回復の流れ後退継続。物価高への懸念強し、電気料金値上げも影響大…2024年5月景気ウォッチャー調査
現状は下落、先行きも下落
内閣府は2024年6月10日付で2024年5月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落となる45.7を示し、基準値の50.0を下回る状態は継続することとなった。先行き判断DIは前回月比で下落して46.3となり、基準値の50.0を下回る状態が継続する形に。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている」と示された。
2024年5月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比マイナス1.7の45.7。
原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」が減少。原数値DIは46.8。
詳細項目は「住宅関連」以外のすべての項目で下落。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス2.2ポイントの46.3。
原数値では「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは47.7。
詳細項目は「住宅関連」のみが上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2024年5月では人の流れの活性化がプラスの影響を与えているものの、物価高や令和6年能登半島地震、4月からの値上げや負担増に対する防衛意識などがマイナスの影響を与えており、前月比ではマイナスの結果となった。特に電気料金値上げの影響が大きい。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2024年5月では人の流れの活性化への期待がある一方で、円安の悪影響や商品価格の値上げへの不安などがマイナス要素となり、前月比では下落した。先行き判断でも電気料金値上げの影響が大きく出ている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では人流増加のプラス影響は力強いものの、ロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに円安で悪影響を受ける企業も多く、今回月ではほとんどの部門で前月比マイナスを示している。今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「非製造業」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。物価上昇、具体的には電気料金の値上げや、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争、さらには円安が足を引っ張っており、ほとんどの部門で前月比マイナスを示している。
人流増加への期待と物価高への不安と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・宿泊は、外国人の個人旅行者が増加している。宴会も新型コロナウイルス感染症発生前の状態に戻った印象を受ける(都市型ホテル)。
・ゴールデンウィーク時にはファミリー層が多く来店したほか、母の日ギフトの購入者が多く推移している(百貨店)。
・電気料金の値上げや物価の高騰により、生活必需品以外の販売量が減少している。日々の生活で必要な物のみ購入されることが多く、買上点数の減少が顕著となっている(コンビニ)。
・テレビなどでも取り上げられたキャベツの高騰など、天候不順による野菜の価格高騰は影響が大きい。スイカも高止まりしており、仕入れをちゅうちょせざるを得ない状況に追い込まれている(スーパー)。
■先行き
・人の動きが新型コロナウイルス感染症発生前に戻りつつあると実感している。また、インバウンドを含め、観光が更に活発になると想定している(百貨店)。
・定額減税やボーナスの支給による影響のほか、気温の上昇によるエアコンの需要増加で、前年の売上は上回る見込みである。ただし、商品単価の上昇による影響がどう出るかは見通せない(家電量販店)。
・物価上昇が先行しているため支出が増えており、節約しながら生活している。加えて、電気代が高騰することで更に家計を見直す必要があり、厳しい状況が続くと考えられる(その他飲食の動向を把握できる者[酒卸売])。
・円安の影響が引き続きあり、輸入商材を中心に販売量が伸びないとみている(一般小売店[書店])。
インバウンドなどによる人流の増加で商売が好調との声が複数確認できる。季節イベントも活性化しているようだ。一方、電気料金や野菜価格など、生活に身近なところでの値上げが生活に大きな影響を与えていることも確認できる。前回月同様に、円安の悪影響を不安視する声も見受けられる。
企業動向では景気のよい話と悪い話の両方が出ている。
■現状
・新年度受注分の着工期を迎えて、想定を上回るペースで現場稼働が本格化している。技術職員の配置もほぼ完了している(建設業)。
・商材価格を上げてこれからというときに、また原材料の値上げの話が来ている。これでは値上げが追い付かない(食料品製造業)。
■先行き
・生成AI向け高付加価値DRAM関連の設備投資に関して顧客から具体的な問合せが来ており、受注増加につながる可能性が高くなっている(電気機械器具製造業)。
・主要取引先の生産は徐々に戻ってきているものの、当初の生産計画までは戻っていない。先の見えない状態が続いている(輸送用機械器具製造業)。
世の中の流れに上手く乗った形で堅調さを見せるところもあれば、コスト高に頭を抱えるところもある。「先の見えない状態」を感じているのは、コメントした企業だけに限るまい。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・前年と比較して悪化している。賃上げムードが高まるなかで年収アップを目指した転職希望者が多く、賃上げに対応し切れていない中小企業への応募が極端に減少している印象を受ける(人材派遣会社)。
■先行き
・人材派遣の需要は業界問わず底堅い見通しだが、企業が求めている人材が少ないため、マッチしないことが多い(人材派遣会社)。
一部で報じられている、人手確保のための賃金基準引き上げが続く中で、対応が困難な中小企業が人手不足に陥りやすくなっている実情が確認できる。他方、人材派遣会社で「企業が求めている人材が少ないため」とのコメントが出ているのを見るに、企業に非正規ではなく正規の社員として雇用する動きが強まっているのではないかとの推測ができる。あるいは単に、企業が求めるスキルや経験を持つ人がいないだけの話なのかもしれない(その場合も人材派遣会社に勤めるのではなく、直接雇用を狙えるためそちらにシフトしてしまい、人材派遣会社側の人材が少なくなってしまったまでの可能性はあるが)。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなっている。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
■関連記事:
【2022年は2.0人で1人、2070年には? 何人の現役層が高齢者を支えるのか(2023年公開版)】
【新型コロナウイルスでの買い占め騒動の実情(世帯種類別編)(2020年3月分)】
※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。