アメリカ合衆国側では日米安保をどこまで評価しているのだろうか(2022年公開版)
「日米安保を維持すべき」賛成派は有識者で9割近く
アメリカ合衆国の人達は日米安保(日米安全保障条約)についてどのような考えを抱いているのか。その実情を外務省が2022年5月に発表した「米国における対日世論調査」(※)の結果から確認する。
現在において日本の安全(国防、軍事的な国の保安を中心とした「安全」)は、自衛隊、そして日米安保に基づいた安全保障体制の二本柱で守られている。このうち日米安保について、アメリカ合衆国側がこのまま維持すべきか、そうすべきで無いのかを聞いた結果が次のグラフ。2008年度に一般人の意見でやや凹みが確認できるが(これは2008年度に行われた大統領選挙において、オバマ前大統領を推す民主党が日本からやや距離を置く政策を取ったのが遠因と考えられる)、一般人はおおよそ漸増、有識者は8割後半から9割台の高水準で「維持すべき」と肯定的意見を持っていたのが分かる。
2013年度分では一般人の肯定者が前年度比で22%ポイント、有識者の肯定者が前年度比で16%ポイントと大幅な下落を示しており、データが残っている1996年度以降においては一般人・有識者ともに最低の値となってしまった。また、2013年度分のデータを精査すると、その前年2012年度から「維持すべき」で減った分のほとんどが、「分からない」に流れていることが確認できる(グラフ化は略)。
この下落については2008年度の時のような特段の理由も想定できない。イレギュラーがあったと見た方が道理は通る。
2014年度以降は一般人・有識者ともに、株式市場における半戻し的な状況を呈した。戻した部分の多くが「分からない」の減少で補われている。同時に「そうは思わない」、つまり安保維持に反対する意見は調査開始以来一貫して1ケタ台のままなことに留意しておく必要はあろう。しかしその後一般人は再び比較的低い水準で推移するようになってしまった。
直近年度の2021年度では有識者は88%となり前年度から1%ポイント上げて高い水準を示したが、一般人は69%と前年度から1%ポイント下げ、有識者と比べれば低い水準を維持。一般人のデータの詳細を見ると「分からない」の回答が前年度から増加を示しているが(24%から26%と2%ポイントの増加)、これの一部が「維持すべき」の回答の減少によるものと考えられる。「そうは思わない」は5%から3%へと、むしろ減っているのだから(小数点以下は四捨五入の上で公開されており、公開値を合算しても100%にはならないこともある)。
ただし今設問に限らず2017年度以降の回答では、複数の設問で一般人の回答値において大きな減少が生じている。対日本だけならばアメリカ合衆国の一般人における日本離れが起きた結果かもしれないが、他の諸外国への認識でも同様の傾向が見られることから、2017年度以降においてそれまでと比べ、設問の様式に何か変化が生じた可能性の方は高い。有識者では同じようなイレギュラー的な現象が生じていないことも併せ、2017年度以降の一般人の回答動向に関しては、慎重に判断をする必要がある。
日米安保はアジアやアメリカ合衆国自身に貢献しているか
日米安保は、日本と極東の平和と安定へ寄与貢献しているものなのか否か。軍事的、戦略的、政略的な現実問題の上での判定は別として、「貢献している」と認識・判断をしている人の割合は次の通り。なお今設問と次の設問に関しては、2020年度以降では一般人に対しての問いは無い。有識者は2021年度が直近分だが、一般人は2019年度分が最新の値となっている。
有識者は高い値で安定、一般人は2008年度の大統領選時に多少の凹みを見せるも全般的には漸増傾向を示している。ここ10年ぐらいは80%内外でもみ合いの流れとも読める。一般人の方が選挙運動で心境を左右されやすいとの点でも注目するべき内容だが、ともあれ直近データでは一般人81%・有識者93%が「日米安保は日本と極東の平和と安定へ貢献している」と評価をしていることが確認できる。一般人の2008年度における急落は、上記の通り大統領選挙に絡んだ動きの可能性が高い。
また直近の2021年度で有識者の値が急に増え、2018年度と同じく過去最高値を示したのは、ロシアによるウクライナ侵略戦争勃発直前で国際情勢が緊迫化していたのが、回答動向にも影響したのだろう。
最後に、日米安保が日本や東アジアではなく「アメリカ合衆国自身の」安全保障にとって重要か否かの問題。これは日本サイドでも気になる項目だが、結果としては直近で9割台の人から「重要視している」との回答が得られた。特に有識者からは95%と、過去最高値が示されている。
興味深いのは、この点、つまり日米安保におけるアメリカ合衆国への直接的な利益との観点では、一般人も有識者もさほど変わりないレベルで高評価を与えている点。これをどのように解釈するかは人それぞれだが、日米安保はお互いにとって重要度が高いという認識が、一般レベルでは浸透していると考えて問題はなさそうだ。
■関連記事:
【日本から主要5か国への親近感の推移をさぐる(2020年調査版)】
※米国における対日世論調査
直近分は外務省がハリス社に委託し、アメリカ合衆国内において電話により2021年12月~2022年2月に実施されたもので、有効回答数は一般人1005人(18歳以上)・有識者200人(連邦政府、大企業、マスメディア、労働組合、宗教団体、アカデミアなどで指導的立場にある人物)。一般人にはインターネット経由で、有識者には電話によるインタビュー形式で実施されている。過去の調査もほぼ同条件で実施されている。
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