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採用担当者トレーニング②動機付けの力

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
少子化の中、動機付けができなければ、良い人をみつけても入社には至りません。(写真:アフロ)

今回は、採用担当者トレーニングのポイントの2回目として「動機付け」について、候補者に対して入社意欲を上げる動機付けの力を高めるには、どういうトレーニングをすればよいのかというお話しをしたいと思います。

■動機付けを高めるポイント1つ目は「トーク内容」

動機付けを高める要素というのは2つあります。1つ目はまず「トーク内容」です。

採用担当者は言葉が武器です。応募者に対して、自社の魅力だったり、様々なことを言葉を使って話していきますが、それが磨かれていないケースがとても多くあります。そのため、採用担当者はトーク内容を磨くべきと考えます。その大切なポイントは大きく分けて4つあります。

①入社動機

「なぜこの会社に入ったのですか?」という質問は応募者や学生さんなど、誰もが採用担当者に聞いてくる質問だと思います。もしも聞かれなければ、学生さんに全然興味を持たれていないということになるので、もっと頑張りましょうということになりますが、入社動機は基本的にはよく聞かれる質問の1つです。それなのに準備できていないという方がすごく多いです。

②事業や仕事の魅力説明

事業や仕事の説明は一般的なオーディション型採用に応募してくる学生さんや保護者の方など、普通は研究しているはずなので、あまりそういう質問は出ないと思われるかもしれません。

しかし、最近はすごくスカウト型採用が増えており、まずこちらからアプローチをして「とにかく会社へ会いに来ませんか」、あるいは「こういう就活セミナーやサポートセミナーを開催するので、一度遊びに来ませんか?」などとコミュニケーションを取ります。

その場合に来る学生さんは、自社のことなどをあまり知らずに来ていることがほとんどです。企業名も知らないし、懇親会などをすれば「〇〇会社さんはどんなことをやっているんですか?」というような質問を受けることもたくさんあります。

つまり、スカウト型採用になれば事業説明を口頭でパッと、エレベータートークのようにものすごく短い時間で語らなければいけないというケースがどんどん出てきています。

③組織風土や文化の説明

日本の学生や若い人というのは、何をやるかよりも誰とやるかの方が重要という人も多いので、そういう意味でいうと「うちはどんな人達の集団です。」「私たちの会社はこのような会社で、雰囲気はこのような感じです」というように、企業文化を伝えることが、動機付けの重要なポイントになることが多くあります。

④不安要因に対するカウンタートーク

不安要因とは、この会社へ行こうかどうしようか、入社をためらっているというようなネックのことです。業界だったり、ある一定の会社で思われがちなことがあると思います。

例えば「ものすごい激務なんじゃないか」「すぐに人が辞めてしまうんじゃないか」など、そのような応募者が持ちがちな不安要素というのは、事前にリストアップすることができると思います。みなさん自身が入社される時に感じられていたことや、あるいは最近入って来た新入社員や内定者の人に対して「最初はどんなことが不安だった?」と聞いていくことでリストアップできるはずです。

ところが、事前に準備ができるはずですが、これについても全く準備されていない企業がほとんどです。

以上、「入社動機」「事業や仕事の魅力説明」「組織風土や文化の説明」「不安要因に対するカウンタートーク」この4つのポイントをおさえて、動機付けを高めるトーク内容を磨いていくことが重要になります。

<ポイント1「入社動機」>

入社動機を聞かれた時に訓練をしていないと、ほとんどの人が事業説明をしてしまいます。例えば、以下のようにリクルートの事業説明をし始めることが多いです。

学 生 「なぜ、曽和さんはリクルートに入ったんですか?」

曽 和 「リクルートは人生の節目節目で、情報提供をすることによって、自分らしい人生を送る応援をしている企業だからです。それに対して共感したので、私は入社を決めました。」

これではダメです。これはリクルートの事業説明であって、私(曽和)がリクルートに入った理由を全く話していません。私はよく「What」と「Why」とご説明しますが、リクルートの「何が(What)好きだったのか」については話しているのですが、「なぜ(Why)好きなのか」これを語っていません。ですから入社動機を聞かれたら「Why」を話しましょう。

しかし「なぜ」も2種類あります。ダメな「Why」というのは理屈で説明する場合です。例えば、自分らしい人生を送る人が多くなると、世の中に多様性が生まれます。多様な価値観を持った人たちが集まると、いろんなクリエイティブや新しい発見や発明が生まれ、イノベーティブな社会になっていきます。というような、いろいろな理屈を述べることで、だからリクルートにいきたいと思った、というようなことを説明されても、それはつまり、リクルートが素晴らしい話をしているだけであって、これもやはり「私が、なぜ」という部分が含まれていないのです。

私がお勧めするのは自分の成育史、ライフヒストリーをリンクさせることです。「私はこんな環境で生まれ育って、このような出来事があって、こんな人に出会って、そしてこのような価値観や考え方になって、だからこの事業が好きなんです」というようなストーリーが話せるようになると、とても納得度が高く、学生さんや応募者の方々に対して「なるほど、私もそうかもしれない」と言った相手の心に刺さる動機の説明ができると思います。

<ポイント2「事業説明」>

トーク内容のポイント2つ目は、事業説明です。事業説明を話そうとすると、だいたいビジネスモデルの説明をしてしまう訳です。そうすると一番つまらない話になりやすくなります。

学 生 「リクルートは何をやっている会社ですか?」

担当者 「メディアを使って、企業と人をつなげている会社です。」

そう聞くと学生さんにとってはつまらないですよね。それでは、どうやって相手に刺さるような説明をするかというと、「その事業の社会的意義」もしくは「知的好奇心」のどちらかを説明することが大切です。つまり事業を通してどのような価値を社会に提供しているのかということです。

