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鎌田・堂安選外の理由、南野にかかる期待とは? 日本代表10月シリーズ選考を読み解く

元川悦子スポーツジャーナリスト
今回選外となった堂安律(右)と復帰した南野拓実(左)(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

10月はカタールW杯出場国のカナダ&チュニジアとの2連戦

 9月のドイツ(9日=ヴォルフスブルク)・トルコ(12日=ゲンク)2連戦で4-1、4-2と派手な勝利を挙げた日本代表。ドイツのハンジ・フリック、トルコのステファン・クンツ両監督を解任に追い込んだ森保一監督の手腕が世界に高く評価され、日本は最新FIFAランキング19位にまでジャンプアップした。

 快進撃が続くチームが次に挑むのは、10月のカナダ(13日=新潟)・チュニジア(17日=神戸)2連戦。両国とも2022年カタールワールドカップ(W杯)ではグループリーグ突破を果たせなかったが、悪くない相手と言っていい。

 カナダはカタールW杯直前のテストマッチ(ドバイ)で戦い、控えメンバー中心の陣容で挑んで、1-2の逆転負けを喫している。ホスト国として2026年北中米W杯開催を控えていることもあり、強化にも熱心だ。個々のレベルも高い好チームだ。

 そしてチュニジアも昨年6月に大阪・吹田で対峙し、0-3で完敗を喫している。球際の強さと力強さでは明らかに日本を上回っており、そう簡単には勝たせてもらえない相手と見るべきだ。

 それだけに、森保監督もそこまでテスト的な陣容で挑むつもりはなかったのだろう。実際、4日に発表されたメンバー26人は「ほぼ現状のベスト」と言っていい顔ぶれだ。

9月からの変更は5人。注目点の1つはW杯を棒に振った中山の復帰

 9月シリーズから入れ替わったのは5人だけ。まず既定路線だったのはGKとDFのところ。シュミット・ダニエル(シントトロイデン)と中村航輔(ポルティモネンセ)が外れ、新たに前川黛也(神戸)と鈴木彩艶(シントトロイデン)がメンバー入り。森下龍矢(名古屋)に代わってカタールW杯を負傷辞退した中山雄太(ハダースフィールド)が11か月ぶりに招集されたのだ。

 シュミットの選外は現所属先での扱いを考えるとやむを得ないこと。中村にしてもトルコ戦の負傷の後、試合に出ていないため、見送りは妥当だろう。そこで前川と鈴木彩艶という選出も合点がいく。前川は今季J1首位を走る神戸の守護神で、リーグ通算最小失点数も2位。2021年にも代表招集経験があり、浮上してくるのも理解できる。パリ世代の鈴木彩艶の方は「試合にさえ出るようになればすぐに日本のトップGKになれる」という評価が前々からあった逸材。ここでA代表を経験させておくことはプラスではないか。

中山雄太は左SBのファーストチョイスになれるのか
中山雄太は左SBのファーストチョイスになれるのか写真:森田直樹/アフロスポーツ

 中山はいつ代表に戻ってくるか注目されていた。というのも、カタールW杯予選では長友佑都(FC東京)と真っ向から左サイドバック(SB)競争を演じ、かなり主力に近いところまで行っていたからだ。昨年11月にアキレス腱断裂の重傷を負っていなければ、彼は間違いなくW杯のピッチに立っていたはず。森保監督も復帰を待ちわびていたに違いない。そして迎えた今季、戦線復帰を果たし、直近4試合連続で先発を続けている。

「復帰してから、2節前は打撲で途中交代したが、フル出場できている。イングランド・チャンピオンシップというハイインテンシティな高い強度の中で1試合戦えるだけの体力が戻っているのを確認したうえで招集した」と指揮官は自信を持って選出。左SBの主力候補に据えていく構えだ。

 3月の第2次森保ジャパン発足後はパリ世代のバングーナガンデ佳史扶(FC東京)や森下など新たな人材にトライしてきた森保監督だが、9月2連戦で伊藤洋輝(シュツットガルト)を連続先発させたことで分かる通り、基準に達していると見ているのは伊藤洋輝だけ。そこに中山が加わることで2人を併用できるし、伊藤洋輝を2センターバック(CB)の一角や3バックのDFに回す余裕も出てくる。期待の大きい中山の状態がどのくらい戻ってきているのか、ケガ以前よりもスケールアップしているのか。そのあたりを見極めるところからのスタートになる。

