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世界バレー7位の悔しさをエネルギーに! 木村沙織や全日本女子に期待すること

大林素子スポーツキャスター、女優

初戦を落としたことで暗雲

世界バレー、全日本女子は2次ラウンド敗退で7位に終わった。

私も1986年に7位になり、当時、「史上最低の成績」と言われたことがあるが、眞鍋ジャパンはいい状態にチームを作り上げてきて、新戦術で母国開催のワールドグランプリで銀メダルを取り、さあ次は金だ、という意気込みで臨んでいただけに、この結果は残念に思う。

前回のコラムでも書いたが、やはり初戦のアゼルバイジャン戦で負けてしまったことが大きかった。それで勝ち点もそうだが、後々の組み合わせに影響が出てしまった。入りが100%で入れず、ベストになりきれず、つまづいたことで暗雲たちこめてしまったように正直感じた。選手も感じていただろうが、同じように戦っていた人間としてわかるのは、長い大会の中では初戦の負けは後にひびいてくるということ。その悪い感じを、戦いの中を整えあげていくのはたいへんなこと。試合前に解説者として「初戦負けることがあればメダルは厳しいと思います」と言っていたことが現実になってしまった。

これは常にそうで、お互いさまなのだが、新しい戦術というのはやればやるほど、かたまって確立してくるが、その分相手チームに研究もされてしまう。つまりは鮮度が命という面もある。日本は、昨年、緊張感、集中力の中で「MB1」をやり銅メダルという結果を出し、今年は進化した「ハイブリッド6」でグランプリを戦い、新戦術に勢いがあり相手が戸惑ったこともあり、銀メダルを取ることができた。しかし世界バレーではデータなども研究されてきた。「ハイブリッド6」が進化途中で完成していなかったため、苦しい戦いになってしまった。

「ハイブリッド6」はまだ進化するし、この先がある。今回は悔しかったけれど、オリンピック前に、こういう結果を経験できたのは、全日本にとってはよかったと思う。これで、反省や課題や、もっと進化するために突きつめていかなければならないということがチームとしても個人としてもわかったからだ。

沙織には常にコートにいてほしい、まだ進化できる

チームをまとめるリーダーとして、エース(ポイントゲッター)としてパスヒッターとして、たいへんな役割を担いながらも、木村は頑張っていたと思う。しかし、前半はポイントランキングも上位にいるなど活躍していたが、後半になるにつれ、決定率・効果率が落ちてきて、2次ラウンドのイタリア戦の3セット目には、スタートメンバーから外れてしまった(イタリア戦は3得点)。これは木村自身、悔しかっただろうし、最高の屈辱だったと思う。自分だったら絶対嫌だ。現役のころ、エースとして外れるなんてとんでもない、死んでもコートに残りたいというプライドでやってきたからだ。木村もおそらくそういう気持ちがあっただろうと思う。いや、あってほしい。

新戦術「ハイブリッド6」は点数の取れる5人が入り、相手ブロッカーのマークを避けるために、木村木村木村といったように攻撃を一人に集中させず、打数を分散化していくシステム。調子のいい選手から起用していくものだ。木村はプレーでもポイントゲッター&パスヒッターとして引っ張る役目。ただ、そういう木村であろうと、数字が悪ければ外すのが、この「ハイブリッド6」。

しかし矛盾しているようだが、あえて、それでも言いたい。沙織にはずっとコートにいてほしい。コートを一歩も出てほしくない。

チームリーダー、そういう人がコートからいなくなるということは点数以上にチームを不安にさせる。チームがまとまらなくなり、たてなおせなってしまう。だからこそ、外されることのないような数字を沙織には出し続けてほしいと願う。そのためには……。

沙織自身も、もっと進化しなければならないと思う。本人も課題と言っていたが、パワー不足、体力不足が、後半それが出てしまった。体力はすぐにつくものではない。リオ五輪までに2年かけて鍛えてほしい。

途中、木村を休ませればよかったのでは? という声も聞くが、もしかしたら考え方が昔だからと言われるかもしれないが、私はそうは思わない。海外のトップチームをみても、エースやリーダーはコートを外れることはほとんどなかった。沙織もそうできるはずだし、そうあってほしいと思うからだ。

ロンドン五輪で銅メダルを取った後、引退を考えていたが、キャプテンとして眞鍋ジャパンに戻ってきた。今回の世界バレーで、プレーに関してや筋力、体力面などについて自分のダメなところや課題が見えたと思う。それは必ず沙織を奮い立たせるエネルギーになると信じている。国内や全日本でトップや一番になってしまうと、自分を奮い立たせてくれるものを失いがちだが、こうして世界と戦って自分に足りないことに気づくと、それがまた原動力になる。私は同世代の最大のライバルであり、世界ナンバー1アタッカーのミレーヤ・ルイス(キューバの鳥人スーパーエース)に勝つにはどうすればとよいのかと研究した。また日本が勝つために「世界に勝つには世界を知らなければならない」ということで、プロ選手になり、当時、世界最高峰のセリエAに挑戦した。日本が勝つために、世界のトップ選手が集まる中でもまれて、自分をステップアップさせたかったからだ。

沙織にはプレー面でもまだまだやらなければいけないことは多くある。が、精神的支柱としても、4大会ぶりに男子を五輪(北京)に導いたの荻野(正二)のようなメンタル(意識や気迫)を持った存在になってほしい。植田監督が荻野が必要だと呼び戻し、膝もぼろぼろで満身創痍ながら率先してワンマンをやったり自分を追い込む姿を見て、まわりも頑張った。そういうリーダーに、一つ上のレジェンドに。

