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どうして日銀は12月に利上げをしなかったのか、part2

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 18、19日に開催それた日銀の金融政策決定会合の主な意見が公表された。どうして今回、利上げが見送られたのかをこちらからも探ってみたい。

 「利上げ判断の焦点は、国内面では、賃金・サービス価格・個人消費の動き、海外では米国の経済と政策運営、そのもとでの金融資本市場の動向である。これらについては、賃金という面では春季労使交渉に向けた動きを、米国という面では新政権発足を確認していくのが常識的である。」

 これはたぶん内田副総裁からの意見であるかと思う。

「常識的である」という部分が気になるが、「賃金という面では春季労使交渉に向けた動き」、そして「米国という面では新政権発足を確認して」という点が強調されている。

 春季労使交渉については、集中回答日に当たる「ヤマ場」が3月中旬あたりとなる。また、次回の決定会合は1月23日、24日となり、トランプ大統領が就任する20日直後となる。

 このため、利上げが次回あるとしても1月ではなく、常識的であるの意見者からは、3月の可能性が高いということであろうか。

 「先行き、国内における税制・財政を巡る議論の行方や、来年初に米国で発足する新政権の政策スタンスに、大きな不確実性がある。そのため、リスクマネジメントという観点から、今回は、金融政策は現状維持とすることが適切だと考える。」

 これも12月に見送られた理由のひとつかもしれない。ただし、19日時点である程度、来年度予算編成の行方には目途が立っていた可能性はある。

 「物価のアップサイドリスクについては、現状では、利上げの切迫した理由にはなっていない。輸入物価は落ち着いており、円キャリーが積み上がる状況でもない。」

 どうもこの発言者、利上げは追い込まれないとしないものという認識なのかと。淡々と利上げはしていくものであり、12月は市場も落ち着いていたのでむしろチャンスだという認識が常識的ではないかと。

 「経済状況の進展がオントラックである場合、政策金利調整のタイミングは、目標達成時点から逆算した利上げペース配分と、それぞれの時点での上下リスク状況という二つの要因に依存すると考える。そうした観点からは、今回は現状維持が適当である。」

 そのタイミングは12月でもおかしくはなかったように思うのだが。この方はある程度のスケジュール感を持っているということであろうか。

 「大・中堅企業や比較的規模の大きい中小企業の労働分配率が低下し明るい兆しもみえるが、まだ多くの中小企業の稼ぐ力の改善は力強さに欠ける。また、海外経済は欧州・中国の回復の遅れ、米国の経済政策動向等、不確実性が高い。経済改善の進捗をデータで確認する必要があるため、当面は現状の金融政策を維持することが適当である。」

 要はオントラックではないということななのか。

 「経済と物価は、本年3月時点の見通しからオントラックである。海外経済を巡る不確実性も変わりなくあるが、金融緩和の度合いを調整することができる状況である。」

 こちらの方はオントラックだと。今回、利上げを提示した田村委員か。

 「ビハインドザカーブに陥るリスクは限定的だが、基調的な物価は着実に底上げされている。利上げを判断する局面は近いが、現段階では、米国経済の不確実性が一巡するのを今しばらく注視する辛抱強さも必要である。」

 もしかすると12月の利上げ賛同派がもうひとりいたのかもしれない。

 「金融政策のアクセルを少しだけ緩め、必要な場合に急ブレーキを避けつつ減速できるようにすることが必要な局面にある。」

 同一発言者の複数意見が掲載される場合もあると思うが、たぶん利上げ派はもう一人いたようだ、

 「経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでおり、データやヒアリング情報に基づいてフォワードルッキングに、適時・段階的に金融緩和の度合いを調整していくことが、物価の安定を通じて、国民経済の健全な発展に資する。」

 さらにもう一人いたようだ。

 「物価上昇が3年続くなか、円安進行等に伴う輸入物価の上昇が、基調的な物価の一段の底上げや「物価安定の目標」実現に繋がるだけに、前もって金融緩和度合いの調整を行うことも必要である。」

 あれっ、さらにもう一人、、、。

 「現実的なスケジュールでの利上げによる本行財務の影響は限定的であり、本行財務の健全性は保たれることを示す必要がある。」

 利上げによる本行財務の影響は限定的であり、やらない理由にはならないと。

 どうやら主な意見を見る限り、2007年1月の金融政策決定会合と同様の雰囲気であったのかもしれない。

 2007年1月も0.5%への利上げ機運が高まり、審議委員3名が0.5%への利上げを議案提示したが否決された。今回も同様に審議委員の間に追加利上げ機運が高まるも執行部に「常識的判断」ではないと一蹴されてしまった可能性がある。

 利上げ賛成派がもしや半数近くいたとして、これで1月に利上げかとみるのか。「常識的である」の意見者(たぶん執行部)の意見からは1月ではなく3月を想定しているようにも思われる。1月の決定会合の結果が果然、面白くなってきた。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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