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遠藤航、優れた素質を持つがゆえに生まれるハリルジャパンでの苦悩

神谷正明ライター/編集者
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

遠藤航の特質とは

遠藤航は「見える」選手である。常にピッチ上における味方と敵のポジションを把握し、試合展開を把握し、そこから自分が取るべきポジション、役割を演算する。童顔なルックスとは裏腹に、プレーは実に大人びている。

その遠藤の特質は所属クラブの浦和レッズでは必要不可欠なものになっている。移籍1年目の遠藤は、攻撃にリスクをかけるチームにあって、最終ラインの安定装置として機能している。浦和がピンチを迎えるのはカウンターの局面が多いが、ボールを失った瞬間に遠藤が「そこにいてくれたから」ピンチにならなかったという試合は少なくない。

日本代表でもチームメートの槙野智章、西川周作をはじめ、多くの選手たちが、彼の加入によってチームの守備が大きく安定したことを認めている。新天地でわずか数ヶ月で最終ラインの要であるリベロを託されたのには、それだけの理由がある。

しかし、ハリルジャパンでは今のところ自身の存在をアピールし切れていない。

広く知られているように、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は選手に「デュエル」、つまり守備時に敵に強くアタックにいくことを求める。読みで勝負するDFの場合、実は局面の攻防を苦手としているということがしばしばあるが、遠藤にはまったくそれは当てはまらない。むしろ、球際の強さは浦和でも際立っているし、本人も自信を持っている部分だ。

「見える」がゆえの苦しみ

だが、遠藤は試合状況が「見える」という優れた特質を持つがゆえに、ブルガリア戦では球際に強いという別の長所をあまり見せることができなかった。

ブルガリア戦、遠藤は76分に長谷部誠と交代してピッチに立ったが、この時間帯は全体的に間延びしていた。また、遠藤が出る前に日本はすでに4人も交代しているが、これまであまり出場機会のなかった選手が多かったこともあり、守備で意思疎通を図るのは容易ではなかった。

一方で、ブルガリアには中盤から後列に人数をかけてビルドアップをする傾向も見られていた。これについては柏木が「向こうはボール回しに専念してくるというか、怖くない位置で受けてはいるんだけど、(パス回しのうまい)川崎みたいに周りに人がいて難しかった」と述懐している。

そういった試合状況で、ボランチが勇猛果敢にボールにアタックにいくと、守備ブロックに穴を開けてしまい、そこからピンチを招く可能性が出てしまう。

もし、遠藤がとにかく目の前の敵に食らいついていく「猟犬型」のボランチであれば、そういったことは特に考えずにプレスをかけ、結果としてボールを奪ってアピールにつながったかもしれない。しかし、試合展開が「見える」ので、何でもかんでもボールにアタックということはできなかった。

試合後の彼のコメントを聞けば、その状況を理解していたがゆえに、迷いが出ていたことが分かる。

「途中から出て、守備でどう貢献するのかというところで、けっこうオープンというか、相手も間延びしていたので、前に行くべきなのか、後ろの選手を見るべきなのか、ちょっと曖昧になってしまって……。

監督はけっこう前に行け、前に行けという感じで言っていたんですけど、相手は中盤に人数をかけてきていたので、そこでどう抑えるかとか。いいところもありましたけど、球際とかシンプルにそういうところ、もうちょっと自分の良さを出さないといけなかったなと思います」

遠藤の武器であるカバーリングは、地味なプレーだ。遠藤がそこにいることで相手はパスを出さないので、一見すると「何も起きていない」のだ。球際にガツッといって、ボールを奪い取る方が見た目には分かりやすい。

また、これがクラブであれば、日常的にチームメートと守備の連動について確認し、それを試合に反映させるというサイクルを回すことで、カバーリングと球際にいくところの判断、精度の質を高めることができる。しかし、代表ではたまにしかチームを結成できず、それでもレギュラー組であればまだ刷り合わせもできるが、今の遠藤はまだ控え組の一人に過ぎない。

そういった状況のなか、デュエルを求める指揮官に遠藤がどういったプレーで回答を示していくのか。「見える」がゆえの苦悩を克服できたら、おもしろいことになりそうだ。

ライター/編集者

大学卒業後、フリーライターとして活動しながらIT会社でスポーツメディアに関わり、2006年にワールドカップに行くため完全フリーランスに。浦和レッズ、日本代表を中心にサッカーを取材。2016年に知人と会社設立。現在は大手スポーツページの編集業務も担い、野球、テニスなどさまざまなスポーツへの関与が増えている。

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