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禁止令を出しながらTikTokで若者の大統領選人気を競うバイデンとトランプ

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国系動画アプリTikTok(写真:ロイター/アフロ)

 中国企業バイトダンス(ByteDance)が運営する動画アプリTikTokの米国内でのアプリ配信禁止令法案を超党派で可決しておきながら、バイデン大統領もトランプ前大統領もTikTokのアカウントを持ち、大統領選で若者層を取り込もうと競っている。

 禁止令に従わなければ米国に売却しろと言われたTikTok側は、禁止令は憲法に違反しているとして差し止めを求める訴えを起こした。大統領選のためなら、どんなに矛盾したことでもするアメリカだが、バイデンは自分自身が選挙活動のためにTikiTokを利用しながら禁止令を出し、トランプは禁止令に反対し最近になってTikTokの公式アカウントを設定し、バイデンのフォロワー数を遥かに超えている。

 中国との関係において、この現象を考察してみたい。

◆バイデンがTikiTokの米国内での配信禁止令を出したわけ

 2024年3月13日、アメリカ議会下院は安全保障上の懸念があるとして、中国の企業バイトダンス(中国語では「抖音=ドウイン」)が運営するTikTokの米国内でのアプリ配信禁止令法案を超党派で可決した。米国内での事業を180日以内にアメリカに売却しなければ米国内での配信を禁止するというものだ。

 理由は「敵対国からの安全保障上の脅威」だとしているが、実は米大統領選におけるプロパガンダであるとする見解が、身内のバイデン政権側からも出ている。3月13日、国家情報長官のアヴリル・ヘインズ議員は下院情報委員会の公聴会で「中国はソーシャルメディア・アプリTikTokを使って2024年のアメリカ大統領選挙に影響を与える可能性がある」と語っていると、イギリスメディアのザ・ガーディアン紙が報道している

 4月23日には米議会上院でも賛成79票、反対18票で可決され、4月24日にバイデンが大統領として署名し禁止令は成立した。それによれば、バイトダンスは法案の可決から270日以内にTikTok事業を米国に売却しなければならず、株式保有率は20%未満でなければならない。この計算に基づくと、バイトダンスがTikTokの米国事業を売却する期限は2025年1月19日となる。

 この期限が、バイデンが米大統領としての現在の任期の最終日であることは注目に値する。

 最初の「180日以内」から「270日以内」に延期したのは、米国各地で禁止令に反対する抗議デモが若者を中心に展開されたため、大統領選においてバイデンに不利に働くことに気が付いたからだろうが、そもそも禁止令を出したのも、やはり大統領選でバイデンに不利に働くと判断したからと思われる。

 というのは、前回の大統領選が行われた2020年における若者層(30歳未満の有権者)の支持率は、バイデンが61%だったのに対し、トランプはわずか36%でしかなかった。

 ところが2024年2月25日から28日にかけてFOXニュースが行った調査では、若者層の51%が今年11月の大統領選ではトランプに投票する予定だと回答したのに対し、バイデンに入れると回答したのは45%にとどまったとのこと。だからこそバイデンは、若者が多く使っているTikTokの使用禁止令を出したものと考えることができる。

◆禁止令に反対したトランプがTikiTokにアカウントを設け一気に人気上昇

 その証拠に、最初にバイデンが禁止令を言い出したときに、トランプは間髪を入れずに「禁止令反対」を表明した。

 トランプは3月11日に、アメリカのニュース専門放送局CNBCの取材を受け、TikTok禁止令に反対したと、CNBCは以下のような形で報道している。

 ――2017年から2021年まで米大統領を務めたドナルド・トランプは月曜日(11日)のCNBC番組「スクワークボックス」のインタビューで、「TikTokがなくなれば、フェイスブックを大きくすることになってしまう。フェイスブックは国民の敵だと私は考えている」と語った。(中略)さらに 「TikTokを気に入っている人はたくさんいる。TikTokがなければ気が狂ってしまうような若い子さえ大勢いる」とトランプ前大統領は語った。

 事実、アメリカにおけるTikTok利用者の数は1億7000万人に上る。アメリカの総人口は2021年統計で約3億3000万人だ。そのうち赤ちゃんや超高齢者などスマホやiPadなどを使えない人口を考えると、大まかに言って50%以上がTikTokを利用していることになろうか。

 その内の有権者の数を考えれば無視できない要素となる。

 そこでトランプは、5月30日に有罪判決が出るとすぐ、6月1日にTikTokの公式アカウントを設定した。するとフォロワー数が1日で300万人を超え、その3日後には400万人を超えた。今年2月にTikTokを利用し始めたバイデン陣営のフォロワー数34万人の10倍超えだ。

 トランプ自身、大統領在任中は、国家安全保障上の懸念を理由にTikTokの使用を禁じる大統領令に署名しているが、カリフォルニア州の連邦地裁が「言論の自由」への懸念を理由に、同命令を差し止める判断を下している。

◆TikTok 中国親会社が「表現の自由を侵害した」として米政府を提訴

 一方、TikTokは中国の親会社とともに5月8日(米時間7日)、「この法律(禁止令)は憲法に違反している」として差し止めを求める訴えを起こした

 訴状の中でTikTok側は「憲法に違反し、憲法で保障された表現の自由を侵害するものだ」と指摘し、「配信を停止しなければTikTokを米国に売却するという条件は、商業的にも、技術的にも、法的にも不可能だ」と主張している。つまり、絶対に売却しないということだ。

 TikTok側の「禁止令は表現の自由に反する」という主張が、米国内の若者を中心とした「禁止令抗議デモ」の主張と一致するというのも、なんとも奇妙な話だ。

 TikTok側では、トランプ政権時代にも、「言論の自由」を理由にTikTok配信禁止令を連邦地裁が取り下げていることを強みとして、勝算は高いと見ているようだ。もし勝てば、米中言論闘争に関して「中国側が自由を勝ち取った」という、実にねじれた社会現象が生まれることになる。

◆トランプが「絶対にTikTokを禁止しない!」と強く表明

 6月7日、トランプは「ターニング・ポイントUSA」の創設者チャーリー・カーク氏との対談で、若い有権者にリーチするためのより大きな戦略について語った際に<「私は絶対にTikTokを禁止しない!」と、非常に強いトーンで誓ったという>。そしてバイデンを「史上最悪の大統領」と呼んだそうだ。

 アリゾナ州のタウンホールでトランプをもてなしたカーク氏は、トランプを「TikTok お気に入りの大統領」と呼んで、トランプとのやり取りのTikTok動画にキャプションを付けている。

 トランプがTikTok支援側に立つようになったのは、自身の選挙運動への大口献金者で、バイトダンスの15%の株を保有するジェフリー・ヤス氏と会ったからだと一部に報じられたが、トランプはそれを強く否定している。

◆中国はトランプを応援しているのか?

 この流れから見ると、あたかも中国がトランプを応援していて、それがTikTokに反映され、バイデンに不利になっているように見える。

 中国政府自身は「他国の選挙干渉」として何も表明しないが、しかし実際上、バイデンが「台湾有事の際には米軍が台湾を応援する」と何度も表明し台湾独立を煽っているのに対して、トランプは台湾有事に関してはノーコメントを貫いている。

 その意味において、当然中国はトランプに当選してもらった方が「まだマシか」とは思っている可能性が高い。

 この分析に関しては、別の機会に譲りたい。

 なお詳細は拙著『嗤う習近平の白い牙』の【第一章 TikTokと米大統領選と台湾有事】で考察した。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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