ここにきての円高回帰の要因
新年度入りしてからの東京株式市場は大きく下落し、4月1日に日経平均は262円安となり、2日には一時12000円割れとなっていた。この下落の背景には、期初の売りとかが指摘されている。当然その影響も大きいと思うが、それだけではないと思われる。
そのひとつの要因として、1日に発表された日銀短観がある。この日銀短観によると、大企業の製造業DIはマイナス8ポイントとなり、前回の調査を4ポイント上回り、3期ぶりの改善となった。海外経済の回復や、円安により輸出関連企業の業績改善などが背景にある。アベノミクスの影響も少なからずあったとみられ、3か月後の先行きについても、大企業の製造業で7ポイント改善しマイナス1ポイントとなっていた。
ところがNHKなどでも報じられたが、大企業の経常利益は、今年度、3年ぶりに増加に転じる見通しとなった一方で、設備投資計画は4年ぶりの大きな減少となり、景気の先行きにまだ慎重な企業の姿勢が反映される格好となった。さらに大企業の製造業が想定する為替レートの平均は今年度は85円22銭で、昨年度に比べて5円近く円安になっているものの、93円近辺にいる現在の水準からみて、かなり抑え気味の予想となっている。
今後は再び円高に振れることも視野に入れている可能性がある。現実に外為市場の動きをみると、円安の動きはすでにブレーキが掛かり、円高が進みそうな地合になりつつある。
2012年7月にECBのドラギ総裁はユーロ存続のために必要ないかなる措置を取る用意があると表明し、欧州の信用不安を後退させようとした。9月のECB理事会では、市場から国債を買い取る新たな対策を打ち出し、これをきっかけに欧州の信用不安が後退した。償還期間が1~3年の国債を無制限で買い入れるとしたのだが、実際には買入はされずその期待感だけで市場は反応した。
このようにして、昨年の9月あたりから外為市場では円高調整が始まった。その後、11月あたりから円安の速度が加速したのは、アベノミクスをきっかけとしてヘッジファンドなどが円売りを仕掛け、流れが一気に加速したことによる。ところが、この円安の流れはユーロ円でみると今年2月上旬、ドル円でみると3月半ばあたりでいったんピークアウトした。
これには2月12日にG7が緊急共同声明を発表し、為替レートを政策の目標にはしないと明記したことがひとつのきっかけになったと思われる。少なくとも日銀による外債購入というかたちでの円安誘導は封印された。そして、3月に入るとギリシャ財政危機の影響でキプロスの金融危機が深刻化した。キプロス政府は3月16日に全銀行口座からの引き出しを制限する預金封鎖を開始したことなどがきっかけとなり、一時不安感も強まった。つまりアベノミクスの手段のひとつが封じられ、さらに円安の根本的な要因となっていた欧州の信用不安が再燃したことで、円安にブレーキが掛かり、再び円高の動きが出てきたといえる。
もうひとつ、アベノミクスへの過度の期待が剥がれてきたことも、要因としてあげられよう。アベノミクスは三本の矢というが、一本目の次元の違う大胆な金融緩和という期待に負うところが大きい。実際、日銀総裁・副総裁人事では安倍首相の意向に沿う人物が選ばれた。ところが、新体制となって初の金融政策決定会合を控え、出てきた観測は次元はあまり違わず、これまでの路線の延長上にあるものばかりとなった。むろん、あまり大胆なことをすると財政ファイナンスと市場で認識されかねず、このあたりのバランスを取るのが難しく、現実にはあまり大胆な政策は困難であったはずで、このあたりも認識されての円高の動きの可能性もある。
期待で動いた相場は、期待が後退してしまうと当然反動がくる。その期待感を維持させるにはどうしたら良いのか。そもそも期待だけでデフレが解消、というよりは成長率が上がり、雇用も回復し、賃金も上昇し、その結果として物価が上がるとの考え方そのものに、やはり無理があるとの認識も次第に出てくるのではないかと思われる。