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皮膚の炎症が血管に影響?アトピー性皮膚炎患者の静脈血栓症リスクを解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Geminiにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎と静脈血栓症の関連性】

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な炎症性皮膚疾患として広く知られています。日本では、乳幼児の15-30%、成人の約8%が罹患していると言われており、多くの方にとって身近な病気です。しかし、最近の研究で、アトピー性皮膚炎が単なる皮膚の問題だけでなく、全身に影響を及ぼす可能性があることがわかってきました。

特に注目されているのが、静脈血栓症とのつながりです。静脈血栓症は、静脈内に血の塊(血栓)ができる病気で、深部静脈血栓症や肺塞栓症などを引き起こす可能性がある重大な疾患です。

最新の研究によると、アトピー性皮膚炎の患者さんは、そうでない人と比べて静脈血栓症のリスクが約10%高くなることがわかりました。特に深部静脈血栓症のリスクが15%増加するという結果が出ています。

【アトピー性皮膚炎による静脈血栓症リスク上昇のメカニズム】

なぜアトピー性皮膚炎が静脈血栓症のリスクを高めるのでしょうか?研究者たちは、いくつかの要因を指摘しています。

まず、アトピー性皮膚炎による慢性的な炎症が血管にも影響を与え、血栓ができやすい環境を作り出す可能性があります。また、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、血液の粘度が高くなったり、血小板が活性化されやすくなったりすることも報告されています。

さらに、アトピー性皮膚炎の治療に使用されるステロイド剤が、血栓のリスクを高める可能性も指摘されています。ただし、これについてはまだ研究段階で、確定的なことは言えません。

アトピー性皮膚炎と静脈血栓症の関連性については、まだ研究段階の部分も多く、すべてのアトピー性皮膚炎患者さんが高いリスクを持つわけではありません。しかし、特に重症の方や長期間症状が続いている方は、注意が必要かもしれません。

【アトピー性皮膚炎患者さんへのアドバイス:静脈血栓症予防のために】

アトピー性皮膚炎の患者さんが静脈血栓症を予防するために、以下のようなことに気をつけると良いでしょう。

NapkinAIにて筆者作成
NapkinAIにて筆者作成

1. 適切な治療を継続する:アトピー性皮膚炎の症状をコントロールすることで、全身の炎症を抑えることができます。

2. 運動を心がける:適度な運動は血流を改善し、血栓のリスクを下げるのに効果的です。

3. 水分をしっかり摂る:十分な水分補給は血液の粘度を下げ、血栓予防に役立ちます。

4. 禁煙する:喫煙は血栓のリスクを高めるので、禁煙を心がけましょう。

5. 長時間の同じ姿勢を避ける:長時間のデスクワークや移動時は、こまめに体を動かすようにしましょう。

また、静脈血栓症の症状(脚のむくみや痛み、呼吸困難など)に気づいたら、すぐに医療機関を受診することが大切です。

アトピー性皮膚炎は、皮膚の問題だけでなく、全身に影響を及ぼす可能性がある病気です。静脈血栓症のリスク上昇はその一例ですが、他にも様々な合併症のリスクがあることがわかっています。

例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんは、喘息や花粉症などのアレルギー疾患を併発しやすいことが知られています。また、最近の研究では、心血管疾患や代謝性疾患のリスクも高まる可能性が指摘されています。

これらの合併症のリスクは、アトピー性皮膚炎の重症度や罹患期間と関連があるとされています。特に、45歳以上の成人で重症のアトピー性皮膚炎の場合、静脈血栓症を含む様々な合併症のリスクが高まる傾向にあります。

ただし、これらの研究結果は欧米を中心としたものが多く、日本人患者さんにそのまま当てはまるかどうかは、さらなる研究が必要です。日本人の遺伝的背景や生活習慣の違いを考慮した研究が今後期待されます。

アトピー性皮膚炎の治療は、皮膚症状の改善だけでなく、これらの合併症予防の観点からも重要です。適切な治療を継続することで、皮膚の炎症を抑え、全身への影響を最小限に抑えることができます。

最近では、生物学的製剤や JAK阻害薬などの新しい治療薬も登場し、重症のアトピー性皮膚炎患者さんの治療選択肢が広がっています。これらの新薬は、全身の炎症を抑える効果が期待されており、合併症予防にも役立つ可能性があります。

参考文献:

1. Wang Y, Chen Z, He T, Huang C, Shen C. Risk of incident venous thromboembolism in patients with atopic dermatitis: systematic analysis of the literature and meta-analysis. J Thromb Thrombolysis. 2024. doi: 10.1007/s11239-024-03038-2

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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