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【世界バレー】全日本女子が勝ち進むためにはサーブ!「ハイブリッド6」はもっと大胆に

大林素子スポーツキャスター、女優
木村キャプテンを中心に究極のサーブを
木村キャプテンを中心に究極のサーブを

初戦で敗れたが、負けをひきづらなかった日本

2次ラウンドに進めたのはよかったが、1次ラウンドの成績が持ち越されるためトップ通過を目標としていた日本チームとしては2位での通過はちょっと残念だった。

初戦でアゼルバイジャンに敗れたのが大きかった。アゼルバイジャンとはほとんど戦ったことがなくデーもなかった。それは相手も同じだが、日本としては本当は2日目、3日目にやりたかっただろう。1995年、私がイタリア・セリエAのアンコーナでプレーしていたとき、チームメートにアゼルバイジャンの選手がいた。アゼルバイジャンには実は、セリエなど外国のトップリーグにいち早く参加するようないい選手がいたが、国家をあげて強化し始めてから、ナショナルチームとしても急成長。ひそかに力をつけていた。

日本は集中できていて出だしで8-0とリードするなど、いいスタートダッシュだったが、気を緩めたわけではないと思うが、どこかで受身になってしまい、そこにアゼルバイジャンがうまく入り込み、2セット目から調子づかせて未知なる能力を目覚めさせてしまったようだ。

セッター中道(瞳)、対角に迫田(さおり)、ミドル位置に石田(瑞穂)と長岡(望悠)、 パスヒッターが木村(沙織)と新鍋(理沙)という先発にもあれっと思ったが、眞鍋監督はその日の調子やデータでメンバーを考え、サプライズ采配もよくあるので、そういうことかとも。リオ(迫田)が復帰して調子もよかったので使っていきたい思いもあっただろうし、石田に関してはワールドグランプリで大事なところで危機を救っていた印象があったのだろう。苦しい場面にもエバ(江畑幸子)らを投入しなかったのは、アゼルバイジャンにはこのメンバーで乗り切れるという思いがあったのかもしれない。誤算だったか。

開幕戦には落とし穴がある。しかも1次ラウンド1位通過しなくてはという見えないプレッシャーがあったのではないかと思う。

ただ格下に負けた後ですぐに切り替えられたのはよかった。2戦目の相手ベルギーとはワールドグランプリで戦っており、急速に力をつけているのがわかっていた。“嫌だな”という気持ちがあったと思うが、選手たちは落ち着いていて冷静だった。この日は先発を変え、ミドル位置に大野(果奈)、オポジットに江畑を起用、2人が活躍し、勝つことができた。

これこそ眞鍋ジャパンの武器であり、「ハイブリッド6」ならでは。全員で戦っているので、このメンバーでダメならこのメンバーと、負けをひきづらないメンバーで新たに戦うことができる。1人2人変わるだけでも組み合わせや攻撃パターンがかなり違ってくるので有効だ。新戦術は連戦ではとても助かる。

しかし、このチームに対してはこの選手がいいとデータをみながら起用を決めているはずだが、組み合わせなど一つ間違えると、掛け違いではないが、機能しなくなる。

中国戦のスタメンを見たとき、中国はブロックが高いので迫田の真ん中からの攻撃が止められはしないだろうか、もっとサイドからしかけた方がいいのではないかとの思いがよぎった。その不安が現実となり、序盤から迫田がミスをしてしまうなど、真ん中からの攻撃が機能せず、サイドからの攻撃パターンに切りかえるタイミングも逃してしまった。そうして第1セットを先取されてしまった。

その後、江畑や大野らを入れ第2セットを取り返し、第3セット途中からは再び迫田や石井(優希)を戻して大逆転でセットを奪ったが、大事なところでサーブミスやスパイクミスが出てしまい、さらに2本目を誰が取る?といったような、人が頻繁に変わることで出てしまった細かい連携ミスもありフルセットの末、敗れてしまった。

日本は究極のサーブで攻めなければ!

2次ラウンドから先、日本が勝ち進んでいくためのポイントは何か。

やはり相手によってメンバーを選んでいくと思うが、選ばれて出たときにそれぞれが最高の状態で戦えるかもそうだが、一番大事なのは、やはりサーブ。日本は普通にいいサーブではダメ、究極のサーブを打たなければ勝てない。海外のトップチームに比べて、攻撃力、ブロック力では劣るからだ。

中国戦を見てもわかるように、サーブで崩せばセットを取れたり、大逆転もできる。逆に決定率、効果率が下がりポイントを奪えなければ負けてしまう。思い起こすとロンドン五輪もそうだが、日本のメダル獲得は、すべてがサーブから始まっている気がする。1本1本突きつめて打ってほしい。

ミスももう少し減らしたい。サーブミスもそうだが、スパイクミス、コンビミス……。細かい連携ミスなどは練習や試合を重ねることで減ってくるとは思うが、金メダルを狙うチームは自分たちからミスを出しては絶対にいけない。長丁場の戦いでも常にいい状態で戦えなければ、メダルは厳しくなる。

眞鍋監督が金メダルを取るために必要と話す4つの世界一。とても繊細なことだが、「サーブ」「サーブレシーブ」「ディグ」「ミスの少なさ」の4つのバランスが崩れてしまったら、日本は勝てない。4つが世界一にならなければ金メダルは取れない。

そういう意味では、中国のような相手にはサーブでもっと攻めなければならなかった。時間差が少なく、ブロード、サイド、Bクイック、レフトとまだ単純な攻撃をしていたので、エースのシュ・テイなどのスパイクももっと拾いたかった。

