旧統一教会問題の公開質問状 自民の総裁候補全員が「回答なし」 被害者をないがしろにしているとみる理由
9月12日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、自由民主党の総裁選、及び立憲民主党の代表選の候補者宛てに「旧統一教会問題についての公開質問状」を出しました。
9月18日に司法記者クラブで会見を行い、立憲民主党の代表候補者4人からは、旧統一教会の問題についての取り組みに強い姿勢を感じる答えがあったものの、自由民主党の総裁選9人の候補者全員から回答がなかったという報告がありました。
「回答なし」は、今後の旧統一教会問題の取り組みへの姿勢の表れか
今回、安倍晋三元首相と旧統一教会の幹部らの面会写真が公になることで答えづらいところもあったのかもしれませんが、せめて質問の5項目のうち1番目の「旧統一教会の被害者救済及び被害抑止に今後、どのように取り組んでいくお考えでしょうか」の質問にはしっかりと答えるべきではないでしょうか。
木村壮弁護士は「自民党の議員の先生方から回答いただけなかったことについて、非常に残念に思う」として「不当寄附勧誘防止法と特定不法行為等被害者特例法ができたことで、この問題が解決したわけではありません。この問題は終わっていない」と述べていますが、今回の総裁候補者の「回答なし」こそが、今後の旧統一教会問題への自民党としての取り組みの姿勢をみる思いです。
安倍氏ら議員に「付き合いはやめてください」とお願いしてきたが無視された過去
山口広弁護士は、文部科学省が旧統一教会に対して解散命令請求を行った際に文部科学省が公表した文書をもとに次のように話します。
「本件宗教法人(旧統一教会)の損害賠償請求を認めた判決が32件あるとして、169人の被害者について、遅くとも昭和55年以降、多数回にわたって被害が生じていたとしています。この判決以外にも、民事訴訟を提起して419人が和解して、献金などの返還を求めての代理人による交渉の結果、示談が成立した方が971人いるとしています。全体で1550人となり、解決金などの総額が約204億円となっています。これだけの被害が起きていることを政府も認めています」
「こういう被害を組織的に長年、引き起こしてきた宗教団体と政治家が付き合うことがどういう意味を持つのかについて、私どもは安倍晋三さんをはじめとした統一教会につながりがある政治家の方に、再三『被害者を生み出すことになるから、付き合いはやめてください』とお願いしてきました。しかし安倍晋三さんからは無視され続けました。そういう事実があったことを踏まえて、自民党の先生方にもぜひ統一教会との付き合いについては断絶することを、文書でもきちっと回答いただきたかった」と話します。
旧統一教会に批判的な者たちをサタンとみて、組織的に激しく攻撃してくる教団に対して、長年全国弁連の弁護士たちは第一線に立って戦い、被害救済をしてきました。そうした人たちの質問に回答しないことは、被害者をないがしろにしていることに等しいことです。
ロビイスト規制法の必要性
紀藤正樹弁護士はフランスやアメリカのようなロビイスト規制法の必要性も訴えます。
「ロビイスト規制法を使って、アメリカのフレイザー委員会では、統一教会が政治へ浸透していく過程を緻密に調べて、最終的に脱税で(教祖らを)逮捕、起訴した歴史もあります。日本でもロビイスト規制法を作っていれば、こういう(安倍晋三さんと教団トップの)写真はなかったかもしれないのです。なんでこんな写真が出てくるのかというと(誰と会ったのかが)ガラス張りになっていないからです。写真に出てくる人たちは、韓国発の統一教会という団体の幹部であり、投票行動のあり方に対して安倍首相と密談、陳情している姿ですよね。これは明らかにロビー活動です。これが本当に日本の国防や国家危機管理のあり方として正しいかといわれたら、私は正しくないと思うんです。国防や危機管理のあり方がまさに議論されるべき時にきている」としています。
党の不信を招いているのは、統一教会問題。これを抜きには語れない
