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習近平ベトナム訪問の主目的は共産主義国内で暗躍するNEDに対する共闘

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平がベトナム訪問(写真:ロイター/アフロ)

 12月12日~13日、習近平国家主席がベトナムを訪問した主たる目的は両国内で暗躍するNED(全米民主主義基金)に対する警戒と共闘だった。ベトナム戦争後もアメリカはベトナムの南方派に支援を続け北方派が中国と関係を深めることを阻止しようしてきた。ベトナムにおけるNEDの暗躍は1987年以降に目立つ。特に今年は親米の南方派が敗北したのでNEDの暗躍は活発化するだろう。

 中国に関しては香港や台湾および中国大陸にまでNEDは浸透している上に、年明けには台湾の総統選がある。両国ともにNEDと闘わねばならない。

◆中越共同声明にNEDの「カラー革命」を阻止

 習近平が12月12日から13日にかけてベトナムの首都ハノイを訪問したことを、日本のメディアでは「習近平の焦り」とか「国内問題からの逃亡」といった批判で報道する傾向にあり、中には「ユーは何しにベトナムへ?」と茶化したものさえある。

 「国内問題からの逃亡」説に関しては、中国では12月11日から12日にかけて中央経済工作会議が開催されているのに、最終日の12日にはもうハノイにいたという事実を批判の対象にしている。

 しかし経済に関する会議に関しては11月27日に習近平は中共中央政治局を招集して会議を開き、<「長江経済ゾーンのハイレベル発展」と「中国共産党領導外事工作条例」>に関して審議し、その日の午後に習近平は<第10回「対外法制度構築強化に関する共同研究」>に関する集団学習会を開催している。

 一方、12月6日に中共中央は中南海で党外人士を集めた座談会を開催し、企業など多方面にわたる経済活動に関する意見を求め、習近平が重要講話を発表している。

 また12月8日には、習近平は中共中央政治局会議を招集し<2024年经济工作に関する分析研究>をしているだけでなく、12月11日から12日にかけて開催した<中央経済工作会議で習近平は既に重要講話をしている>ので、その最後のまとめを李強総理に頼んでハノイに行ったことは決して「国内問題からの逃亡」とは言えないだろう。

 「焦り」に関しては、バイデン大統領が9月10日~11日にベトナムを訪問したことを指しているようだが、ベトナム共産党書記長と習近平(中共中央総書記)との相互訪問は2015年4月から始まっており、2022年10月にはベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長が中国共産党第20回党大会後、国家元首代表団としてベトナム指導者らを率いて中国を訪問した。今回、習近平がハノイを訪問したのは3回目の相互訪問ということになる。したがってバイデンの訪越とは関係ないので「焦り」と批判するのは実態と乖離している。

 もしアメリカとの関係を論ずるのならば、約1年前の「白紙運動」がある。

 拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』で詳細に考察したように、「白紙運動」は明らかにアメリカのNED(全米民主主義基金)が起こさせたものであり、ベトナム共産党も中国共産党もNEDの暗躍を強く警戒している。

 その証拠に12月13日の中国共産党機関紙「人民日報」が発表した<中越共同声明>には、以下のような文言がある。( )内は筆者の注釈。

 ――(中越)双方の情報交換を強化するとともに、反干渉(内政干渉に反対すること)や反分裂(国内の反政府主義者を煽って政府転覆を狙う運動に反対すること)などの問題に関する経験の共有と協力を強化し、反動的な敵対勢力の「平和的手段による演変(長時間をかけて知らず知らずの内に起きる革命的変化)」「カラー革命」や国家分裂(分離主義)を阻止する。宗教違反を取り締まり、外国の非政府組織を管理する法律制定に関する(中越両国間の)協力を強化し、そのための人材育成を促進することも協力し強化する。(共同声明の引用はここまで。)

カラー革命というのは、前掲の『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』や12月13日に出演した「Front Japan 桜」の<第二のCIA『NED』紛争仕掛け人の正体>でも説明したように、NEDが、親米的でない他国の政権や国家を、アメリカ流の民主主義体制に持って行くために、「民主の衣」を着て「市民運動の姿」をしながら行う政府転覆運動である。

 直接戦争を仕掛けるわけではないので、中国では「和平演変」と呼んでいる。カラー革命の中国語は「顔色革命」だ。

◆ベトナムでNEDによって行われ続けてきた「和平演変」

 習近平は12月12日~13日の訪越で、中共中央総書記としてベトナム共産党中央委員会のグエン・フー・チョン書記長と会談し、中華人民共和国国家主席として「ベトナム社会主義共和国のヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席、ファム・ミン・チン首相、オン・ディン・フエ国会議長」と会談した。

