あの時、墓石が宙に飛んだ。凶器化する墓石の耐震・免震化の必要性 #あれから私は
2021年2月13日、東北地方を中心に震度6強の地震が発生した。
10年前のあの記憶が脳裏をかすめた人も少なくないだろう。翌日、こんなSNSの投稿が目についた。
「今から墓を見に行ってくる」
「お墓の状況が気になって、見に行った人がかなりいたらしい」
さらに数日経過すると、今回の地震で倒壊した墓石の画像がUPされるようになった。
近年は「墓不要論」を掲げる人もいるが、「先祖が入っているお墓を守れなくて申し訳ない」とお墓に対して特別な思いを持っている人も少なくない。
またお墓が倒れたり割れたりするのは不吉であると、一刻も早く元通りにしておきたいという人も多いようだ。
確認しておきたいという気持ちはわかるが「地震の直後、すぐに墓地に行くのは危険」とYoutube等でお墓の情報を発信している羽黒石材工業(茨城県桜川市)の中野良一さんは警鐘を鳴らす。
墓所の状況確認については、まず管理者に連絡して全体の状況を把握する。安全が十分に確保できない段階では、基本的に墓地に行くべきではない。取り急ぎの応急処置が必要な場合、石材店に依頼すれば少なくとも二次災害は最小限に抑えられるだけの対応をしてくれる。
10年前、2011年3月11日の東日本大震災では、多くの墓石が広い範囲で倒壊した。太平洋沿岸では、多くの墓地が甚大な被害を受け、数百kgの墓石が遺骨とともに流されたことはニュースで大々的に報じられたものだ。
当時の様子を前述の中野さんは語る。
「特に地盤が弱い墓地は、全体に大きな爆弾でも落ちたような惨状だった。お墓はご先祖と向き合う場所。骨壺や遺骨があらわになっている墓地もあり目を背けたくなるような光景だった」
そんな中で、各石材店はまずは安全を第一に考え、墓石を片付ける作業からスタートした。
「危険な状態の石を整理し、歩くための通路を確保した。縦長の石塔は横に寝かせるなど安全策をとった。石は倒れると凶器になる。問い合わせのあった方については、とにかく安全が確保できるまでは墓地に近づかないように案内するのが精いっぱいだった」と振り返る。
自然災害によるお墓の被害の保証は
自然災害の場合、お墓の修繕費用はどうなるのか。アフターフォローの一環として5年~20年間の保証を付けているところもあるが、基本的には予測できない自然災害については保証の対象外となることが多い。
では、地震により墓石が倒壊し、隣の墓石を傷つけてしまった場合はどうなるのか。
民法では、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときには、その工作物の占有者及び所有者に損害賠償責任を認めている。
地震の場合には、当該工作物、つまり墓石が設置された当時、通常発生し得ることが予想された地震に耐え得る安全性を有していたか否か、これらが客観的に判断されることになる。損害賠償を一定の割合で求められる可能性があることは念頭に入れておいた方が良い。
あれから10年、お墓の耐震・免振施工は進化したか
近年のお墓の地震対策については、中心にステンレスの芯を通したり、L金具等で石同士をがっちり固定するなどの耐震工法と、ゴムやゲル状の素材を石と石の間に入れる免震工法が組み合わされて行われている。
これで地震による倒壊の危険性はある程度防ぐこことはできるが、「最も大切なのは地盤である」と中野さん。
軟弱地盤や傾斜地に建立された墓石で、基礎の部分に補強工事が施されていない墓地では小さな揺れでも少しずつ傾いてしまう。ちょっとした外的な圧力で倒壊したり、ヒビが入ってしまう危険性がある。
「可能であれば、地盤改良するのがベスト。そこまで本格的なリフォームが難しい場合は、ボンドやゲルを使用することで改善していくしかない」
今回の地震では、仙台市青葉区にある伊達政宗の霊廟「瑞鳳殿」で席灯籠や墓石約100基が転倒、破損したという。
こういった古い墓石や石塔については、耐震・免震化が十分されていないことが多い。お墓には施工方法に法的な基準はなく、地域の事情に応じて職人の知識と経験と勘で造られてきた。またお墓は死者を弔う場として信仰の対象になることから、風水や墓相といった考え方を尊重すると、耐震・免震化に制約がともなうこともある。
「10年前は倒壊を回避できたのに、今回の地震で倒れてしまった墓石もあった」と中野さん。お墓に関する諸問題は住宅と異なり、緊急性がなく後回しになりがちなうえ、建てて50年以上経過している墓石も少なくない。建てた当初から代替わりをしているなら、一度メンテナンスを兼ねて地震対策がされているかチェックしてみてはいかがだろうか。
協力:おはかのなかのch