阿部克臣弁護士は「自民党から回答がこなかったのは非常に残念だ」として「候補者の方が新しい自民党を作るとか、新しい景色を見せるとか、党の改革を訴えています。党の不信を招いているというのは、お金の問題だけではなくて、統一教会の問題を抜きには語れないと思います。この問題に正面から取り組んでこそ、初めて、党の改革が国民の信頼を得て、勝ち得るものだと思います。今後、統一教会への取り組みについて、本気度を示す発言を各候補者にはお願いしたい」といいます。
4人の立憲民主党の代表候補者からの回答
木村弁護士は、立憲民主党の代表候補者らの回答について話します。
公開質問状の質問1について「立憲民主党の各議員の先生方からは、今後も被害者の支援に、被害者救済、被害防止のために積極的に取り組むという趣旨の回答をいただいています。枝野幸男議員からは、財産散逸と隠匿防止に向けた法的枠組みの整備が急務であり、脱会者のメンタル的なものも含めた支援が必要である、カルト被害に対する理解を深めるための啓蒙活動も必要がある」と具体的な回答をもらっているとしています。
吉田はるみ議員も回答のなかで「これまでも、旧統一教会被害対策本部の会議や国対ヒアリングに積極的に出席して、財産保全に関する法案も提出し、この問題に意欲的に取り組んできた。今後も取り組んでいく」としており、立憲民主党は、党をあげて被害者らの声を数多く聞いているだけに、この問題の深刻さや課題の多さに気づいていることがわかります。
質問2は「今後、先生ご自身や国会議員は旧統一教会及びその関連団体との交流や連携についてどのように対処すべきとお考えでしょうか」です。
「皆様から、関係は一切絶つべきだという趣旨の回答をもらっています。野田佳彦議員からは『党内のガバナンスに実効性を持たせ、こうした関係が生じないようなチェック体制を確立することが有用である』ということで、ガバナンスの重要性についても触れていらっしゃいます」(木村弁護士)
3番目の質問は「2022年12月10日に成立した『不当寄附勧誘防止法』では附則で2年後の見直しが明示されています。どう対処するべきと考えているのか」です。泉健太議員は回答のなかで「マインドコントロールの規定と禁止は盛り込まれず、寄附の取り消し要件が厳しく立証が困難であること、本人や家族の救済手段である債権者代位権の行使は現実的ではないことなど、法案審議で明らかになった救済への課題解決のための見直しを行うべき」としています。
4番目の質問は「解散命令後の清算手続において被害者の救済を図るためには、被害者の支援や統一教会による財産隠匿の防止などについて実効性のある立法が必要と考えますが、立法の必要性についてどうお考えでしょうか」です。
「各先生方から、解散命令後の財産隠匿の防止についてはさらなる立法が必要だという見解をいただいています。枝野議員の回答では『財産保全を命じる、裁判所の権限強化や清算人の役割の拡充といった法改正の必要性や、清算手続後の残余財産が適切に扱われるよう立法による明確な規定を設けるべき』という趣旨の回答をいただいています」(木村弁護士)
自民党総裁候補者が回答しなかった理由
今回、候補者9人が質問に答えなかったことについて、その理由が見えてきました。
会見が行われた夜に、弁連側に小泉進次郎選挙対策本部より「各方面からのアンケートにつきましては、党からの通達により、回答を見送らせて頂きます」と送られてきています。
どうやら自民党本部総裁選挙管理委員会から「総裁選挙に関する各種アンケート等への対応について」と題した「対応について自粛」の通達がきているためだったと思われます。しかしこれが総裁候補者9人の「回答なし」の理由だとしたら、愕然とします。法律を二つも作る契機となり、教団の解散命令請求のために尽力した全国弁連の行う公開質問状を、各種アンケートのたぐいとして扱い、対応していることになるからです。
旧統一教会による被害は、政治家らが教団関係者とつながりをもち、被害者やそれに携わる弁護士らの声に耳を傾けないことで起きました。いわゆる政治の不作為が被害を大きくしたといえます。今回の「回答なし」の行動に、同じことを繰り返される恐れを抱いています。
旧統一教会の被害者のために最前線にたち、命がけで戦ってきた人たちの言葉に応じないことは、被害者をないがしろにする行為であり、今後の自民党の旧統一教会問題に対しての姿勢であるとみなされても仕方のないものだと考えています。