Yahoo!ニュース

米国の物価は高水準、FRBの金融政策の正常化を後押しか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米労働省が10日に発表した11月の消費者物価指数は前年同月比の上昇率が6.8%と、10月の6.2%からさらに加速し、1982年6月の7.1%以来、約39年ぶりの高水準となった。7か月連続での5%以上の伸びとなった。変動の大きい食品とエネルギーを除く上昇率も前年同月比で4.9%と、10月の4.6%から一段と加速した。

 これを受けて10日の米国債券市場では米債が売られた、のではなく買われていた。ある程度の伸びは予想され、そのためにショートポジションを作っていた向きの買い戻しであったのかもしれないが、やや不可解な動きともなっていた。

 米労働省が14日発表した11月の米卸売物価指数は前年同月9.6%の上昇となり、比較可能な2010年11月以降で最大の伸びとなった。市場予想も上回ったことで、この日の米債はさすがに売られた。

 14日から15日にかけてFOMCが開催される。パウエル議長は11月30日の上院銀行委員会での証言で、経済が堅調でインフレ高進が来年半ばまで持続すると予想される中、次回のFOMCで大規模な債券買い入れプログラムの縮小加速を検討すべきと述べていた。

 パウエル議長は物価上昇要因に関し、一時的との文言を撤回する時期に来ているとも述べていた。現実に11月の消費者物価指数も高水準が続いたことで、一時的との文言を撤回した上でテーパリングの加速を決定する可能性がある。

 現在のスケジュールは11月から月額購入を150億ドル(約1兆7000億円)縮小し2022年半ばまでにプロセスを完了する予定だが購入額を増額させ、より早期に完了させる可能性がある。

 パウエル議長の11月30日の議会証言の翌日の12月1日にファウチ国立アレルギー感染症研究所長がオミクロン型の感染者が米国で初めて確認されたと報告している。

 オミクロン型の感染拡大への懸念から今回はテーパリング加速の決定は行わず、先送りする可能性もないとはいえない。

 しかし、今回のテーパリング加速と、それによる利上げの前倒しについては、バイデン政権の意向も意識したものと見ざるを得ない面がある。ここにきてのバイデン政権の支持率の低下はインフレへの不満が背景の一因となっていたためである。

 バイデン政権は物価上昇の一因ともなっていた原油価格の上昇に対して、戦略備蓄の原油放出も決めている。米エネルギー省は10日、戦略石油備蓄から1800万バレルの売却を17日に実施すると発表した。計5000万バレルの備蓄を放出する計画の一環となる。

 戦略備蓄の原油放出で原油価格が下落するという保証はないものの、少しでもインフレ圧力を取り除きたいとのバイデン政権の意向が見え隠れしている。FRBもそれをフォローせざるを得ない立場となっている可能性もありうるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事