為末大、遠藤謙、栗栖良依がランスタで活動報告会。東京パラ後の活動の継続と新たなスタートライン呼びかけ
パラスポーツで東京の景観を変えようと2016年にオープンした「新豊洲Brilliaランニングスタジアム(以下ランスタ)」で3月22日、活動報告会が開催され、オリンピアンで400mハードル日本記録保持者の・為末大氏(Deportare Partners)と義足エンジニアの遠藤謙氏(Xiborg)、そして地域社会を拠点に活動し、東京パラリンピックではセレモニーのステージに「多様性との調和」の表現をもたらした栗栖良依氏(SLOW LABEL)の3人が活動の成果と現状、今後の展望にむけて報告会を行った。
2016年、国産カラマツを骨組みに使用したドーム状の空間に60m×6レーン、IAAF(国際陸連)公認のトラックが完成すると、陸上競技やトライアスロンなど義足のトップを目指す義足アスリート、パラムーブメントの担い手やダンサー、クリエーターも訪れ、陸上のタータントラックが役割を飛び越えてクリエイティブな体験や交流が新豊洲の街の一角に生まれた。
<参考>
新豊洲Brilliaランニングスタジアム
https://running-stadium.tokyo/
史上初の延期のすえ2021年に開催された東京大会期間中は、コロナ対策で試合は無観客となったが選手村にも近く、陸上だけでなくホッケー代表チームなど、世界の選手がトレーニングに訪れたという。障害のあるなしによらず世界のトップスポーツが交流を深めコミュニティとして貴重な時間を過ごすことができた。
「(2013年に)東京開催が決定して、遠藤さん、栗栖さんとともに豊洲に未来を先取りする場所をつくろうと『多様性』をコンセプトに”豊洲会議”が始まった。それが、夢物語でしぼんじゃうのか?というとき、東京建物の平成27年度サステナブル建築物等先導事業としてネーミングスポンサーが決まり資金提供を受けながら、車いすや義足の選手が使うシャワールーム、多様な人がくることを想定したランニングスタジアムを作ることができた」と、館長の為末大は経緯を語った。
義足エンジニア・遠藤謙が求める風景
義足エンジニアの遠藤謙氏を中心にした義足アスリート支援プログラムは館内に「義足の図書館」を設置し、選手の近くに義足製作スペースを置き競技力アップへの貢献を目指した。その先には、「一般の学校で、障害のある子どもたちが運動会や体育の授業にふつうに参加できる」という日常の風景を思い描いていた。
実際にサポートした日本の佐藤圭太は東京の代表に入れなかったが、アメリカ代表のジャリッド・ウォレス、オランダ代表のキンバリー・アルケマデが東京パラリンピックに出場した。二人ともメダルを獲得し嬉しい成果を残してくれた。
さらに遠藤氏は、コロナ対策で無観客のレースというところで、サポート選手の出場を応援しようと「オンライン観戦会」を呼びかけ、現地取材中のNPOメディア(=PARPHOTO)とともに義足アスリートと競技の魅力を満載した詳しい観戦ガイドも作成した。ランスタの仲間たちが呼びかけに応じて大勢集まり、コミュニティの力を発揮した応援を実現した。
<参考>
義足エンジニア・遠藤謙による「東京パラ注目の義足アスリートの見どころ!」
https://www.paraphoto.org/?p=29084
「日本には6万人足のない人がいるが、スポーツ用義足を使用する人は1%に満たない。値段が高い、保険適用外となっているのが原因だ」と課題に向き合った遠藤氏は、ランスタ内にスポーツ用義足=ブレードをたくさん用意して、実際に履いてもらいながら、月1でクリニックを行った。
「走り方を練習したところで15人のブレードランナーが生まれました。彼らは体育の授業とか部活でも普段の義足を外してブレードで走っています。まだ15人ですが、日常的な風景が変わりました」とスタートラインとしての成果を実感していた。
遠藤氏は他にも「ロボット義足の研究=乙武プロジェクト」をソニーコンピュータサイエンス研究所と共同で行い、四肢欠損の人が歩くプロジェクトを主導した。
大ベストセラー「五体不満足」の著者・乙武洋匡さんの協力を得た取り組みで、テクノロジーとスポーツが混じり合うコミュニティづくりがさらにすすんだ。
栗栖良依「2030年はオリンピックを変える!」
東京2020クリエイティブディレクターとして障害のある人のアートでパラリンピックのセレモニーを指揮した栗栖良依氏は、2016年、リオパラリンピック閉会式のフラッグセレモニーで「多様性」の表現を披露し4年後の東京大会のセレモニーのあり方を示した。
つねに「オリパラのセレモニー」に注目したアートプロジェクトを準備しつづける彼女は、最終的に2030年に向けた未来への想いを描いて語ってくれた。
地域社会を障害のある人とのスローな社会にしようと横浜で「SLOW LABEL」として活動していた栗栖氏は、一昨年はコロナ禍での横浜パラトリエンナーレ、東京2020セレモニーチームがまさかの解散という危機のただ中で予定通りにパラリンピックの開閉会式のステージアドバイザーとしてやり遂げた。
感染対策による計画変更と上層部の不祥事の影響で目まぐるしいなか、パラリンピックムーブメントのみに集約し共有するランスタのコミュニティをベースに多くの仲間をあつめ「東京パラリンピックのレガシー」を体現する計画をブレることなく着々と進めてきた。
「2012年ロンドンパラの開会式ではまんべんなく障害のある人が活躍していたが、当時の日本ではワークショップにすら参加する人がいなかった」と栗栖氏は当時を振り返る。
この現実のもと「日本ではできないのでは?」と感じていたが、森田かずよさんら身体に障害のあるダンサーが、1日2回のケアを必要としながらもプロとして舞台に立ちたいと願う様子をみて、「障害のある人が舞台に立つことは、誰もが障害を理由にあきらめなくていい環境を作る」と決心したという。
東京大会では、障害のあるダンサーを支える「アクセスコーディネーター」「アカンパニスト」、セレモニーの鑑賞を支える「コメンタリーガイド(=障害の有無にかかわらずセレモニーを楽しむための字幕と声によるガイド)」の役割を定義して実践した。
最後に栗栖氏は「東京パラリンピックの開会式でみせた多様性を2030年の札幌ではオリンピックでの当たり前にしたい」とビジョンを示した。
為末氏、遠藤氏、栗栖氏の3人で目指した「日常の風景を変えよう」という豊洲会議で形づくられた想いや議論はランスタを中心としたパラスポーツのコミュニテイを形成した。東京2020の貴重なレガシーといえるが、この報告会では新たなスタートラインも確認された。
ロンドン2012がそうであったように東京大会後の日常をさらに変える働きかけとして続いていく。
<参考>
Deportare Partners: デポルターレパートナーズ
https://www.deportarepartners.tokyo/
Xiborg: サイボーグ
SLOW LABEL: スローレーベル
<オンライン配信>
新豊洲Brilliaランニングスタジアム報告会