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新型コロナウイルス感染拡大の影響下、今こそ、ゴルフ界は人々の範となる言動に努めたい

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ゴルファーに求められる冷静さは、緊急事態に対処する冷静さにもつながるはずだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染拡大が、世界のゴルフ界に次々に影響を及ぼしている。

 すでにお伝えした通り、タイで開催予定だったアジア・パシフィック女子アマチュア選手権が延期となり、PGAツアー・チャイナが中国国内2箇所の予選会を延期したことでシーズンの開幕も延期。アジア2か国で開催予定だった欧州ツアーのメイバンク選手権(マレーシア)、ボルボ・チャイナ・オープン(中国)も延期となった。

 日本の女子ツアー(JLPGA)は2020年シーズン開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」(3月5日~8日)を一旦は「無観客試合」にすると発表したが、2月末には「中止」と発表。小林浩美会長率いるJLPGAは、苦渋の決断を下した。

【欧州ツアーの対策】

 そして、新型コロナウイルスの影響は、世界のゴルフ界にさらに及び始めている。

 欧州ツアーでは、2人のイタリア人選手が隔離されて試合欠場を余儀なくされる事態が起こり、世界のゴルフ界に震撼が走った。

 オマーン・オープン(2月27日~3月1日)の試合会場でローレンツォ・ガッリが咳やくしゃみをしていた様子を現地にいたメディカルチームが目撃。新型コロナウイルス感染を疑い、オマーンの保健省と相談した上で、開幕前日の水曜日にガッリを隔離し、PCR検査を行なった。

同時に、ホテルの部屋をガッリとシェアしていたエドアルド・モリナリも別室に移され、隔離された。

 2人は必然的に試合欠場を余儀なくされたが、翌日の朝、ガッリの検査結果は陰性と判明したため、ガッリもモリナリも無事に「解放」され、試合に戻ることも許可され、どちらもぎりぎりで初日のティオフに間に合った。

 隔離も検査も迅速だったおかげで、感染の嫌疑が晴れた上に試合出場も叶い、周囲も安堵したことだろう。欧州ツアーのキース・ペリー会長は「今後もツアーの健康管理のエキスパートや大会会場の地元のオーソリティと協力し合いながら、選手たちに医療と移動のための適切なアドバイスをしていきたい。最優先は人々の健康と命だ」と語った。

 しかし、突然、隔離されて検査対象になったガッリは「なぜ、2人だけ?」と不満や批判を口にした。

「すでに僕はジムでも試合のシャトルバスでもレストランでも大勢と接したのだから、僕が疑わしいのなら、全員を検査対象にして大会を中止すべきだったのではないか?」

 今後、ゴルフ界でも、いろいろなケース、さまざまな意見や見方が出てくるだろう。混乱も起こりがちな事態において、一番求められるのは冷静な対応だ。

 考えてみれば、ゴルフにおいても一番大切なのは冷静さゆえ、プロゴルファーならば、冷静に対処することは本来、得意なはずであり、腕の見せどころでもあるはずだ。

 そういう意識を抱いて、今こそ大勢のファンや人々の範となってほしい。

【「足」の問題も懸案事項】

 今後の先行きが不透明な中、ゴルフ界には最大限の事前準備や覚悟も求められる。

 4月にはマスターズ、5月には全米プロという具合にメジャー大会が始まる。今年の全米プロ開催地はサンフランシスコのTPCハーディング・パークだが、そのサンフランシスコのロンドン・ブリード市長は2月25日、その時点では市内の感染者がゼロの状態ながら「非常事態宣言」を出し、「できうる限りの準備をする」と語った。

 全米プロを主催するPGAオブ・アメリカも「サンフランシスコの状況に注視しつつ、管轄省庁と連携しながら必要なステップを踏んでいきたい」と冷静で慎重な姿勢を見せている。

 米国と世界各国を結ぶ航空便が運航停止や大幅減便になるなど、今後は選手や関係者と大会会場を結ぶ「足」の問題も懸案事項になることが予想されている。世界各国の入国制限や渡航制限の影響も少なからず受けることになると思われる。

 折りしも、ユナイテッド航空が「サンフランシスコー関西国際空港」の減便を発表したばかり。「ロサンゼルスー成田空港」「ヒューストン―成田空港」は全便運行停止(3月8日から4月24日)、「ニューヨーク―成田空港」の減便も同時に発表した。

 刻々と変化する事態を冷静に受け止め、対処していく以外に方法はない。欧州ツアーのペリー会長が言っている通り、最優先されるべきは、試合開催ではなく、試合に関わるすべての人々、ファンを含めたすべての人々の健康と命だ。

 あらかじめ最悪のシナリオを描いて覚悟しておけば、「最悪の手前」のことが可能になったとき、「最悪にならなくて良かった」と思うこともできる。

 今こそ、リスク・マネジメントと個々人の冷静さが問われている。ゴルフ界が「さすがゴルファーの集団だ」と人々から手本とされるような言動に努めようではありませんか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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