産油国の対立が激化する ~サウジの怒り、ロシアの焦り、アメリカの危機感~
3月6日の石油輸出国機構(OPEC)プラス会合における協議は決裂し、週末を挟んで国際原油価格は急落した。1バレル=40ドル台中盤で取引されていたNY原油先物価格は、3月9日の取引で一時30ドル台も割り込み、2016年2月以来の安値を更新している。
新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞し、国際エネルギー機関(IEA)は2009年以来で初めて需要の伸びが前年比マイナスになるとの非常に厳しい見通しを示している。この最悪とも言えるタイミングで、18年以降の原油需給・価格の安定化に大きな貢献があったOPECプラスの協調減産体制が3月末で終了する見通しになっているためだ。
■ロシアは軟化するも、サウジは一段と硬化する
もともと、ロシアは市場シェアを重視する観点から協調減産体制の強化には慎重だった。しかし、減産期間の延長さえも合意できない事態は、ほとんど全ての市場関係者が想定していなかった結果であり、マーケットではOPECプラス会合で「何かあったのではないか?」との見方を強めていた。そして、その後のサウジアラビアとロシアの動向を見る限りだと、サウジアラビアがロシアに対して「失望」というよりも「怒り」を感じている可能性が高いことが確認されている。
ロシアも協調減産体制が原油需給・価格の安定化に大きな役割を果たしていることは認識しており、原油相場の急落を受けてOPECプラスの役割を再評価する動きを見せている。例えば、ロシアのノバク・エネルギー相は10日、5~6月にOPECプラス会合の開催が予定されており、OPECとの協調行動を排除しないと発言している。また、11日には国内石油会社とOPECとの協力関係について協議を行う予定も明らかにしている。
しかし、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、「5~6月に会合を開くのは賢明ではない」として、危機対応が求められていた3月6日のOPECプラス会合でやるべき対応を行わなかったことを改めて強く批判している。ロシアの歩み寄りを拒否した発言と言える。
しかも、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコは、4月の原油供給量を日量1,230万バレルまで引き上げる方針を示した。これはサウジアラビアが仮に全ての生産能力(1,200万バレル)を動員しても達成できる数値ではなく、マーケットはフル増産体制への移行と同時に、在庫の売却まで行って、市場シェアを奪いに来るとの警戒感を強めている。OPECプラス会合におけるサウジアラビアとロシアの感情的とも言える対立が、サウジアラビアの暴走を促し始めている可能性が高い。
■トランプ大統領も危機感を隠せず
原油価格の急落は、米国においても対岸の火事とは言えない。秋に大統領選挙を控えているタイミングで、新型コロナウイルスが株価急落を促していることが強く警戒されているが、そこに原油相場の急落も加わったことで、金融市場の動揺は激しさを増している。
トランプ米大統領はTwitterに「サウジアラビアとロシアが、石油価格とフローについて協議を行っている。これとフェイクニュースが、マーケット急落の理由だ!」と投稿している。サウジアラビアとロシアの対立に伴う原油価格の急落が、3月9日のダウ工業平均株価を過去最大幅まで押し下げた要因の一つとみている模様だ。
また、米国は国内にシェールオイル産業を抱えているが、原油価格の急落で大規模な倒産連鎖が始まるのではないかとの警戒感も強い。ムニューシン米財務長官はロシアの駐米大使に対して「秩序」を要請すると同時に、トランプ大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子とエネルギー市場に関して電話協議を行ったことを明らかにしている。詳細は明らかにされていないが、トランプ大統領からサウジアラビアに対して自制が求められたことは間違いないだろう。
■サウジアラビアの対応によって決まる原油価格
サウジアラビアが主要産油国全てを敵に回すかのように強引に市場シェアを奪いに来るのであれば、原油安によって脱落する産油国が増えて、需給バランスが安定化する見通しが立つまで、原油価格は下落し続ける。少なくとも安値低迷状態が続くことになる。一方、米国や他のOPEC加盟国などの調停によってサウジアラビアとロシアが協調減産体制に復帰できれば、原油価格が急落し続ける必要性は薄れ、反発の余地も浮上することになる。
いずれはサウジアラビアの態度も軟化するだろうとみるのか、それとも今回のサウジアラビアの怒りは本物だとみるかが、原油価格見通しの分岐点になる。現在は、サウジアラビアも戦略的に政策を打ち出しているというよりも、暴走状態にあると考えているが、まだOPECプラスとして改めて協調産油政策を打ち出すことができる見通しは立っていない。「価格戦争(price war)」は激化しているのが現状である。