桑田佳祐、佐野元春、山下達郎…ベテランの「メッセージソング」が心に響く理由【月刊レコード大賞】
この5月の話題は、世情を反映してか、「メッセージソング」が賑わったことでした――と、メッセージソングという言葉に「 」(カギカッコ)を付けたくなるのはなぜか?
というのは、作って・歌った本人たちが、「メッセージソング」だと思っているかどうか分からないからですが、そもそも「メッセージソング」という言葉が、そういう気を遣わせる、ちょっと古めかしくって、面倒くさい言葉だからです。
それでも、昔から「メッセージソング」好きだった私には、今回紹介する2曲は、十分に「メッセージソング」だと思いました。そして、こういう曲が世に出ていくことで、古臭い「メッセージソング」観が更新されればいいなと思います――なので、ここからは「 」(カギカッコ)を外します。
桑田佳祐と同級生(1955年4月~1956年3月生まれ)らによるプロジェクト、「桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎」名義の『時代遅れのRock'n'Roll Band』(作詞・作曲:桑田佳祐)。
――♪この頃「平和」という文字が 朧(おぼろ)げに霞(かす)んで見えるんだ
――♪No More No War 悲しみの 黒い雲が地球を覆うけど
歌詞だけを見ると、そうとう直球のメッセージソングです。でも、この曲のいいところは、このようなメッセージを、眉間にシワを寄せてではなく、明るく、あっけらかんと歌っているところです。
そういう意味ではこの曲、サザンオールスターズ『ピースとハイライト』(13年)や桑田佳祐のソロ『Rock And Roll Hero』(02年)の後継と言えると思います。お時間ある方は、この2曲の歌詞をたどってみてください。
歌詞に隠しネタが込められています。サビの「♪One Day Someday」はおそらくKUWATA BANDの『ONE DAY』(86年)と佐野元春『SOMEDAY』(81年)をくっつけたフレーズ。もっと分かりやすいのはビートルズ『ツイスト・アンド・シャウト』の引用。
そもそもタイトルからして「時代遅れのRock'n'Roll Band」で、エンディングは「ダサい Rock’n’Roll Band!!」とかなり自虐的。
いずれにせよ、「メッセージソングは眉間にシワを寄せず、拳を突き上げず、明るく、あっけらかんと歌うんだ。その方が広がるんだ」という桑田佳祐のメッセージソング論が垣間見える気がします。それでも、このパンチラインには深く考えさせられるのですが。
――♪子供の命を全力で 大人が守ること それが自由という名の誇りさ
今月、私の耳に飛び込んできたメッセージソング、もう1曲は、山下達郎『OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)』(作詞・作曲:山下達郎)。
こちらは山下達郎らしく、淡々とした仕上がりですが、それでも「♪許してはならないこと あったはずじゃなかったのか」という歌詞に背筋が伸びます。そして世界のことを歌っているようでいて、世界の中の我が日本に刃を向けている気さえするのです。
話を冒頭に戻します。その昔、音楽雑誌などで、「メッセージソングは有効か?」という議論が、何度も何度も繰り返されました。そういえば、2016年のフジロックフェスティバルでは「フジロックに政治を持ち込むな」という声が上がりました。
確かに、メッセージソングが有効かどうかなんて分かりません。まるっきり無効かもしれない。でも、だったらラブソングは有効なのか。ラブソングを歌ったり聴いたりしたら、恋愛は成就するのか。
ロックミュージックは、何でも歌っていいと思うのです。有効か無効か、なんてことを考えずに、つまらない忖度などせず、歌いたいことを歌う。関心事をダイレクトにテーマにする音楽だ――。
と考える、昭和の音楽雑誌を読んできた私よりも、さらに上の世代から、新しいメッセージソングが次々と生まれて、日本の「メッセージソング」観が更新されようとしている。これは、とても喜ばしいことです。
でも。
「こんな曲、マジで時代遅れでダサいよな!」という声が、若い音楽家から上がってくればいいとも思うのです。それが、ただの言いっぱなしではなく、もっと新しく更新されたメッセージソングをたずさえて、であれば。