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女性記者にだけ態度が違った? 山口さん会見での主張「矛盾があるとは思ってない」とは

小川たまかライター
(写真:Motoo Naka/アフロ)

 伊藤詩織さんが起こした民事裁判で敗訴となった山口敬之さんが12月18日に行われた記者会見で、東京新聞の女性記者からの質問に対し「質問をやり直してください」などと言う場面があった。

 東京新聞の記者が確認したのは、事件時に使われたベッドについての山口さんの供述が判決で「不合理に変遷しており,その信用性には重大な疑念がある」とされた部分について。

 供述内容が「メールとその後で変わっているのはなぜなのでしょうか」と聞いた記者に対し、山口さんは「まずあなたの質問が非常にトリッキーなのは供述が変わっているとおっしゃいましたが、供述は変わっていないんですね。もう一度、質問をやり直してください」と返した。

 記者が「今日の判決要旨にも出てると思うのですけど」と重ねると、「だから今見ているんです。なんですか?」。

 さらに「裁判資料をご一読していただければ」と続け、「私としては矛盾があるとはまったく思っていないので」と話した。ツイッター上ではこのような山口さんの記者への態度について注目が集まり、「威圧するマウンティング」「パワハラ」などと言及されている。

 東京新聞記者の言う通り、判決要旨では、この部分について「矛盾」「不合理に変遷」と判断されている。

「(メールの内容は)原告に呼ばれたために被告が窓側のベッドから原告の寝ている入口側のベッドに移動したとする本人尋問における供述内容と矛盾するものである。被告の供述は,本件行為の直接の原因となった直近の原告の言動という核心部分について不合理に変遷しており,その信用性には重大な疑念がある」(判決要旨)

 判決要旨で「矛盾」と判断されている部分について聞く記者のこの質問は、個人的に充分理解できる。

 また、判決文において「矛盾」「信用性に重大な疑念」と判断された箇所について、「私としては矛盾があるとはまったく思っていない」と主張するだけでは反論になっていないのではないか。

 私は今年7月8日に行われた民事裁判を傍聴している。6時間にわたる口頭弁論の中でも、この部分は特に印象的だった。当時のメモをたどれば、次のようなやり取りが法廷で行われていた。

 原告側の代理人(伊藤さん側の弁護士)による被告人尋問の場面である。

原告側弁護士「ドア側のベッドをA、窓側のベッドをBとして、それぞれが使用したベッドを教えてください」

山口さん「伊藤さんをAに寝かせ、そのあとBに私が横たわった

弁護士「性行為が行われたのはどちらのベッドですか?」

山口「Aです」

弁護士「(4月18日に)伊藤さんへ送ったメールで『ゲロまみれのあなたをベッドに寝かせた』とありますが、これはAのベッドということですか?」

山口「そうです」

弁護士「(伊藤さんへのメールで)『(トイレに立った伊藤さんが)私の寝ていたベッドに入ってきました』とありますが、これはどちらのベッドですか?」

山口「Aです

 山口さんが「Aです」と答えたとき、傍聴席が軽くざわついた。「Bに横たわった」はずの山口さんが「私の寝ていたベッド=A」と答えたことになるからだ。矛盾している。

 山口さんはこのあと、「(メールの中の『私の寝ていたベッド』とは)宿泊したホテルの私のベッドという意味」と述べたが、苦しい説明だと感じた。裁判所の下した判断は、「矛盾」だった。

 この他にも、山口さんへの尋問について気になった点はいくつかある。伊藤さんに対して送った「吐瀉物が公的書類にかかり再発行の手間がかかった」という内容のメールについて、なんの公的書類かと聞かれて、「覚えていない」。

 また、伊藤さんが嘔吐したにもかかわらずシャワーも浴びずに早朝にホテルを立ち去った点について、同意の性交であったのであれば不自然ではないかと問われると、「それは伊藤さんに聞いてください」と返した。伊藤さんの主張は、同意のない性交が行われたから、である。

 判決ではこの点について、「原告が被告との間で合意の下に本件行為に及んだ後の行動としては,不自然に性急であり,むしろ,本件ホテルから一刻も早く立ち去ろうとするための行動であったとみるのが自然」としている。「伊藤さんに聞いて」ではなく、山口さんが当時どう感じたのかを知りたいと感じた。

