中国政府によるハイテク企業の締め付けは金融市場に影響を与えるか
大手配車サービスの「滴滴出行(DiDi)」は6月末にニューヨーク証券取引所でIPOを果たしたが、上場からわずか2日後の7月2日に、中国のサイバースペース管理局は中国全土において、DiDiの新規会員登録の停止、4日には同社のアプリケーションの削除、さらに9日には同社系列のアプリ25件全体の削除を命じた。
アリババ傘下の電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループは昨年11月の中国本土・香港上場に向けIPO計画を進めていたが、当局からの指摘を受け、上場直前で中止となった。
8月には港株式市場で、テンセント・ホールディングス(騰訊)株が一時11%近く急落した。国営新華社通信系の国営紙・経済参考報はゲームを「精神的アヘン」「電子薬物」だと批判し、テンセントはその後、12歳未満の子供に対する全面的なゲーム禁止に踏み切る可能性を示した
これらの動きを受け、株式市場から1兆ドル以上の時価総額を失わせたとしているが、中国政府によるハイテク企業への締め付けは始まったばかりとの見方も出ている。
中国政府は8月30日に18歳未満の未成年がオンラインゲームをプレイできる時間を金曜日、週末、祝日の現地時間午後8時から午後9時に制限した。ゲーム依存症に対する懸念に対応したものとされるが、大手ハイテク企業の取り締まりを強化する動きにともなったものとして投資家は警戒している。
中国の習近平指導部は、貧富の差を是正しすべての人が豊かになる「共同富裕」を目指すとして、所得の高い人や企業に寄付などを促す方針を示した(31日NHK)。
これは明らかな格差是正の動きといえる。テンセントが、所得の低い人を支援するため日本円で8500億円を拠出すると発表したほか、ネット通販大手の「ピン多多」が農家を支援するために1700億円を拠出すると発表した。これは引き締めを少しでも緩和させようとの動きにもみえなくもない。
中国におけるハイテク企業が急速に成長し、一部の起業家が膨大な資産を持つようになった。その典型が、アリババ創業者のジャック・マー氏であろう。ジャック・マー氏は一時行方がわからなくなったが、中国政府への批判がきっかけともされた。資本主義社会の典型のような資産家を中国政府が許せなくなってきているとも思える。
中国政府は経済成長を促したハイテク企業に対し、対応を変化させてきたことは確かである。経済成長に犠牲を払っても今後さらに締め付けを強化してくることも予想される。いまのところネット企業がターゲットになっているが、これが製造業などに及ぶとさらに株式市場などに影響が出る恐れもある。