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会社の新陳代謝(採用と退職)をうまくマネジメントすることで、どんな人にも優しい自然な会社ができあがる

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
自然に新陳代謝する組織を作れば、人為的に人を入れ替える必要はない。(写真:アフロ)

■「採用」重視の人事はエコロジカル

採用を「できる範囲で」がんばって、後で事が起こってから後工程の「育成」や「評価」「報酬」等々でいろいろと対処するという人事は、非効率であると同時に、沢山のひずみを生む人事です。

■リストラの悲劇が生まれるわけ

もし、ある企業で、45歳ぐらいを頂点とした組織ピラミッドを構成できるような人材フローが理想であるにもかかわらず(つまり、入社後20年ちょっとでピラミッドが完成するということなので、20年×退職率5%=100%であるから、単純計算すると年間5%程度の退職率が理想)、定年まで居続けたいという保全性の高い集団を採用してしまっていた場合、予後は大変悲劇的です。

もし、保全性の高い彼らが退職率5%に満たない水準で毎年推移した場合、どこかのタイミングで「外科手術」を行うことで、帳尻合わせをしないといけなくなってしまいます。ストレートに言えば、リストラを断行する必要が生じてしまうということです。組織に残りたいと思っている人達を、無理やり切れば、当然ながら組織は疲弊します。残ったものにも、罪悪感が生じたりもする。人事の一貫性から外れた採用を行ってしまっては、このように後々に禍根を残してしまうのです。

■人事の「軸」に合った採用をすればとても「自然」

一方、もし、採用にパワーシフトをして、自社にぴったりの理想の人材を採用することにこだわっていればどうなるでしょうか。

例えば、「キャリア自律」をした人々をきちんと採用していくことで、彼らは適宜自分のキャリアの節目で「自然に」その会社を退出していくことでしょう。もちろん、それでも「5%」という目標退職率は自然には実現できないかもしれませんが、きちんと退職率をモニタリングして、目標から外れていれば、その都度状況に応じて、組織に求心力を持たせる施策や、遠心力を持たせる施策を、バランスを見て実施することで、キャリアにセンシティブな人材たちの行動をある程度「自然に」マネジメントすることができます。

○求心力を生む施策

・会社に定着を促す施策で、組織の一体感や愛社精神を向上させるイベントや評価・認知活動、社内業務に役立つ能力開発への投資、仕事や職場への適応を目的とした研修の実施、残留インセンティブの高い退職金、報酬アップ等々を指す

○遠心力を生む施策

・会社から退出を自然に促す施策で、社外を含めた選択肢を検討できるキャリア研修や、ポータブルな能力開発への投資、セカンドキャリア支援の退職金、昇給や昇格の停止、役職定年制度等々を指す

■「自然な」マネジメントを行うことのメリット

一つは、自然であるがゆえに、経営者や人事担当者の負荷が低いということです。人事の「一貫性」の軸に合った人材をきちんと採用できていれば、その他の諸領域の方針(そもそも一貫性があるのでハレーションは起こらない)にも「自然に」適応してくれ、無理に何かをさせるという必要がありません。

また、「自然な」マネジメントは、マネジメントをされる側にも強制感がなく、負荷が低い。自分から進んでそのマネジメント方針に従っているわけなので、当然です。リストラなどの全く自分の意思に反する行為を受ければ人も組織も疲弊します。日々激化するビジネスの競争環境に対応するエネルギーが失われてしまうことになります。「組織は戦略に従う」と言う通り、そもそもビジネスをうまく行うための人事なのに、これでは本末転倒と言うしかありません。

■「採用」を重視した人事を継続的に可能とする体制

このような自然なエコロジカルな人事、すなわち、「採用を中心とした一貫性のある人事」を継続的に行うには、最適な採用チームを構築することが必須です。

最適な採用チームの第一の要素とは、「理想の人材ポートフォリオ」の雛形であることです。企業が理想とする組織の多様性と同程度の多様性を採用チームが実現しているべきです。採用担当者や人事担当者は優しい受容性の高いタイプが多い。しかし、人間は自分と同じタイプを高く評価するために、受容性の高いタイプばかりで採用チームを作っていると、結果、受容性の高いタイプばかりを採用してしまう恐れがあります。実際に、このような採用担当者のタイプの偏りによって、多くの組織は同質化していってしまうのです。

そのため、採用チームは、「採用」という業務自体に最適化して、それに必要な能力や性格を持った人材ばかりを配置するのではなく、企業全体の人材ポートフォリオに合わせたメンバー構成にすることが望ましい。

■現場が採用権限を持つ会社で強い採用力を持つために

また、近年では、競争環境の激化により、より短期的な成果を求めざるを得なくなっている現状があり、そのために、どんどん現場に権限移譲をすることでスピードアップを図る企業が多くなっています。そのこと自体はもちろん問題があるわけではありませんが、権限移譲の一つとして採用権限も移譲されることが多くなってきています。人事ではなく、現場が実際の採用実務をするようになってきているのです。今後、この傾向が続くことを考えると、人事部だけが採用スキルを磨いても不十分であることになります。

ただ、先にも述べたように採用スキルは門外漢の方からは意外に思われますが、実は専門性の高い領域であるために、現場の社員全員にトレーニングを施すというわけにもいかない場合があります(やれるにこしたことはありません)。なので、その場合、人事と現場のローテーションを頻繁に行うなどして、社内に「採用経験者」を増やすような施策を打っていくことがとても重要になります。

実際、リクルートの採用担当者は現場のトップセールスパーソンなども平気で異動で来ますし、人事担当者がどんどん各事業部に散っていくというローテーションがありました。そうして、社内に、採用経験者がどんどん増えていき、採用の重要性と難しさを理解した人が増えていくことで、企業のすみずみにおいて、一貫して「採用を中心とした人事」が行われる素地ができるのです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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