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北朝鮮が「拉致再調査報告」の延期を通告…立て直しが迫られる日本の対北朝鮮政策

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

昨年のストックホルム合意から一年が経った。日本政府は3日、北朝鮮側が、日本人拉致被害者らの再調査期限(4日)を前にした2日、北京の大使館ルートを通じ、「もう少し時間がかかる」という連絡をしてきたと明らかにした。

北朝鮮側からの調査結果が延期されたことに対して横田めぐみさんの母親・早紀江さんは「家族も被害者も長い間帰国を待ってきました。政府はもっと強い姿勢で取り組まないと、また何年たっても同じことが繰り返されるのではないか」を懸念を示した。また、被害者家族からは「いつまで待てばいいのか」という怒りの声とともに日本政府の対北戦略への疑問の声もあがったという。

おそらく今後は、北朝鮮に対する圧力を強めるべしという意見が多くなるだろう。すでに、追加制裁の要望もあり、昨年9月に一部解除した制裁の再開も考えられる。また、総連に対する新たな捜査の声もある。日本側が納得出来る回答を引き出すためにさらなる圧力をかけるというが、問題は、今後も今の方法で北朝鮮が動くのかどうかである。

つい最近、記憶に新しいものといえば、「総連マツタケ捜査」をあげなければならない。一部メディアが北朝鮮産マツタケの不正輸入事件について、日本政府による「対北朝鮮圧力」と関連付けて報道していたが、公安関係者でさえ「朝鮮総連を捜査しても、平壌はまったく痛痒を感じないだろう」と述べるほどいささか強引で、かつ的外れな捜査だったことは否めない。

今回、北朝鮮側から何らかの回答が出ていたなら、「マツタケ捜査」に関する筆者の見立ては間違っていたことになるが、現実は「成果は出ていない」。少なくとも現時点では、「マツタケ捜査」は、当初、言われていた以上の効果がなかったと言わざるをえない。

そもそも、日本政府が2006年に独自制裁に踏み切ってから、9年が経つのである。昨年、北朝鮮が歩み寄りを見せ、ストックホルム合意が交わされた時、制裁強硬論を唱える陣営からは「これぞ制裁の勝利だ!」とあたかも勝利宣言のような声があがったが、日朝がやっと交渉のテーブルの席についただけであり、勝利どころか勝負が再開しただけだった。そして、一年たってこの結果である。

北朝鮮と本気で交渉をする気があるのなら、その場しのぎの圧力やパフォーマンスではなく、より戦略的で効果的な圧力、そしてタフな対話による交渉が必要だろう。拉致問題以上に、国際的問題である核・ミサイルにおいて、世界の二大大国である米国と中国が、北朝鮮のタフな外交戦略に手を焼いているのだ。たかだかマツタケ捜査で、北朝鮮が10年以上続けてきた頑なな姿勢を変えることが出来ると思うこと自体が、あまりにも的外れと言わざるをえない。

また、ちまたで言われている「経済的に追い詰められた北朝鮮は、日本に頼らざるをえない。また向こうからすり寄ってくる」という見立てにも、疑問を呈したい。中長期的に北朝鮮が、日本から経済支援を狙っていることは間違いない。

しかし、仮に今、北朝鮮が日本に全面的に歩み寄ったとしても、日本側がそう簡単に北朝鮮に対して経済的見返りを与えるとはならないだろう。ちなみにこうした見立ては、経済制裁を発動した2006年から毎年言われてきた。確かに、北朝鮮はストックホルム合意で歩み寄りを見せたが、実に8年もかかっていることを、今一度思い返した方がいい。

こうした状況が来年、再来年と続くようであれば、拉致問題に対する世論の関心もどんどん薄まるだろう。同時に、遺骨問題、日本人妻問題も先送りにされ、最悪の場合、日朝交渉自体が、途切れるという最悪の事態も考えられる。

日朝交渉の今後の見通しについて、参議院議員の有田芳生氏は次のように述べた。

「日本政府は、いつまでも報告を受け取らないわけにはいかない。しかし、北朝鮮が10月10日の朝鮮労働党創建70周年に合わせて、ミサイルを発射すれば、日本政府は厳しい対応を取らざるをえなくなり、日朝交渉が途絶えることも考えられる。そうなれば被害者にとっても家族にとっても「最後の機会」が失われる」

最後の機会を失わないためにも、日本政府はこれまでの対北朝鮮政策を改めて検証し、今後に向けて立て直す必要があるのではないだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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