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新型コロナ「5類」移行後、初めての年末年始 海外で猛威をふるう「JN.1」

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナが「5類感染症」に移行してから、初めての年末年始です。今シーズンは急性アルコール中毒による救急搬送や「飲み会クラスター」が増えることが懸念されています。現在、海外で「JN.1」という新型コロナの変異ウイルスが猛威をふるっており、今年最多の感染者数を記録している国が散見されます。インフルエンザが流行する背景で、国内でもじわじわと新型コロナが増加し始めているため注意が必要です。

復活した忘年会・新年会

東京商工リサーチの「忘・新年会に関するアンケート」によると、今シーズンの忘年会や新年会を「実施する」と回答した企業は全体の54.4%にのぼっています(1)。

職員同士のコミュニケーションがとれるメリットがありますが、最近は「飲み会を開催しないほうがありがたい」と感じる人も少なくないようです。

さて、すでに忘年会シーズンに入り、急性アルコール中毒による救急搬送や「飲み会クラスター」が増えることが懸念されています。

新型コロナは現在下火ですが、現在諸外国で感染者数が急増しています。アジア諸国でも医療逼迫の報道が増えてきました。一体何が起こっているのでしょうか?

海外で流行する「JN.1」

新型コロナはこれまで、アルファ株、デルタ株、オミクロン株などが流行してきました。国内で現在流行しているのは、オミクロン株から派生したEG.5.1系統(通称エリス)です。

現在医療従事者が懸念しているのは、海外で流行している「JN.1」という変異ウイルスです。これは、BA.2.86(通称ピロラ)の子孫にあたります。

名前が多すぎてよく分からないという人は、とりあえず耳にする変異ウイルスはすべてオミクロン株の子孫だと覚えてもらえればよいです(2)(図1)。

図1.簡略化したオミクロン株の派生(参考資料2をもとに筆者作成、イラストはイラストACより使用)
図1.簡略化したオミクロン株の派生(参考資料2をもとに筆者作成、イラストはイラストACより使用)

アメリカでは現在1週間で約20万人の感染者数が報告されており、入院患者数もじわじわ増えている状況です。今後、JN.1が急速に拡大すると予想されています(3)(図2)。

図2.アメリカにおける新型コロナウイルスの内訳(参考資料3より引用)
図2.アメリカにおける新型コロナウイルスの内訳(参考資料3より引用)

先行してJN.1が増えているのは、ヨーロッパです。フランスやイタリアでは、JN.1が優勢になった直後から入院患者数が急増しています。

JN.1は、感染性や免疫逃避能がこれまでの変異ウイルスよりも高いことが分かっています(4)。「免疫逃避」というのは、過去に感染して成立した免疫や、ワクチンによって獲得できる免疫が弱まるということです。

現在接種されているXBB.1.5対応ワクチンはエリスとピロラのいずれにも有効とされていますが(5)、JN.1については効果が減弱する可能性があります。ただ、WHOはそうであっても、おおむね現行ワクチンは有効としています(2023年12月21日追記)。

救急医療の逼迫に警戒感

アジアでもすでにJN.1による新型コロナの流行が始まっています。シンガポールではJN.1による入院が増えており、マレーシアでも感染者数が前週から倍増したことが報道されています。

ゆえに、同じアジアの島国である日本が、JN.1の流行なしで今冬を乗り切れるというのは、いささか楽観的に思えます。

現在も、慢性的な救急医療の逼迫が続いています。飲み会で羽目を外して深酔いして救急車のお世話にならないよう配慮しましょう。東京消防庁は、救急車の適正利用について啓発をおこなっています(動画)。

動画.救急車の適正利用の啓発(東京消防庁)


新型コロナやインフルエンザ以外にも注意すべき感染症が増えており、一人ひとりが感染予防に努めるしかありません。

発熱や症状がある場合、無理して飲み会に行ったり帰省したりしないよう、ご注意ください。

(参考)

(1) 東京商工リサーチ. 2023年「忘・新年会に関するアンケート」調査(URL:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198109_1527.html

(2) Tamura T, et al. bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2023.11.02.565304

(3) Centers for Disease Control and Prevention. COVID Data Tracker. (URL:https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#variant-proportions

(4) Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2023.12.08.570782
(5) Stankov MV, et al. Lancet Infect Dis. 2023:S1473-3099(23)00690-4.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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