日本は前回の世界バレーで銅メダル、ロンドン五輪で銅メダル、ワールドグランプリで銀メダルと力をつけてきている。次の段階に上がったからこそ、勝ち続けることのたいへんさを感じていると思う。今は金メダルしか見えていないと思うが、そのためには一時でも気を緩めてはならない。ヨーロッパ勢と戦う2次ラウンドでも、「4つ」のアイテムは大事になる。一つもかけることがないようにしなければメダルには届かない。それは数字からも見えている。

そしてもう一つはブロック。やはりランキング上位との戦いではブロックも大事になってくる。ブロックに関してはこれからさらに鍛えていくのだと思うが、2次ラウンドやこの先ではブロック得点は難しいとしても、なんとかワンタッチを取っていきたい。今年は世界バレーが最大の目標だが、来年のワールドカップ、2年後のリオ五輪を思うと、ブロックは欠かせない。力を入れて強化すべきポイントだと思う。

「ハイブリッド6」は、もっと機動力を

新戦術はまだ始まったばかり。そんな今だからこそ、進化するために、もっと思い切ってやってほしいと思う。

劣勢になると、まだまだ木村に頼ってしまうなど(中国戦は木村が頑張らなければならなかったのも事実だが)思うような形が出せないことが多い。長岡もサイドで打つことがほとんどで本来の機動力が発揮できていないように思える。ハイブリッドだからこそ、もっと複雑にもっと大胆にしかけたい。リスクがあっても挑戦していってほしいと思う。

バックアタックに関しても、速くはなったが、ミスがあったり、読まれてブロック一枚になったときなど、シャットされる(止められる)場面が多かった。強い相手だと、安易に打って決まるということはないので、特にリオ(迫田)などにはもっとコース打ちなど細かく工夫して打ってほしい。滞空力があるし、できるはずだから。

迫田だけでなく、そういう技術はこれから全員が身につけなければならない。新鍋や江畑もコンビがあっていなかったり、サイドのトスが思うところに来ず、入りすぎてかぶってしまったときなど、打つところがなく難しいとは思うが、そのまま打って簡単にシャットされることがある。そういうとき、木村のようにハーフで打ってみるとか工夫ができたら、ブロックされる場面を少しでも減らすことができたらいい。

ぎりぎりのところでそういうことがやれないと、やはりメダル争いという高いレベルの中では勝てないからだ。

長岡には「世界のレフティー」になってほしい

同じ左の長岡に思いを託して
同じ左の長岡に思いを託して

同じ左利きということで、長岡には特に期待している。グランプリと比べるとまだ機動率が低い。これから乗ってほしいと思う。苦しいときにまかされる「世界のレフティー」になるために1ランク2ランク上にいってほしいと思っている。今のミドルの位置での役割としては、もっと動いていくことも必要だ。切り込んだり、クイックやブロードなど、もっと攻撃パターンを増やしていきたい。

バランスがよく何でもできるしどこからでも打てる選手だが、サイドの速い攻撃に加え、自分の「これ」というもの、絶対の決め手がもう1つ2つあるとさらによくなる。これだったら切れるというもの、木村のレフトとか新鍋の速いライトのような、長岡自身が自信を持って打てるものが増えればチームとしても強みが増す。長岡には世界で一番のエースになってほしいと思っている。レフティーだった自分の思いも託しているので頑張ってほしいと思う。

きょうは誰がどこに入るのか、それも楽しみに見てほしい

眞鍋ジャパンは日替わりでヒロインが出る。どの布陣がベストかは難しい……。

セッターは宮下、中道ともにサーブやディグがよく、ブロックを見れば宮下だが、トスの正確さや精神面の支えでは中道と甲乙つけ難い。

またミドル位置を考えても、長岡、グランプリから急成長した大野(今年初めて選ばれたばかりながら自分が引っ張ると話すなど頼もしい存在で周りのいい刺激にもなっている)、世界バレーからミドルに入った石井、あるいはグラチャンで真ん中からスコーピオン攻撃をしかけた迫田(世界バレーではオポジット)と多く選択肢がある。

オポジットは江畑がいいか迫田がいいか、グランプリのように石井も、と、ここもいろいろ考えられる。

そんなふうに固定されていないのが「ハイブリッド6」の面白さ。

きょうは誰がどこに入るのか、どれが一番効果的なのかも楽しみに見てほしい。

新戦術がどう進化するか、世界のトップを相手にどこまで通用するか、私も楽しみにしている。

ポイントゲッターの江畑と
ポイントゲッターの江畑と

世界バレー2014(TBS)

全日本女子チーム・メンバー

(日本バレーボール協会)

スポーツキャスター、女優

バレーボール全日本女子代表としてソウル、バルセロナ、アトランタ五輪をはじめ、世界選手権、ワールドカップにも出場。国内では日立や東洋紡、海外では日本人初のプロ選手としてイタリアセリエAで活躍した。現役引退後は、キャスター・解説者としてバレーボール中心にスポーツを取材。日本スポーツマスターズ委員会シンボルメンバー、JOC環境アンバサダー、JVA(日本バレーボール協会)広報委員、JVAテクニカル委員、観光庁「スポーツ観光マイスター」、福島県・しゃくなげ大使としても活躍中。また、近年は演劇にも活動の場を広げ、蜷川幸雄作品や『MOTHER~特攻の母 鳥濱トメ物語~』などに出演している。

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