新型コロナとインフルエンザのmRNA混合ワクチンが今後の主流に? なぜ混合するのか
新型コロナとインフルエンザのメッセンジャーRNA(mRNA)混合ワクチンの臨床試験が開始されました。有効性と安全性が示されれば、いずれこの混合ワクチンが使用されることになると考えられます。なぜ混合にする必要があるのでしょうか。
mRNAワクチンと不活化ワクチン
新型コロナに用いられているmRNAワクチンというのは、ウイルスのタンパク質をつくるもととなる遺伝情報の一部を接種して、ウイルスに対する抗体を獲得するという画期的なワクチンです(図1)。効果と安全性が高いことから、世界におけるワクチンの発展に大きな一歩となりました。
一方、現在国内で用いられているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンといいます。不活化ワクチンは、死んだウイルスの一部をワクチンとして接種するものです(図1)。
なぜ混合する必要があるのか?
では、なぜ混合ワクチンにしないといけないのでしょうか?理由の1つとして、海外でインフルエンザと新型コロナの同時流行が確認されていることが挙げられます。両ウイルスを効果的に抑えこまないといけません。
日本では、現時点で幸いにも同時流行は起こっていませんが、今シーズンにおいては両ウイルスの同時流行が警戒されています。
現在、新型コロナとインフルエンザのワクチン同時接種が認められています。とはいえ、同じ販路で流通しているわけではなく、同じタイミングで接種できない場合もあり、時期を分けて接種するというのはよくある光景です。
新型コロナは今後も流行を繰り返すと予想されています。年何回も流行を繰り返し続けるかどうかは不明ですが、いずれにしてもインフルエンザとともに定期的にワクチン接種をしていく必要があると考えられます。
そのため、両方のワクチンをパッケージしてしまったほうが何かと便利です。国民全体の集団免疫を形成する上で、有効な戦略と言えます。
混合ワクチンの臨床試験が開始
「急いでインフルエンザワクチンをmRNAワクチンにしよう」と思いついたわけではなく、実は何年も前から検討されてきたことです(1,2)。
マウスの研究では、混合ワクチンの接種によってA型インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス抗体価のいずれも上昇が確認されています(3)(図2)。
追跡では接種から2か月以上経過しても、混合ワクチンがいずれものウイルスからマウスを保護することが示されています。
先日ファイザー社が、新型コロナとインフルエンザの両方に効果があるメッセンジャーRNAの混合ワクチンについて、臨床試験を開始しました(4)。ヒトに対する有効性が示されれば、今後このワクチンが使用されるようになるでしょう。
多くのウイルスにmRNAワクチンを使う時代へ
毎年私たちが悩まされているインフルエンザ、RSウイルスだけでなく、免疫抑制状態にある患者さんに感染するまれなウイルスまで、多くのウイルスのワクチンが今後mRNAワクチンに変わっていくと予想されます。
不活化ワクチンなどと比べると効果が高いことも理由の1つです。
将来的には、がんや循環器疾患など、感染症以外の分野にも応用が期待されています。
(参考)
(1) Bahl K, et al. Mol Ther. 2017; 25(6): 1316-1327.
(2) Feldman R, et al. Vaccine. 2019; 37(25) :3326-3334.
(3) Ye Q, et al. npj Vaccines. 2022; 7: 84.
(4) ファイザー社プレスリリース(URL:https://www.pfizer.com/news/announcements/pfizer-and-biontech-initiate-phase-1-study-single-dose-mrna-based-combination)