現状判断は基準値を超える…2020年10月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2020年11月11日付で2020年10月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「新型コロナウイルス感染症の影響による厳しさは残るものの、着実に持ち直している。先行きについては、感染症の動向を懸念しつつも、持ち直しが続くとみている」と示された。
2020年10月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス5.2ポイントの54.5。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは53.6。
→詳細項目は「住宅関連」以外のすべての項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でプラス0.8ポイントの49.1。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは48.4。
→詳細項目は「小売関連」「住宅関連」「非製造業」が上昇。「飲食関連」のマイナス2.5ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「サービス関連」「雇用関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。今回月は前回月に続き新型コロナウイルスによる影響を受けてはいるが、持ち直しの動きを継続中で、ついに基準値を超える値を示した。新型コロナウイルス流行前の水準どころか消費税率引き上げ以前に戻ったと判断できる状態に違いない。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直し、今回月は基準値までには戻していないものの現状判断DI同様に、新型コロナウイルス流行前の水準どころか消費税率引き上げ以前に戻ったと判断が可能な値となっている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では(すでに表の対象外となっているが)2020年2月以降において新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化が一気に噴き出した形となり、大きな下落。4月で景況感悪化の動きは底を打ったようで、5月以降は盛り返しを示している。今回月は前回月比においては「住宅関連」を除くすべての詳細項目でプラスとなった。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「小売関連」「飲食関連」「サービス関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。特に「飲食関連」は60.0すら超えている。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」の2つ。現状判断DIと比べて上昇の勢いに弱さを感じるのは、やはり新型コロナウイルスの流行に対する見通しが立ちにくいからだろうか。
Go To Travelキャンペーンの効用続く
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・10月からGo To Travelキャンペーンの地域共通クーポンが発行され、東京発着も対象になり、個人客を中心に例年並みの集客ができている(観光型旅館)。
・地元客に加えて、観光客も増えており、それに伴って収益が改善している(高級レストラン)。
・3か月前には開催できなかった物産催事や外商催事も開催できるようになり、好調に推移している。地域共通クーポンも土産物を中心に売上を下支えしている。大ヒット映画による集客増もあり、売上は3か月前よりも回復している(百貨店)。
・分譲マンションのモデルルームへの来場者の多くが購入に慎重であるなど、様子見の客が多い(住宅販売会社)。
■先行き
・今年のクリスマス、正月は家庭内で過ごす機会が増えるとみられるため、これからケーキやおせちなどの消費が活発になることが見込まれる(スーパー)。
・11~12月の予約状況はよく、今後もGo To Travelキャンペーン、Go To Eatキャンペーンの効果が見込めそうである。また、宴会や会議でも予約の問合せが増えており、感染対策を万全にして開催したいという予約が増えている(都市型ホテル)。
・冬季ボーナスが減少となる見込みであり、ボーナス商戦やバーゲンセールなどは厳しいと想定される。また、年末年始は混雑を避けようという動きが見込まれ、福袋やセールでの売上確保ができるか懸念される(百貨店)。
・大阪も新型コロナウイルスの感染者が増えているため、外出が控え目になり、外食の機会も減りそうである。忘年会も企業はまだ控えているため、宴会シーズンは厳しくなりそうである(一般レストラン)。
報道の限りでは相変わらず散々な扱いを受けているGo To Travelキャンペーンだが、現場からの声は前回月同様に概して良好。東京都が対象に加わったことにも好感触。また劇場版「鬼滅の刃」と思われる映画のヒットが映画館を併設している(あるいは近場にある)百貨店への集客機会となり、百貨店の売上にも貢献するという、意外な話も見受けられる。
企業関連でも新型コロナウイルス流行の影響が多々見受けられる。
■現状
・新型コロナウイルスの影響で2~3割弱減少していた売上、受注量並びに販売量が少し戻り、売上は新型コロナウイルスによる減少前と同程度に戻ってきている(電気機械器具製造業)。
・新型コロナウイルスの影響で、客先において設備投資計画に業績不振による延期や規模縮小となる案件が散見される一方で、一部設備投資を再開する客もあり、一概に悪化しているとも言い切れない(建設業)。
■先行き
・受注が回復傾向にあり、2~3か月先の売上も増加する見込みである。自動車産業を中心に回復基調にあると考える(鉄鋼業)。
・出勤率低下の常態化によりオフィススペースの一部解約が続く状況にある。また、飲食テナントは新規の出店希望者が全く現れず、空きスペースが埋まる見通しが立たない(不動産業)。
新型コロナウイルスの影響で停滞していた人や物の流れが復調傾向にあることがうかがえる。早くも流行前の水準に戻ったところもあるようだ。他方、新型コロナウイルスの流行で生じた在宅勤務の増加・常態化に伴い、出勤者を対象にしたビジネスに大きな影が差し込んでいることが確認できる。
雇用関連でも新型コロナウイルスの影響からの回復基調がうかがえる。
■現状
・新聞広告に旅行会社が復活した。観光業を中心に人手不足が強まり、非正規中心ではあるが募集の動きが出てきている(新聞社[求人広告])。
■先行き
・年末年始の繁忙期に向けた短期の人員依頼が増えている。インターネットショッピング関連のセールによる物流増のほか、セット組み増による物流加工作業の需要も増えている(人材派遣会社)。
雇用の観点では新型コロナウイルスの影響は否定できないものの、最悪期は脱し復調状態だとの認識があるようだ。「人手不足」という懐かしさすら覚えるキーワードも。
今件のコメントで消費税率引き上げに関するコメントを「消費税」のキーワードで確認すると、現状のコメントで49件(前回月44件)、先行きのコメントで10件(前回月14件)の言及がある。おおよそはネガティブな話として挙げられており、心理的に足を引っ張っている。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見当たらない。なお「財政再建」は現状・先行きともに一件も言及されていない。
他方新型コロナウイルスに関しては現状で370件(前回月434件)、先行きで656件(前回月670件)。前回月と比べれば減ってはいるが凄まじい言及数で、消費税率の引き上げも米中貿易摩擦もすべて吹き飛んでしまった状態。また、直接「新型コロナウイルス」の言い回しではないものの、「緊急事態宣言」「来客数は減少したまま」のような明らかに関連する内容の表現が用いられており、実質的に新型コロナウイルスの影響がほぼすべてと見てもよい(ただし中にはデマや流言の類をそのまま信じていると推定できるコメントも見受けられる)。そして内容の性質上、ネガティブな話になるのは当然ではあるが、一部で持ち直しへの期待の声も確認できる。
なお「Go To Travelキャンペーン」「Go To Eatキャンペーン」については現状のコメントで265件、先行きのコメントで239件。肯定的な意見が多く、政策の効果の実情が確認できる。
リーマンショックや東日本大震災を超えるレベルにまで景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ何らかの形で終息(効果的なワクチンや治療薬の開発と十分な数の確保、あるいは普通の風邪と同レベルまでの弱体化)とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなるのには違いない。「また流行が拡大するかも」との懸念だけで経済には大きな足かせとなる。世界的な規模の疫病なだけに、一刻も早い事態の終息を願いたいものだが。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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