例えば私は、「リクルートは下克上支援会社だ」というような説明をしていました。トヨタ、三菱商事などの大企業にとってリクナビは必要なのかと言われれば、必ずしも必要ではないかもしれません。グーグルで検索して、たくさんの人が応募してきますよね。けれども、未来のトヨタや未来の三菱商事にとっては、必要になります。そのため、出会いの場が必要であったり、マッチングの場が必要であり、そういう未来に伸びていく企業を応援するというところに社会的価値があるというような話ができます。このような話が社会的価値の説明です。

次に知的好奇心については、その仕事のどこが面白いのか、その仕事によってどんな力が伸びるのかという説明です。こういう観点で自社のことを話してあげることが、学生さんや保護者さんには刺さりやすい説明になるのではないかと思います。

<ポイント3「組織文化」>

組織文化の説明に関しては、抽象度を高めすぎないということが大切です。どの会社も「風通しが良くて」「若い人が働きやすくて」「フラットな会社」「新しいことにチャレンジする会社」という風に、同じことを言います。ですので、それでは差別化に繋がりません。つまり、象徴的なエピソードもしくは、できればその企業風土を表すような会社における会話など、そういった物を説明に使うとよいのではないかと思います。

例えば、若手が活躍できる会社なのであれば、「あのビッグプロジェクトの責任者は27歳の彼なんだよ。」などであったり、達成意欲が高い会社というのであれば、「営業の目標達成率で、一番怒られるとよく言われている数字は、99%なんだよ。1%ぐらいなんとかなっただろう!達成意欲が足りない!と言われたりするんだよ。」という風に話してあげる訳です。

そういった話をすると「なるほど、目標達成力とは、最後の1%でもやりきることなんだ」といった形で、組織文化や風土が伝わっていくのではないでしょうか。このように社内でよく交わされている会話などを用いて、組織風土を説明すると学生さんには伝わりやすいのではないかと思います。

<ポイント4「不安に対するカウンタートーク」>

ネックとなること、とにかく学生さんや応募者の方々に不安に思われると予想されることをリストアップしてください。どんなものがマイナスなのだろうか、どう言ったものが不安に思われるんだろうと考えてみる訳です。その中には濡れ衣のような事実と違うものと、確かにそれはそうなんだよねというものと、大きく2つに大別されます。つまり、YesとNoです。もしちがう場合、濡れ衣の場合は、単純ですが明確な事実で否定することが大切です。

学 生 「残業時間が長いのではないですか?すごく激務ですよね?」

担当者 「昔ほどじゃないよ、そんなに…」

というように適当な言い方をするのではなく、数字を出してあげながら、明確に否定をするということが大切なポイントです。

学 生 「残業時間が長いのではないですか?すごく激務ですよね?」

担当者 「もう今は年間で2440時間と総労働時間が決まっているので、それを超えそうな時間数になりそうな時は休ませたり、きちんとしたマネジメントをやっています。」

反対にもしYesの場合、残念ながら確かにその不安に思われている事実が存在すると言う場合は、対策の方法として2つあります。それは「会社としても問題と認識している。それに対して何かしらの対策もしている。だから将来的には解消されるのではないか。」という説明で、未来志向の話をする方法が1つ。

もしくはトレードオフの話をする。トレードオフというのはあちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たずといった相互作用があるものです。確かにそれはマイナスだけれども、それはこういったプラスを得るために必要な状況であるというような、トレードオフを示してあげることが重要です。これによって不安が解消するかどうか断言はできませんけれども、これらがとても大切なポイントです。

■動機付けのポイント2つ目は「意思決定の心理プロセスの把握」

もう1つは意思決定の心理プロセスを把握しておくということです。これは説得論心理学のような領域の話になりますので、深く話せばとても長い話になってしまいます。ですので、今回は端的にしたいと思いますが、その人が即決型なのか、それとも熟慮型なのかそういう意思決定のスタイルは人それぞれによって色々ありますが、それを必ず把握するということです。

基本的には熟慮型の人には情報をたくさん提供してゆっくり考えてもらう、待ってあげる期限もゆとりを持って設定をしてあげるということです。世の中の風潮としても、就活終われハラスメントなどというような言われ方もしている通り、待ってあげることが是とされています。

しかしながら、それと反対に実は即決型の人にとってはそれはうれしくない訳です。少しの情報でもすぐにバシッと決める、これは優秀な方に多い訳ですけれども、そういう人にとっては「うちは1ヶ月待つので、ゆっくり他社などを見てきてください」というようなことを言われてどう思うかというと、一概には言えませんが多くの場合、「あ、自分はあまり評価されていないんだな」とその企業の重要感を下げてしまいます。

つまり、口説いて欲しい人もいるので、「口説いて欲しい人なのか」「そうでないのか」というところをちゃんと見抜いて、「優秀で判断力がある」即決型だということがわかったら、「他にもたくさんいい会社はあるかもしれないけれど、うちの会社はあなたのことをものすごく評価しているので、ぜひうちに来てくれないか」と口説くことによって、「これだけ言ってくれるのであれば、じゃあ一肌脱ごうか」という気持ちになってくださる方もいるということです。

このように意思決定のスタイルをきちんと把握することで「押し引きというか対応を考えることができるようになる」ということが、動機付けの2つ目のポイントなのです。

以上、2回にわたって、採用担当者にどんなトレーニングを施すべきかを考えてみました。ご参考になりましたら幸いです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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