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日銀総裁は物価見通しの誤りを認める

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日銀の植田和男総裁は8日の衆院財務金融委員会で、政府・日銀が掲げる物価2%目標の達成に向け、「物価と賃金の好循環が少しずつ起きている」との認識を示した。その上で「(好循環が)まだ少し弱いことを考えて現在の緩和政策を維持している」と述べた(8日付日本経済新聞)。

 植田総裁は「少し」を強調しているようにみえるが、むしろ「少し」という言葉を加えることで、金融緩和策をこれまで変えてこなかった姿勢の理由付けをしているかにもみえる。

 現在のイールドカーブ・コントロールやマイナス金利などの大規模緩和をいつまで続けるかについては、好循環の見通しが「ある程度の確度で持てる状態になるかだ」と強調した。

 そもそもその好循環に持っていくのに、長期金利のコントロールやマイナス金利がどうして必要となるのかの説明はない。

 総裁はこれについては6日の名古屋での講演で「イールドカーブ・コントロールの枠組みのもとで粘り強く金融緩和を継続することで、経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていくことが政策運営の基本となります」と説明している。

 粘り強く金融緩和を継続するのにどうしてイールドカーブ・コントロールの枠組みが必要なのか。マイナス金利を含め、欧米の中央銀行などとの金融政策のそもそもの方向性の違いが円安となり、それによってさらにコストプッシュ型の物価上昇を引き起こしてはいまいか。

 それがむしろ経済活動を阻害しているとはいえないであろうか。イールドカーブ・コントロールやマイナス金利を槐樹することで、金融政策の正常化を行う。それによって金融政策柔軟性と機動性を取り戻すことが何より重要ではないのか。

 総裁は衆院財務金融委員会で「実質賃金が必ずプラスに転じていなければいけないかというと、必ずしもそうではない」と話した。

 あたりまえといえばあたりまえで、いまの物価高に賃金上昇が加われば、本格的なインフレを起こしかねない。

 総裁は、日銀が消費者物価指数の見通しの上方修正を繰り返していることには、誤りがあったことは認めざるを得ないと発言した。

 これは見通しそのものに大きなバイアスが掛かっていたことが要因であった。2%の物価目標を掲げながら、その2%の物価目標が達成されたら困るので、見通しそのものを低く抑えているとみられても致し方ないのではなかろうか。それ以前に2%の物価目標は数値上はすでに達成されているのであるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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