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妖怪、油すましとサウジアラビア

久保田博幸金融アナリスト

「妖怪、油すまし」と言えば、全身に蓑を羽織った妖怪で、峠に突如出現して通行人を驚かせる。正体は油を盗んだ罪人の亡霊とされている。妖怪の噂話をするとその妖怪が現れることでも知られる。

全身に蓑を羽織ったすまし顔の姿は、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する「油すまし」である。日本の妖怪と言えば民俗学者の柳田國男の著書などでも知られているが、その姿を思い浮かべるときには、水木しげるの妖怪画がいわゆるオリジナルとなっている。映画の「妖怪大戦争」などに出てくる妖怪も水木しげるの妖怪画がオリジナルである。

妖怪といえば水木しげるであり、妖怪を取り扱う際にはそれが大きな壁となっていた。いわば妖怪の圧倒的なシェアを「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪たちが担っていたといえる。このためアニメで妖怪を取り上げたくても、それが難しかったのはこれが要因との説もある。しかし、その壁を打ち破ったのが、昨年ブームになった「妖怪ウォッチ」である。水木しげるの妖怪画に触れることがないようにしたゲームをまず仕上げ、それがアニメ化されて大ヒットとなったとされている。元々、日本人は妖怪好きであるらしい。

好き嫌いに関わらず、日本人にとっても必要なのは「油すまし」ならぬ「油」である。原油に関しては日本でも秋田県や新潟県を中心に生産が行なわれているが、国内消費量は1%未満であり、国内消費量のほとんどは中東などからの輸入に依存している。

その油というか原油価格がさらに値下がりしている。1月5日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)でWTI原油先物は2009年4月以来、約6年ぶりに50ドルの大台を割り込んだ。2009年には30ドル台にまで下げており、今回も40ドル割れもあるのではないかとの観測がある。

1月5日の原油先物の下落の背景には、ロシアの生産増加とイラクの輸出増加計画などが指摘された。さらにサウジアラビアが、2月積みの欧州向け原油価格を大幅に引き下げ、米国向けも小幅に引き下げたことも要因とされた。ただし、アジア向けは逆に値上げをしている。もちろんこれは日銀の金融政策に配慮したわけではなく、サウジアラビアの原油戦略の一環といえる。

今回の原油価格の下落の要因としては、このサウジアラビアによる原油戦略も指摘されている。米国を中心としたシェールガスへの対策が大きな要因となっている。米国ではシェールガス掘削ブームに乗り、2005年に国内消費の60%を占めていた外国産原油が2016年には25%まで減る見込みとされる。このシェールガスに対抗するには、原油価格を引き下げてもシェールガスの採算を取れなくする狙いもあるものとみられる。

サウジアラビアは原油シェアを維持するために価格下落には目をつぶっているとの見方もある。さらに米国経済は順調に回復しているが、欧州や中国、さらには新興国、そして日本を含めて景気減速の懸念もあり、石油需要が減少するとの見方も原油価格下落の背景にある。

水木ワールドで占められていた妖怪世界に、新手の「妖怪ウォッチ」が進入してきたように、それまでエネルギーとしては原油の占める割合が大きかったところに、シェールガスという新たな勢力が出てきた。サウジアラビアは生き残りをかけ、身を削ってまでもシェア維持に躍起になり、それが結果としてさらなる原油価格の下落の要因となっているのではなかろうか。

そのサウジアラビアであるが、国王アブドラが王位を退く用意があると発言したそうである。91才という高齢であり、次期継承者は78才のサルマン皇太子が指名されており、もし国王が交代するとサウジの石油戦略が変わるのではないかとの観測も出ている。

いずれにしても、WTIが50ドル割れとなれば、そこからせいぜい下げても40ドル割れ程度までとみられ、ここからの下落余地にも限りはある。原油安によるロシアなど産油国経済への影響も懸念はされているが、1998年のロシア危機の再来の可能性も現状は低い。むしろ世界経済にとっては原油価格下落による恩恵の方が大きいとみられる。いずれにしても原油価格の先行きは、戦略家ともされる「油すまし」ならぬサウジアラビアが握っていることは確かなようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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