報道各社が伝えきれない「中朝原油ゼロの焦点」輸出は本当にストップされたのか?
23日、中国の税関当局は2014年の貿易統計を公表したが、中国から北朝鮮への原油の輸出量がゼロだということがわかった。年間50万トンといわれる中国からの原油は北朝鮮にとっては生命線である。
中国税関が発表した統計については、NHKや日経新聞など各社が報道した。
仮に「原油ゼロ」が事実なら、既に北朝鮮体制に何らかの異変が起こっていてもおかしくない。しかし、今のところ北朝鮮内部からそのような徴候は見られない。そのせいか、各社の報道は「実際には中国から原油が送られているのではないかという見方もある」や「原油供給は別の形で続いているとの中朝関係者は多く・・・」などと締めくくりは歯切れが悪い。
結論から述べると「統計上はゼロ」だが原油の輸出は続いている可能性は極めて高い。本稿ではその根拠について述べてみたいと思う。
中朝国境で明らかになった原油ゼロの虚偽
統計上、原油の輸出は昨年1月からゼロになっているが、デイリーNKは中国現地取材を通じて、昨年5月の時点で原油が輸出されていることを確認している。
中朝間の経済に詳しい堀田幸裕(霞山会研究員)も「実は輸出されている」可能性を指摘している。
「統計上はゼロですが、実際には輸出されていると思います。過去には、2009年8-11月の原油輸出で「朝鮮(北朝鮮)」の項目ではなく「その他アジア諸国」に算入されているのでないかと思われる不可解な操作がありました」
堀田氏は、統計上の数字に意図的な改ざんがある可能性を指摘する。また、中朝国境ではガソリンや軽油がトラックで輸入されることも多く、その数字を中国税関が全て把握することは不可能だ。
昨年12月に中朝国境を訪れた旅行者によると、中朝国境の交易は相変わらず盛んに行われており、トラックの往来も従来通りだったという。
さらに堀田氏は北朝鮮側から中国側へ「あるモノ」が輸出されていることに注目する。
北朝鮮から中国へ輸出されるエチレンガス
「中国から輸出された原油は、平安北道の烽火化学工場で精製され北朝鮮全土に回ります。実は、この工場で原油の副産物として生産されるエチレンガスが2014年も継続して中国側へ輸出されているのです。これだけ見ても原油輸出が停止していないことになります」
堀田氏は、2014年7月に中朝国境の河川においてパイプラインから原油が流出したことを想定した模擬演習が行われたとのニュースを丹東市のウェブサイトが報じているのを確認している。
「パイプラインが稼働停止していれば、そもそもこんな演習をする必要がないでしょ。もし原油が入っていなければガソリンやディーゼル油などの「加工油」として入っているかもしれませんが、少なくとも2014年10月までの統計では北朝鮮の中国からの製品油輸入量がそれほど増えてはいません」
北朝鮮が慢性的な燃料不足であることは間違いない。しかし、繰り返すが2014年の原油がゼロだとすると既に大きな影響が出始めてもおかしくはないが、現状ではそのような徴候は見られない。むしろ、平壌市内ではタクシー会社が設立されるなど、ガソリンの需要も日増しに増えている状況だ。
「原油輸出ゼロ」の統計発表の裏には、中国の何らかの政治的思惑があるのだろうか。韓国では「中朝関係の冷え込みから中国は北朝鮮を崩壊させようとしている」「いや裏で輸出されている」などと、原油ゼロに焦点があてられ論争を呼び起こしたが、いまだに決定的な結論は出ていない。
筆者は、昨年6月に中朝国境を訪れたが、現地の中朝関係者から「張成沢処刑直後は中朝交易が若干停滞したのは事実。でも4月ぐらいから徐々に復活しつつある」という話を聞いた。実際、中朝間の人や物の往来は行われており、極端に減少したという印象はうけなかった。
そうでなくとも、北朝鮮経済は「統計上の経済」と「実体経済」に大きな差がある。どちらが真実かという論争よりも両方の視点から事実を積み上げて実体を探るしか方法はない。
中朝間が政治的に冷え込んでいるのは間違いない。だからといってすぐさま両国が断絶状態になって「中国が北朝鮮を崩壊させる」と飛躍するのは、いささか早急すぎるだろう。