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一斉休校、報じるメディアのジェンダーバイアスも課題ーダイバーシティなき「同質性のリスク」

白河桃子相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト
(写真:アフロ)

安倍総理が発表した「全国一斉休校」に対して、学校の現場、そして保護者の皆様は大混乱。私のfacebookのタイムラインも大荒れでした。しかし「女性だけが騒いでいる状態」っておかしくありませんか?

報じるメディアのジェンダーバイアス

ある人から指摘がありました。「テレビでは困っているという女性の姿」しか映し出されないという問題です。すでに報道の現場には「学校に行けない→世話をするのはお母さん→女性が仕事を休む」というバイアスがかかっています。

あるメディアの女性からも「番組の上層部は完全に女性だけの問題と考えている。説得しても聞いてもらえない」と内部告発がありました。

日本のマスメディアは最も政府と同じぐらいダイバーシティが働かない場です。東京のキー局を調べたところ、現場の女性デスクは0%という状況が続いています。(民放労連女性協議会)キー局全体でも女性社員は2割弱、報道だけを取ると9%ぐらいです。つまり「何がニュースか、何を報じるべきか」を決めるのは男性だけという「同質性のリスク」があるのです。 

このような光景をテレビで見せつけられると、職場はどうなるのか?

ある店舗では「小学生の子供がいる社員」のリストを女性だけで作ったそうです。本当なら「全従業員」の中で小学生の子供がいる社員は何人か?と見るべきではないか。

ある女性は「お母さんは大変だよね」と同じ学齢の子のいる男性社員に言われて、「なぜ女性だけの話にするのか」とモヤモヤしていました。

オンライン学習の無償開放や宅配の給食の提供などの告知も「困っているママへ」です。

Photo by Andrea Piacquadio from Pexels
Photo by Andrea Piacquadio from Pexels

女性看護師が9割 社会のインフラ

このような緊急事態には「どのようにリソースを集中選択させるか」が問題になります。最優先は社会インフラに必要な方達。つまり医療、介護、保育などの現場を回す人になります。そして緊急度の高い職場は、どの業界も女性が多い。例えば「厚生労働省によると、2018年末に就業していた看護師は121万8606人。男女別の構成割合は、男性看護師が7.8%、女性看護師が92.8%でした」とあります。女性が休むと医療現場が回らなくなります。

すでに感染者が多い北海道で実施された「休校」によって下記の事態が起きています。

「臨時休校の影響で子どものいる看護師が出勤できないケースが相次いでいて、28日からは全体の2割を超えるおよそ170人が出勤できなくなることがわかったということです。このため病院は、28日から学校が再開されるまでの間、外来は予約や救急のみとして予約外の患者の診療を休止することになりました。」(北海道 NEWS WEB 休校で看護師出勤できず外来休診 02月27日 18時42分)

広島県では「休校」を検討する際に、「障害をお持ちのお子さん、医療従事者や社会インフラ従事者の子供は低学年に限り放課後児童クラブ(または小学校)が個別に受け入れ」としています。広島県には全国に4人しかいない女性教育長のひとり、平川理恵さんがいます。

パパが休む選択も!

今回の急な全国一斉対応に、感染者が多い北海道や東京以外はどうなの?という声もありますが、とりあえずは月曜からどうするか?

ぜひ、女性だけでなく男性も仕事を休む、またリモート対応ができる人はリモート対応する選択を考えてください。配偶者が医療、または社会インフラ従事者の場合は、職場を休みやすいように、経営者はしっかりと対処してください。1週間回さなくてもいい、社会に影響が出ない、緊急度の低い仕事はたくさんあるはず。

日本の女性たちは意志決定層にはいないかもしれませんが、社会のインフラはもう女性なしでは回りません。むしろ医療、介護、保育の土台を支えています。女性だけが休むなら影響ないというのは、ジェンダーバイアスが隔たったところでの決定にありがちなことです。

女性が仕事に出なくなったら、社会は立ちゆくのか?

いかに女性の仕事が社会を支える上で重要かがわかる事例です。昔保育園が足りない、賃金が不平等であるなど、北欧の国で女性たちが一斉にストライキをしたことをちょっと思い出しました。調べて見るとアイスランド(ジェンダーギャップ指数1位)で、1975年10月24日、男女不平等に反対し、アイスランドの女性たちは一斉にストライキ。9割の女性が職場を放棄するストライキだったそうです。一体何が起きたでしょうか?

「学校や託児所、銀行、工場、店は閉めなくてはならず、父親は子どもたちを会社に連れて行く羽目に。その日は、お菓子や色鉛筆を持参する父親たち、興奮気味の子どもたちの姿が職場で見られました。調理が簡単で、子どもが大好きなソーセージはどの店でもソールドアウトになりました」(MASHING UP 世界でもっとも男女平等な国、アイスランドの「女性の休日」誕生秘話2015.11.06より)

ダイバーシティなき決定の恐ろしさとは

メディアだけでなく、日本全体を見ても、意思決定層には女性が足りません。今回の「一斉休校」についても、その決定に参加した女性は何人いたのか?または小さな子がいて、妻も働いている子育て中の父親はいたのか?

「同質性が高い」ところの意思決定は、必ず重大な「見落とし」が発生するのです。今回のような危機に際しては、医療崩壊など、現場の重大な事象につながります。そして、ツケは弱者に回ります。

台湾の決定が素晴らしいと思ったのは、見落としなく弱者への配慮が行き届いていることです。感染ピーク対策として休校を決定した際に、同時に以下の決定もしていました。休校で困ってしまう小学生や、障害を持つ子の親が休暇申請できるようにして、企業が有休を拒否したら処罰と表明したのです。

すでに台湾は休校の措置は解除となっていますが、弱者を置き去りしない配慮が国民を不安にさせません。台湾は女性トップ率いる蔡政権で、弱冠38歳の デジタル担当大臣オードリー・タン氏の活躍が話題になるなど、かなり多様性があるようです。

多様性やジェンダー平等をおざなりにしてきた日本のツケが、緊急事態に露呈するという結果になりました。大事な決定には「ダイバーシティが隔たっていないか?」「ジェンダーバイアスがかかっていないか」というチェックが必要。今重大な決定をしようとしているリーダーは、ぜひ考えてほしいと思います。

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相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト

東京生まれ、慶応義塾大学。中央大学ビジネススクール MBA、少子化、働き方改革、ジェンダー、アンコンシャスバイアス、女性活躍、ダイバーシティ、働き方改革などがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに19万部超のヒットとなった著書「婚活時代」で婚活ブームを起こす。内閣府「男女共同参画重点方針調査会」内閣官房「第二次地方創生戦略策定」総務省「テレワーク普及展開方策検討会」内閣官房「働き方改革実現会議」など委員を歴任。著書に「ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち」「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」「女子と就活」「産むと働くの教科書」など多数。

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