オンライン採用の副作用「内定ブルーの激化」にご用心 入社後の定着にも影響
■学生は内定をもらっても不安
昨今の新卒採用・就職活動は、コロナ禍によって様々な混乱がありました。それでも、インターネット上で説明会や面接などを行うオンライン採用が急速に進展したことで、なんとか採用活動をふつうに行えるようになっています。しかし、一方で学生からこんな声も聞きます。
「ある会社に内定をもらい、納得して就職活動も終えました。特に他に動いているわけではありません。なのに、徐々に『この会社で決めてしまって、本当によかったのだろうか?』と不安な気持ちが芽生えてきました」
■不安は一種の「八つ当たり」でもある
このようなことは毎年あることで、珍しくはないとも言えます。人事担当者の間では「マリッジブルー」(結婚する直前に憂うつな気分になること)になぞらえて「内定ブルー」などとも呼ばれますが、本来喜ばしいことなのに憂うつになるという現象です。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。まず、内定を受諾して進路をひとつに決めることは、他のすべての選択肢を捨てる、とてもストレスフルな事柄だということです。
「自分には無限の可能性がある」と思えていたことが、そうでなくなってしまう。そうなると、途端に不安に思えても仕方ありません。学生時代という、多くの人にとって楽しい時期と別れなければいけない予感もストレスになります。
そのストレスは前に進むためにはどうしようもないものですが、不安の原因は目の前にある「選んだ会社」ではないかと、ある意味誤って感じてしまうのが「内定ブルー」というものなのです。
何も悪いことをしているわけではないのに、なぜか会社のせいで不安に陥っていると内定者に思われてしまう。会社側からすれば「八つ当たり」「とばっちり」のようなもので、「こんなに不安になるには、何か会社に問題があるはず」という自己正当化に使われる犠牲者なのです。
■オンラインでは「信頼関係は構築しにくい」
内定ブルーは、言わばただの幻想ですから、本来であれば「いやいや、実際にはそんなことは存在しないんだよ」と目の前に「現実」を突きつけてあげればよく、それで不安は消え去るはずです。
ところが、今年は様子が違います。それは採用上のコミュニケーションがオンライン中心になってしまったことで、そもそも情報量や会話量が少ない上に、会社や人事担当者と内定者との間に心理的な信頼関係ができていないということです。
オンラインでのコミュニケーションでは、知識や情報などは問題なく伝わるのですが、非言語情報(身振り手振り、アイコンタクト、うなずきなど)が減少することによって、感情や気持ちが伝わりにくいことがわかっています。そのために、結果として信頼関係がなかなかうまく築けないままでいる可能性が高いのです。
人は得た情報が信頼に足るものかどうかを、その情報の内容だけではなく、どこからその情報を得たのかによっても判断します。信頼できていない相手からの情報は信頼しないということです。そういう状態で「内定ブルー」に対抗しようと情報提供を頑張っても、効果はあまりありません。
このような認識になれば、採用担当者の皆さんが何をすればよいのかは明白でしょう。オンライン採用によって完全には構築できなかった信頼関係を、改めて作り直せばよいのです。
■内定者の期間に「信頼関係」の強化を
すべきこと自体は、そんなに難しいことではありません。採用担当者や既存社員と内定者とがコミュニケーションする機会を増やして相互理解に努めるとか、同じ境遇にある内定者同士をつないで情報を共有することによって互いの悩みを解消しあうとか。重要視して、ちゃんとやるかどうかだけの問題です。
とはいえ、コロナの感染拡大もありますので、「十分な感染対策をして実際に会う」「オンラインのコミュニケーションの量を増やす」「オンラインのコミュニケーションの質を工夫する(適性検査や自己紹介など)」といった方法を組み合わせる必要があるでしょう。
幸い採用活動という怒涛の状況は終わっているので、まだまだ時間はあります(22卒が始まっているかもしれませんが)。
もし、この状況を放置して、内定者と会社や人事との間に信頼関係ができないまま入社してきてしまったらどうなることでしょうか。
今後しばらくは、入社後の仕事においてもオンラインでのテレワークが中心となるところが多いでしょう。そうなると、内定者改め新入社員は、上司や同僚とも信頼関係がなかなか築けず、そこでの悩みを吐露する同期も人事担当者などの相談相手になってくれる人もいない状態に置かれてしまうかもしれません。
すでに20卒の新人のオンライン導入研修で、その難しさをお感じの方も多いと思います。その二の舞とならないよう、ぜひこの内定者の期間に信頼関係を築き「内定ブルー」を解消するとともに、入社後も定着がうまくいくように準備をしておいてください。
※キャリコネニュースより転載・改訂