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過去10年で最悪の黄砂、日本への影響を検証

竹村俊彦九州大学応用力学研究所 主幹教授
2021年3月15日の北京(写真:ロイター/アフロ)

2021年3月15日、北京では高濃度の黄砂に覆われました。この現象について、「過去10年で最悪の黄砂、中国でなぜ発生した? 日本への影響を解説」として、3月16日に速報的に解説しました。その時点では、日本への影響は予測でした。それでは、実際にどうだったのか、事後検証してみました。

予測どおりに地上付近では大きな影響なし

北京での深刻な黄砂現象の映像や写真を見て、日本への影響を危惧された方が多かったのではないかと思います。しかし、一昨日の解説のとおり、地上付近の空気の状態を示す気象庁の予測や私自身のコンピュータシミュレーションの予測では、それほど多い黄砂の飛来は予測されていませんでした。

結果、この予測は当たっていました。日本各地での大気の環境のモニタリングの1つの項目として、「浮遊粒子状物質」というものがあります。これは、PM2.5よりも大きい直径10ミクロンまでの粒子の濃度を測定している項目で、黄砂のような大きめの微粒子が多いと数値が高くなります。しかし、3月16日と17日の濃度は、若干高めではありましたが、普段と同じようなレベルでした。例えば、福岡県では、1立方メートルあたり20〜40マイクログラムでした。黄砂を大量に含んだ空気を吸うことからは免れました。ちなみに、北京では、1立方メートルあたり約1000マイクログラムでした。すごい値です。

上空では黄砂が通過

一方、一昨日の解説では、私自身のコンピュータシミュレーションに基づいて、日本の上空には黄砂が飛来すると予測しました。これについても当たっていたようです。

下の図は、私の研究室がある福岡県春日市(福岡市の南隣)にて、専門の測器を使って測定した、過去1週間の空気全体の微粒子に関するデータです。赤点は空気中の微粒子の量、青点は微粒子の大きさの目安を示しています。青点は、普段は1ぐらい、PM2.5が多いときは1.5ぐらいになります。しかし、3月17日(黒丸の部分)は、はっきりと0.5前後の値を示しています。これは、微粒子の中でも大きめサイズである黄砂が飛来したことを示しています。地上付近の濃度は上がらなかったということは、上空に黄砂が存在したということです。目で見ても、空はいくらか霞んでいました。

福岡県春日市での過去1週間の空気全体の微粒子に関する測定結果
福岡県春日市での過去1週間の空気全体の微粒子に関する測定結果

コンピュータシミュレーションは重要

予測しっぱなしでは良くないと思い、実際にどうだったかを、簡単にではありますが、確かめてみました。北京では相当な黄砂現象だったので、専門家による詳細な研究が今後なされるでしょう。

普通の天気予報もそうですが、黄砂や大気汚染の状況も、物理法則に基づいたコンピュータシミュレーションによって、かなり的確に再現したり予測したりできることが理解して頂けたかと思います。北京で黄砂がひどかったから、日本でも深刻な影響になるとは限らないのです。これは、コンピュータシミュレーションをしてみないと分かりません。

九州大学応用力学研究所 主幹教授

1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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