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テレビはもうキャスティングでは勝てない!? 話題の新SNS『Clubhouse』が破壊する番組の概念

谷田彰吾放送作家

 ウソみたいな光景だった。昨日の深夜の出来事だ。自分のスマホに有吉弘行や小嶋陽菜が集まってグループトークを繰り広げている。なんだか芸能人の長電話を盗聴しているような不思議な感覚…。そう、『Clubhouse』での話だ。

 新しい音声SNS『Clubhouse』が怒涛の勢いで広がりを見せている。「音声版Twitter」と呼ばれ、ユーザーが「部屋」を作ってトークする。そしてそれを他のユーザーが聞くことができる。文字も映像もない。音声だけでコミュニケーションをとる。「ラジオっぽいSNS」と呼ぶのが一番わかりやすいかもしれない。

 Clubhouseは招待制のSNSで、誰もが自由に始められるわけではない。だが、その「今始めないと乗り遅れる感」が逆に急速な広がりにつながっている。その流れは芸能界にも波及。始めたての芸能人たちが次々と部屋を立ち上げた。

 昨夜は、指原莉乃、藤田ニコル、フワちゃん、田村淳が集合。別の部屋では、ビビる大木、安田大サーカスのクロちゃん、元AKBの高橋みなみと小嶋陽菜、そしてあの有吉弘行がトークしていた。さらに別の部屋では、メンタリストDaiGo、小島瑠璃子、つるの剛士、遊助、乙武洋匡、書道家の武田双雲らが話し、聴衆の中にはなんと渡辺直美がいるという実に不思議な組み合わせもあった。金曜日の深夜に、スターたちが自分と同じ時間を共有している。体験したことのない世界。早くも“新しいコンテンツ誕生”の予感を漂わせている。

 私は放送作家としてテレビの現場で働いているが、Clubhouseには恐怖を覚える。見ての通り、上記の芸能人たちはまぎれもないスターだ。これだけのメンツを集めてトーク番組を作ろうとしたら、キャスティングにどれだけ時間がかかるだろう。ギャラだってかなりの金額がかかってしまう。だが、Clubhouseでは芸能人同士の「友人関係」だけで豪華なキャスティングが一瞬で成立してしまうのだ。(しかも0円で…)

 Clubhouseの脅威はまだある。テレビでは見られないキャスティングが毎晩のように実現してしまう点だ。メンタリストDaiGoはもはやテレビに出演しないタレントだ。人気がなくなったからではない。彼はYouTubeで200万人以上の登録者数を誇るトップYouTuberだ。自分のメディアで十分稼げるし、発信もできるからテレビに出演する必要がないわけだ。そんなDaiGoが、Clubhouseでは小島瑠璃子らテレビタレントと絡んでしまう。また、乙武洋匡や武田双雲といった文化人と交わっているが、こういった組み合わせをするテレビ番組はなかなかないだろう。つまり、新鮮なキャスティングのコンテンツが、24時間、いつでも発信される時代になったということだ。

 実は、同じ危機感は昨年にも感じていた。元関ジャニ∞の錦戸亮と元KAT-TUNの赤西仁が運営するYouTubeチャンネル『NO GOOD TV』の動画に衝撃を受けた。ジャニーズ事務所から独立し、テレビではめっきり見かけなくなった2人の姿が映るだけでもすごいのに、山田孝之、小栗旬、佐藤健、田村淳、宮川大輔、藤森慎吾、水川あさみ、藤原しおりといったスターたちが動画に出演したのだ。

 まるで学生時代に戻り、教室で人狼ゲームに興じているような彼らを見て、はたと考えてしまった。このメンバーを集めたバラエティ番組を作ることができるだろうか? 正直、難しいと思った。なぜなら、自分たちの「友人関係」という貴重なコンテンツをテレビに売るよりも、自分のメディアで発信した方が得だからだ。こうなってくると、テレビの価値観はいよいよ崩壊してしまう。

 Clubhouseは、この流れをさらに加速させる。俳優たちが始めるのも時間の問題だろう。これまでのSNSよりも境界線が曖昧で、参加しやすいからだ。TwitterもInstagramもYouTubeも、それぞれのアカウントが独立したメディアだった。だから自分のアカウントに人を呼ぶ場合は出演してもらう形になる。敷居を跨がせるということは利害関係が生まれる。だが、Clubhouseは今のところ個人というよりはグループ単位のメディアという印象だ。誰かのアカウントが一方的に得をするというようなことが生まれにくい。まだマネタイズができないためなおさらだ。

 また、Clubhouseがテレビに脅威を与える理由はキャスティング以外にもある。それは、「リアルタイムで楽しむ」という使い方のバッティングだ。Clubhouseにはアーカイブがない。その瞬間に楽しまなければならないコンテンツだ。テレビも基本的には一度放送されたら二度と見られないリアルタイムで見るべきコンテンツである。そういう意味でも、ユーザーの可処分時間の奪い合いは激化する。

 2020年は芸能人がYouTubeに大量参戦した。今年はClubhouseの年になるのか。いずれにしても、テレビにとっては新たなライバルが現れたのは間違いない。だが、Clubhouseを利用してテレビを盛り上げることもできる。作り手の意識とアイデアが問われる。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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