金融政策に関する情報発信のあり方を巡り、リフレ派との温度差も
3月8、9日に開催された日銀金融政策議事要旨が7日に公表された。この会合では金融政策は現状維持となり、政策変更はなかった。議事要旨の内容も前回と大きな変化はなかったが、議事要旨によると、金融政策運営に関する情報発信のあり方について議論が行われており、その部分を取りあげてみたい。
「何人かの委員は、最近の為替市場や株式市場における不安定な動きについては、国際金融市場の変動に加え、わが国でも経済・物価情勢の改善が続く中、今後の金融政策運営の方向性を巡り、市場参加者の関心が高まっていることも影響しているとの見方を示した。」
この場合の「為替市場や株式市場における不安定な動き」というのは、ドル円や株の乱高下というより、当時の動きからみて、円高の進行とそれも影響しての株安のことを指しているようにも思われる。たしかに日銀の金融政策の行方に過度に神経質となっていたようだが、この円高株安の動きは3月下旬あたりから反転しつつある。
「何人かの委員は、市場に誤解が生じないよう、日本銀行としては、『物価安定の目標』の実現までにはなお距離があることを踏まえ、引き続き、現在の強力な金融緩和を粘り強く進める方針にあり、いわゆる『出口』のタイミングやその際の対応を検討する局面には至っていないと考えていることを、丁寧に説明していくことが重要であると指摘した。」
この発言をみても日銀が過度に神経質になっていたように思われる。国債買入の微調整が行えないような状況にあったのかと個人的には勘ぐってしまう。
「そのうえで、このうちの一人の委員は、将来的には、金融緩和の度合いを次第に縮小していくという意味での『正常化』を検討していくことになるが、それがなお金融緩和の領域にあり、需給ギャップの縮小を狙った『金融引き締め』とは異なることを、市場参加者にきちんと理解されるよう説明していくことも必要であると述べた。」
この発言が一番気になった。これは以前、量的緩和の解除を行ったときと同様の表現であり、日銀出身者からの発言ではなかろうか。そうであれば、唯一該当するのが、この会合が任期最後となった中曽副総裁からの発言ではなかろうか。
「別のある委員は、企業の価格設定スタンスの強まりがネガティブに捉えられることのないよう、デフレ脱却の意義について人々の理解を得つつ、「物価安定の目標」の実現を図っていくことが重要であるとの認識を示した。」
この発言者も気になる。その内容からリフレ派からの発言ではなさそう。事業会社の出身者からの発言のようにも思われる。
「この間、一人の委員は、追加的な金融緩和の余地が大きくない中、デフレ脱却を確実にするためには、財政政策の協力が必要になるとの見解を示した。そのうえで、この委員は、プライマリー・バランスの黒字化については、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、適切な定量的目標を定めて、柔軟に運営していくことが望ましいと述べた。」
リフレ派からの発言である。これはやはりこの会合が最後となる岩田副総裁であろうか。そもそもアベノミクスと呼ばれたものは金融政策と財政政策に成長戦略を組み合わせた3本の矢であったはずで、何をいまさらの財政政策なのか。
「このほか、ある委員は、「量的・質的金融緩和」の経済への効果が小さいとみていた人の中には、強力な金融緩和のもとで経済が大きく改善したことを受けて、将来必ず経済は悪化すると強調することで自己の主張と現実とのバランスを取ろうとする向きもみられると指摘した。」
何故、金融政策決定会合という金融政策を決める会合において、自分の意見とそぐわない他者への非難を行わなければならないのかがわからない。しかも、リフレ派への非難は当然出てはいるが、「将来必ず経済は悪化すると強調」しているのはあまり聞いたことがない。
これはむしろ、量的・質的金融緩和の物価への効果が大きいとみていた人の中には、強力な金融緩和のもとで物価が大きく改善しないことを受けても、将来必ず物価は改善すると強調することで、自己の主張と現実とのバランスを取ろうとしているようにも思われる。
ちなみに3月の決定会合後に公表された「主な意見」では同様の意見を言っていたとみられる委員がこの部分と思われる箇所について、下記のようにまとめていた。
「量的・質的金融緩和への反対意見の中には、心理学で認知的不協和と言われるものがある。これは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないことである。量的・質的金融緩和で経済は良くならないという自分の認識に対し、経済が改善しているという事実を認識したとき、その事実を否定、または、今は良くても将来必ず悪化すると主張して、不快感を軽減しようとしている。
」