 19日に外国特派員協会で行われた記者会見で、山口さんは「伊藤さんがウソをついているとしたら彼女はなぜウソをつくのか。彼女の動機は?」という内容を問われている。これは口頭弁論でも、類似の質問が女性裁判官から行われていた。

 その際、山口さんは、「最初は妊娠の心配をしていただけだったのが、途中から話がエスカレートした。彼女の心が変遷していったと理解している」といった内容の回答をした。

 しかしこのような推測を成立させるためには、山口さんの証言にそれなりに整合性や信ぴょう性があってこそなのではないか。

【関連】「伊藤さんから積極的に誘ってきた」山口敬之さん、伊藤詩織さんの主張に反論(2019年7月12日弁護士ドットコムニュース)

 下記のようなやりとりも気になった。

(18日の記者会見)

北海道新聞の女性記者:著名な記者である山口さんが、いわば就活生である伊藤詩織さんと、合意があっても性行為することは適切だと思いますか?

山口さん:(一部省略)あえていえば適切ではなかったと今思っています。これでいいですか?

記者:なぜ適切ではないと思いますか?

山口:道義的な部分をここで掘り下げられもお答えしません。私の犯罪ではない行動をあなたに詳細に謝罪する気もないしここで弁明する気もない。(声を荒げて)違法でないことで。たとえば駅で長谷川さん(記者の名前)がゴミを捨てたじゃないかと言われたとしてね、してないよ、いやしましたという議論をこういう会見の場ですることが適切か…(後略)

 記者は「謝罪してください」などとは言っていないし、「してないよ、いやしました」という議論を吹っかけているのではない。

(19日の記者会見)

ジャーナリストの江川紹子さん:(前略)昨日の記者会見で、山口さんが本当のレイプの被害者であんなふうに笑ったりしないと仰ったと報じられている。山口さんが思ってらっしゃる普通の被害者とは(後略)。

山口さん:江川さんの質問が非常に不正確。私は性犯罪に遭った方が笑ったりしないと言ったりしていません。会見を確認してください。それに類する、誤解を江川さんがしたとしたら、昨日の記者会見では、私のところに性犯罪被害を受けた女性からご連絡をいただいた。その方が私に、ご本人として本当に被害を受けた人の表情や行動についてご説明下さった。そのくだりについて類似の説明をしましたが、私が性犯罪被害者がこういう行動をすると申し上げてませんので、そこは訂正してください。(要約)

江川:なぜそこを引用なさったんですか。

山口:私が記者会見でどこを引用するかどうかを、江川さんにご指示や批判される筋合いはありませんね。

江川:理由を伺っているだけです。

 山口さんは説明を求める記者からの質問を「指示や批判」と捉えているように見えた。またツイッター上では、女性記者に対してのみ受け答えが違って見えることを指摘する声が上がっている。

 19日の記者会見では江川さんが「理由を伺っているだけです」と口にしているが、7月8日の口頭弁論でも似た場面があった。山口さんに質問した女性弁護士が最後に、「矛盾を指摘しているのではなく、(山口さんがメールで主張した“証人”が)いるなら誰かを聞いたまでですよ」と諭すように言ったのだ。

 口頭弁論では、伊藤さん側の6人の弁護団のうち、男性弁護士と女性弁護士1名ずつが山口さんに尋問を行った。傍聴者の中には「女性弁護士と男性弁護士で山口さんの対応が全然違った」と感想を漏らす人が複数いた。私もそのように感じた。

 付け加えれば、あくまでも私の個人的な印象だが、山口さん側の弁護士が伊藤さんに被害時の状況を繰り返し聞いたり、セカンドレイプにあたる質問を行ったのに対し、伊藤さん側の弁護士は淡々と冷静に山口さんへ質問を重ねていた。

 山口さん側の弁護士は現在、伊藤さんに言及したブログの内容について「品位を失うような非行があった」とされ懲戒審査が行われているが、裁判中にもどちらが相手への最低限の礼儀を欠いていたかは明白だった。

【関連】

【伊藤詩織さん裁判傍聴記】法廷で一体何があったのか?性犯罪被害者を支援する立場から(2019年7月12日/HUFFPOST)

6時間の口頭弁論 伊藤さん「痛みで目が覚めた」、山口さん「なだめる気持ちで誘いに応じた」(2019年7月9日/Yahoo!ニュース個人)

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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