沙織はできる人だから、頑張ってほしい。選手として尊敬しているし、応援している。新戦術を完成させ世界一になるためにもう一回しきりなおして、オリンピックの最後の最後までコートにいてほしいと願っている。

迫田、江畑、新鍋、長岡もチームを引っ張ってほしい

木村が外れてしまったとき、どうだったか。チームにリーダーはいたのか? 第2の木村は誰なのか? それは「第2の木村」になれということではなく、「誰が引っ張るのか」ということ。世界バレーでも迫田(さおり)、江畑(幸子)、新鍋(理沙)、長岡(望結)とポイントゲッターとして日替わりで頑張ってくれていたが、特に彼女たち4人にはリーダーシップを持つ存在にもなってほしいと思う。

ソウル五輪では、江上(丸山由美)さんというキャプテンがいて、アタッカーとして自分と廣紀江さん、セッターとして久美(中田)さんというチームを引っ張る人たちがいた。バルセロナ五輪では、伊知子(佐藤)さんが主将で、久美さんが引っ張り、自分もアタッカーとしてのリーダーだった。

今の全日本を見ると、引っ張る人は誰なんだろう? リーダーは誰なんだろう?

みんな自分のプレーは精一杯頑張っているし、自分の役割はきっちりやる。迫田、江畑、新鍋、長岡の4人のアタッカーは全員、バレーを引退したらいい奥さんになるよなぁ(笑)と思うくらい辛抱強く、優しく、人のことを思いやれる選手で、自分の仕事をしっかり一生懸命やることに集中して頑張っている。そこはとても評価できる。

ただ枠が「自分」なのだ。もちろん「ハイブリッド6」ではまずそれが大事で、自分の役割をきっちりこなすのは当たり前のことであるし、表と裏の話になるが、やはりもう一歩進むには、周りもみてみようと。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」で自分が頑張ることは大事だが、まだ6つがバラバラのように見えるときがある。登山のザイルのように仲間同士、隣の人とつなぎあうために、周りも引っ張れるチームリーダー的存在になってほしい。

それができなければ、チームとしてまとまらなければ、日本が目指す4つの世界一(サーブ、サーブレシーブ、ディグ、ミスの少なさ)は達成できないと思うからだ。引退して18年、解説などでオリンピックなどすべての試合を伝えてきた人間として見てきて、データ上では全部がトップでなくても勝っているチームもあった。そういうチームには数字を超えるメンタルやチーム力がある。

4つの世界一でいえば、その要素にかかせないのがリベロだ。ワールドグランプリで見せたリベロ佐野(優子)のようなプレーで引っ張る選手はやはり必要。世界バレーで佐藤(あり紗)、筒井(さやか)の若い2人が三大大会を経験できたのはよいことだが、フェイントやディグが上がらない場面、サーブレシーブでのミスでの課題も見えた。2人はこれからの選手でしかたのない部分もあるが、高いハードルかもしれないが、佐野をこえなければ、2人にとっての次は厳しいし、4つの世界一は達成できない。リベロの切磋琢磨も楽しみにしている。

アタッカー陣が日替わりでリーダー的存在になってくれることもいいと思うが、守りの面では、要としてコートに立つことの多い新鍋にもリーダーシップを期待している。新鍋も今大会、2次ラウンドのドイツ戦からコートから外れることが多くなった。悔しさはわかるが、自己反省をするあまり、表情に思いが出てしまっていて、見ていて私も切なかった。試合中、その場で自己反省などしなくていいのだ。4人も含め、まじめな選手が多いので私のせいで、と思ってしまうようだが、そんなことはないのだ。だから、「もう一度チャンスを! いつでもいけます」という気持ちを持ってほしい。たとえはったりであろうが、そういうときに声を出すとか、そんな姿を見せることによって、チームの士気が上がるのだ。

技術、戦術面では世界がやっていないことを眞鍋ジャパンはやっているのだから、“あえての根性論”で。

古いと言われるかもしれないが、もう一ランク上がるために、そういうプラス要素が必要だと思う。

最後に、この7位で、日本はメダルから遠ざかったのか? 五輪は厳しいのか? というと、決してそうではない。メダルを取る力は十分にある。これまで「ハイブリッド6」について書いてきたが、このまま「ハイブリッド6」を続けるのか、新たな形でやっていくのか……。私にとってはそれも楽しみである。ただ、どういう形であろうと、最終的に眞鍋ジャパンの完成型のバレーを作り上げてほしい。

来年はワールドカップが初めて真夏に行われる。オリンピック1年前の前哨戦。眞鍋ジャパンを応援してあげてください。

眞鍋ジャパン、応援してあげてください。
眞鍋ジャパン、応援してあげてください。

世界バレー2014(TBS)

全日本女子チーム・メンバー(日本バレーボール協会)

ワールドカップ2015

(日本バレーボール協会)

スポーツキャスター、女優

バレーボール全日本女子代表としてソウル、バルセロナ、アトランタ五輪をはじめ、世界選手権、ワールドカップにも出場。国内では日立や東洋紡、海外では日本人初のプロ選手としてイタリアセリエAで活躍した。現役引退後は、キャスター・解説者としてバレーボール中心にスポーツを取材。日本スポーツマスターズ委員会シンボルメンバー、JOC環境アンバサダー、JVA(日本バレーボール協会)広報委員、JVAテクニカル委員、観光庁「スポーツ観光マイスター」、福島県・しゃくなげ大使としても活躍中。また、近年は演劇にも活動の場を広げ、蜷川幸雄作品や『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』などに出演している。

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