鎌田・堂安を外して、南野・旗手を抜擢した森保監督

 そして攻撃陣だが、鎌田大地(ラツィオ)と堂安律(フライブルク)が選外となり、南野拓実(モナコ)が満を持して復帰。9月シリーズは直前のケガもあって外れていた旗手怜央(セルティック)も戻ってきた。

「鎌田と堂安については、(代表とクラブの)メディカル間を通じて、チーム同士で確認を取ったうえでコンディション不良ということで招集を見送った」

 森保監督はこう説明したが、鎌田に関しては、ひざにたまった水を抜く治療を行うのがメインの理由だという。それはそれで重要なことだから、しっかり治療してほしいが、指揮官は新天地・ラツィオでの適応の遅れにも配慮したのではないか。フランクフルト退団後、彼の移籍先決定が8月までズレこんだうえ、チームが不振にあえいでいる。そこへきて直近リーグ3戦は先発落ち。10月4日のUEFAチャンピオンズリーグ・セルティック戦は先発フル出場し、チームも逆転勝ちしたが、鎌田自身がまだまだ難しい局面にいるのは確かだ。そういう時に10日間、日本に帰国させるのは、代表の今後を考えても得策ではない。今回の代表選外は懸命な判断と言っていい。

 堂安に関しても、親知らずの痛みの影響で今季リーグ開幕戦でスタメンから外れて以来、チームで低調な状態が続いている。その抜本的治療に専念するための選外のようだ。9月シリーズを振り返っても、ピッチに立ったのはドイツ戦の終盤6分間とトルコ戦の前半だけ。トルコ戦では伊藤敦樹(浦和)の先制弾をお膳立てはしたものの、本人としても納得いかなかったのか、報道陣の前を無言で通り過ぎていった。そういう苦境の時はやはり所属先で自分自身の心身両面とプレーをしっかりと見つめ直した方がいい。森保監督もそう考えたからこそ、10番を与えた選手をあえて選ばなかったのだろう。堂安にとってはまさに正念場だが、与えられた立て直しの時間を大事にしてほしい。

今の鎌田大地はラツィオ適応が第一。今季初ゴールを決めたナポリ戦のような目に見える活躍が必須だ
今の鎌田大地はラツィオ適応が第一。今季初ゴールを決めたナポリ戦のような目に見える活躍が必須だ写真:ロイター/アフロ

カタールW杯以来の代表参戦の南野に求められること

 彼らに代わって抜擢された2人のうち、やはり最大の注目は南野だ。第2次森保ジャパン発足後は一度も呼ばれていなかったが、今季のモナコでは開幕から異彩を放っており、文句なしのパフォーマンスを見せつけている。9月の段階では「継続性」に疑問符がついたのかもしれないが、その後も好調を維持しているところを披露。森保監督も呼び戻す決意を固めたのかもしれない。

「4-2-3-1であればトップ下まずベースかなと思っていて、トップもウィングもできると。カタールW杯までではウィングとしてプレーしつつ、内側に入って潜り込んでくるプレーをやっていたので、そこに期待しています。4-1-4-1で戦う場合は、インサイドハーフ(IH)のところで基本的にプレーするのかなと。彼のよさをチーム戦術に組み込んでいけるかなと思っています」

 指揮官は南野の起用法をこう説明していたが、まずはトップ下で勝負ということになるだろう。よりゲームメーカー的な鎌田とは異なる魅力を前面に発揮することで、南野はよりゴールに直結する仕事ができるはず。5年前の第1次森保ジャパン発足当初を思い出して、自分のよさであるゴールへの推進力や得点感覚を前面に押し出すことに集中していけば、代表での存在感を取り戻せるはず。そうなるように期待して見守りたい。

 旗手に関してはIHやボランチでの起用が期待される。彼はある程度、計算できる選手だから、普段通りの実力を出せば問題ないだろう。6月シリーズの時のような強度とハードワーク、攻守両面の幅広い働きを見せてほしい。

 今回、呼び戻された彼ら5人がインパクトをどのように残すのか、背番号10の行方がどうなるかなど、いろいろと興味深い点はあるが、まずは9日からの活動をしっかりと追っていきたいものである。

南野拓実には、今季モナコでの輝きを日本代表に持ち込んでほしい
南野拓実には、今季モナコでの輝きを日本代表に持ち込んでほしい写真:アフロ

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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