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パウエルFRB議長が反対した米財務省が1兆ドルのプラチナコインを発行しFRBに預けるという案とは何か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

  米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は8日の下院金融サービス委員会の公聴会で行った証言で、債務上限が引き上げられなかった場合に米国の債務不履行(デフォルト)を回避するために、財務省が1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行しFRBに預けるという案について、手品で「帽子からウサギが出てくる」ようなものとし、否定的な考えを鮮明にした(9日付ロイター)。

 米議会は2021年12月に、政府の法定債務上限を約31兆4,000億ドルに引き上げた。それから2年が経過し、政府債務がこの上限にまで達した。イエレン財務長官は今年1月19日に議会下院のマッカーシー議長宛ての書簡で、政府債務が法定上限に到達したことを明らかにした。米議会予算局(CBO)は連邦政府債務の法定上限31兆4000億ドルを引き上げまたは停止しない限り、7~9月に財務省の全ての支払い手段が枯渇することになると発表した。

 米国債の発行根拠法は、合衆国憲法(第1条第8項)に基づいて連邦議会が定めた第二自由公債法。同法において国債残高に制限額を課して、その範囲内であれば自由に国債を発行し資金調達できる格好となっている。

 債務上限が引き上げられなかった場合に米国の債務不履行(デフォルト)を回避するために、財務省が1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行したらどうかという案はいったいどこから出てきたのか。

 実はこれは最近出てきたものではない。1996年に米議会で、財務省は任意の額面、大きさのプラチナコインを法定通貨として鋳造することができるという法律が可決され、本来これは記念貨幣発行を意識した動きだったようだ。

 しかし、米国財務省が額面1兆ドルのプラチナコイン(法定通貨)を発行することで公的債務上限を実質的に1兆ドル引き上げることが可能ではないかという解釈がなされ、これをノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン・プリンストン大学教授などが賛同したことで、実現可能ではないかという勘違いが横行してしまったのである。

 過去にも政府債務上限問題が浮上するたびに、プラチナコインの発行案が出てきたのである。イエレン財務長官も以前、「FRBが受け入れることを前提にすべきではない」として、このプランを一蹴している。「真剣に検討すべきとは考えない。巧みなからくりに過ぎない」とし、「議会が国債発行によって埋めることを望まない赤字をカバーするために、FRBにお金の発行を求めるのと同じだ」とも語っていた。

 日本でも以前に10万円金貨の発行時例もあり、巨額額面のプラチナコインの発行をすれば財政問題は解決するといった安易な発想が出てきたこともある。むろん、これは中央銀行による国債の直接引き受けと同様のリスクを伴うものでもあり、「帽子からウサギが出てくる」どころか、中央銀行が打ち出の小槌化ともいうべきものとなる。

 債務上限が引き上げの議論が出てくるたびに、このような安易な、しかし非常に危険な発想が出てくることになり、それにFRB議長が答えるといったことが繰り返されているのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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