 なぜこのように複雑なことになっているのかというと、ベトナムは4頭馬車(トロイカ)体制で動いているからだ。

その原因はアメリカにある。

 今さら言うまでもないが、1960年代初期、南北に分断されていたベトナムで内戦が起きたいたのだが、1964年にアメリカのCIAが「トンキン湾事件」という事実無根の口実を捏造し、本格的に介入して冷酷無残なベトナム戦争へと発展していった。

 北は社会主義のベトナム民主共和国(北ベトナム)で、南は資本主義のベトナム共和国(南ベトナム)だったが、アメリカが徹底して南ベトナムを支援。しかし北ベトナム軍のゲリラ戦を相手に苦戦し、結局は和平協定を結んでアメリカは撤退した。実質上、1975年4月に北ベトナム軍が南ベトナムの首都サイゴン(現在のホーチミン市)を陥落させるまで続いた。

 しかし、1983年にNEDが創設されると、NEDは1987年からベトナムで活発に動き始め、主としてAssociation of Vietnamese Overseas(海外ベトナム人協会)という組織を支援し、Que Me(ベトナム語でhomeland)というベトナム語の雑誌を出版したりなどして、共産主義国家となったベトナム政権を転覆させようと「静かに深く、長期にわたって」動いている。

 念のために1987年以降のNEDのベトナムにおける活動金額推移を示すと図表のようになる。

図表:NEDのベトナムにおける活動金額推移

NEDの年次報告書に基づき筆者作成
NEDの年次報告書に基づき筆者作成

 そのため4頭馬車のうち2頭は南方派から、2頭は北方派から輩出するなどのバランスを保っていた。時には北方派が3頭で南方派が1頭あるいは北部2,中部1,南部1という時もあった。それが今年1月には、ベトナム共産党中央委員会会議が開催され、4頭馬車の中に南方派がいなくなり、北部2,中部2になってしまったのである。

 というのも南方派はホーチミン市を中心に親米で経済活動が活発だが、その分だけ腐敗が激しく、コロナのワクチンや検査キットあるいは帰国のための航空券購入などさまざまな形で暴利をむさぼる行政関係者が続出して、国民の不満が充満し、遂に南方派のトップが辞任する事態に至ったのであった。

 これに関しては中国のネットに<親米派大崩壊! これは中国にとって何を意味するのか>という論考がある。

 となると黙っていないのがアメリカ、NEDだ。

 なんとしても北方派を倒そうと激しく暗躍するだろう。

 そのためチャン書記長は一刻も早く習近平に訪越してほしいと望んだに違いない。

 それが表れているのが前掲の共同声明である。

 引用部分に書いたように、どのようにしてNEDが暗躍できないように管理し、そのための法制定を行うかを協力して強化していくと、共同声明に謳っている。

 中国では1994年来の香港におけるNEDの激しい活動を抑えるために香港国安法(中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法)を制定したし、台湾に関してはアメリカ、特に1994年来のNEDの活動により台湾独立を煽る動きに対して2005年に「反国家分裂法」を制定している。また中国大陸内でのNEDの暗躍に対しては「改正スパイ法」を制定したばかりだ。

 ベトナム共産党のチョン書記長は、現状を維持するために、どうすればNEDの暗躍を抑えることができるかを習近平から学びたい。だから一刻も早く習近平に訪越して欲しいと望んでいただろう。習近平にしても台湾総統選があるので、NEDの暗躍を抑えたい。

 両国は「いざという時のため」に防衛・安全保障面でも協力を強化すると共同声明で謳っている。そのために一帯一路事業による鉄道敷設に関して、鉄路幅を中国型に合わせることにして軍事物資の運搬の便宜さも計算に入れているほどだ。

 この状況に対して「焦った」のはアメリカで、12月18日のハノイ・ロイター電は<ベトナムと中国の関係強化、米大使館「緊密な協力に影響せず」>と、強気の姿勢を示しているものの、ロイター記者がこういうテーマで取材をすること自体が、その視点の鋭さを示し、興味深い。

 習近平を罵倒しさえすれば溜飲が下がり読者が付くという日本メディアの傾向は、日本国の利益につながっているのだろうか?

 習近平の動きを分析する時には、その背後にあるNEDの暗躍と国際関係を見抜かなければ日本の国益にはつながらないと懸念する。

 なぜなら「台湾有事」を創り出しているのは「第二のCIA]であるNEDで、ひとたび「台湾有事」となれば日本国民は必ず戦争に巻き込まれ、命を失う。日本国民の命がかかっていることを肝に銘じるべきだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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