって、結局、担保保証人主義、保証協会依存主義からの脱却がすすまない。業績が厳しく資金繰りに窮する企業に対して、保証協会の保証応諾があれば融資するという姿勢が横行していた。
リスクゼロの融資で利息?
そのような中新型コロナウィルスの感染拡大が深刻化し、政府が矢継ぎ早に出した中小企業支援策の一つが資金繰り支援だった。事実上無利子・無担保で融資を受けられる通称「ゼロゼロ融資」だ。この施策は企業の資金繰り面において一定以上の効果はあったと言える。資金繰りに行き詰まる企業が懸念されるほど表面化することなく、むしろ倒産件数は一時史上まれにみる低さになるほどだった。
だがこの施策で今だ変わらない金融機関の体質が露呈したと私は思う。自分たちでリスク判断をせず、辛辣に言えば判断が出来ず、保証協会の保証があれば融資をするし、保証がないなら融資しないという保証協会丸投げの体質のことだ。
私はかねてから、保証協会100%保証の融資は金利を設定できないのではないかと本気で考えている。金融機関は、貸したお金が返ってこないかもしれないというリスクを取る代わりに、利息を取る。金利は、リスクの大きさに合わせて決まるものだ。リスクゼロの融資では、金融機関が取れるのは事務取扱手数料であり、利息ではないと思う。
ゼロゼロ融資は、自治体が利子を補給する。また返済が滞っても、元本の最大全額を政府の財源を裏付けとした信用保証協会が肩代わりする。つまり、リスクを負っているのは保証協会で、保証協会の原資は国民の税金だ。
2020年度、信用保証協会による保証承諾額は35兆円を突破した。(ちなみにリーマンショックがおきた翌年の2009年度は約19兆円)一方で、2020年度の地銀全体のコア業務純益は前年比1割増の約1兆2千億円、信金は前年比2割増近い約4千億円だった。ちょっと乱暴な表現かもしれないが、地域金融機関は国民にリスクを負わせて利益をあげているという構図だ。
事業性の貸出しに複数のカードローン
コロナ禍がはじまったころ、支援の現場は売上が激減し資金繰りが厳しくなった経営者の駆け込み寺状態になっていた。あの頃大変驚いたのは、事業性の貸出しに対して複数のカードローンが使われ返済負担が重くなっている個人事業主が目立った事だった。
建設業を数十年営む経営者の借り入れ状況を見たときは腰を抜かしそうになった。政府系金融機関からの約300万円の借入のほか、民間金融機関複数行から妻名義を含め8枚の銀行系カードローンがありその残高は合計1,000万円近かった。それぞれのカードローンを返済するため自転車操業的な資金繰りで経営は行き詰っていた。カードローンの金利は約10%。事業性融資と比べると暴利に近い。
取引先の地域金融機関はこの経営者の状況を知りながらもそれまで一般融資の話を進めることもなく放置していたが、ここぞとばかりに「コロナ関連融資」として実行され、カードローンの返済を肩代わりする事になった。
昨年から今年にかけて全国各地で金融機関の支店長向けの研修が何度もありこの事を問題提起したが、おかしいと反応するのは一部の若手職員だけだった。あたかも当然であるような反応に落胆する。
ふりかえれば、バブル崩壊後の不良債権処理を進める中でリレーションシップバンキングの重要性が指摘されはじめた約20年前から地域金融機関の中小企業へのより積極的な金融支援が求められてきたのに、相変わらずこの様である。こうした問題について深く考えるような思考をしないかぎり地域金融機関の変革はありえないのではないか。
変化に対応し生き残るか淘汰されるか
地域金融機関の経営が厳しいとどれほど前から言われてきただろう。資金余剰、マイナス金利、進化し続けるフィンテック…取り囲む環境は激変しているのに、地域金融機関の多くは旧来の預貸中心のビジネスモデルから脱却できていない。政府は法律まで整備し優遇金利まで打ち出して合併再編を促し収益環境の改善を迫っているような状況だ。これも、そこまでお膳立てしないと着手できないのか、とも思う。
ビジネスの本質から考えれば、競争が激しい中では、変化する市場ニーズに応えられる柔軟な会社は生き残り、そうでないところは淘汰されるものだ。地域金融機関が生き残りを考えるなら、新たなビジネスモデルの構築は喫緊の課題だ。
中小企業支援の立場から考えると、この金融機関とつきあえば「自分たちが儲かる」ところがあれば、選ばれると思う。業績の向上は資金にニーズを生むし、成果があがるなら適正なコンサルティングフィーが発生しても理解されるだろう。一部の地域金融機関にはこれまでにない積極的な支援に取り組んだところもあった。金融マンには能力の高い人達が多いのだから、自信を持ってチャレンジをしてほしいと切に願う。