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特別支援学級・特別支援学校での暴言・体罰はなぜ起こるのか-構造的問題を解決するために-

野口晃菜博士(障害科学)/インクルージョン研究者
(写真:アフロ)

※本記事には障害のある子どもに対する暴言・体罰の描写があります。

 9月に兵庫県姫路市立小学校の特別支援学級において元教諭が児童6名に対し体罰と暴言を計34回、3年にわたり繰り返していたことが明らかとなった。同僚は7回管理職に対応を求めたが改善はなされなかった。本問題が明らかとなったのは、奇しくも「多様性と調和」が掲げられたオリンピック・パラリンピックが開催された直後である。なぜこのような事態が起きたのか。

約1割が特別支援学級で暴言・暴力を見聞き

 本問題を受けて同市内で活動する障害のある子どもの保護者の会「NPO 法人 姫路地区手をつなぐ育成会」「兵庫県自閉症協会姫路ブロック 」「兵庫県 LD 親の会『たつの子』はりまブロック」の3団体が合同で保護者・教職員を対象にアンケート調査をした。アンケートは9月27~29日に行われ、過去5年間で市内の特別支援学級で体罰や暴言を見聞きしたかの調査をしている。

 その結果、障害のある子どもの保護者や教職員ら合計509名から回答を得られた。58名(11.4%)が暴言を吐かれたのを見聞きしており、50名(9.8%)が体罰・虐待・暴力を見聞きしていた。例えば、暴言には、「お前、障害があるくせに!」や 「自分で家に帰れるもんなら帰ってみ」と車椅子の生徒に言う、「〇〇は逃げられへんから火事になったら死ぬわ」と避難訓練時に言われ、不登校になった、など、障害を理由とした差別的な暴言が多くあった。また、体罰・虐待・暴力としては、「子どもの腕を持って引きずって行かれた」「ランドセルを持って振り回されていた」「鉛筆で手を強く叩かれた」などが挙げられた。

 兵庫県自閉症協会姫路ブロック会長であり、自閉症の息子を持ち、特別支援学校の教員でもある竹中正彦さんは、「今回明るみになった問題は氷山の一角であり、本問題の元教諭を処分するのみでは問題は解決しないだろう。再発防止のためには、特別支援学級を取り巻く構造を変えていかないとならない」と指摘している。3団体は姫路市長及び教育長に要望書を提出し、再発防止のための第三者委員会の設置と権利侵害に関する実態調査などを要望している(※1)。

法制度が整備されている中でなぜ

 日本は障害者の権利を保障する障害者権利条約に2014年批准し、2012年には障害者虐待防止法、2016年には障害者差別解消法が施行されている。障害のある人への差別や虐待をなくしていく法律が整備されつつある中、なぜこのような問題が起きたのだろうか。

 本記事においては特別支援学級や特別支援学校における暴言や虐待を見聞きした支援員・教職員と実際に暴言を受けた経験のある当事者、及び専門家への取材を通して、特別支援学級・特別支援学校における構造的な問題について整理し、解決策を提案する。なお、次回の記事では学校で実践できる具体的な方法としてスクールワイドPBS(学校全体で取り組むポジティブな行動支援)について取り上げる。

「介助員という立場で管理職に報告しても、隠蔽しようとしているような対応」

 Aさんは 現在介助員として、都内小学校の特別支援学級で働いている。この学校には特別支援学級が6学級もあり、多くの障害のある子どもが在籍している。

 2021年4月から、Aさんは一緒に働くことになった担任教諭の「ウソ泣き女」や「何様なの、仲間にいれたくない」などの暴言を見聞きしてきた。更には、授業中に障害の特性で興奮し笑ってしまっている児童に対し顔を近づけ、その児童の笑い方を大声で真似し侮辱する行為も目撃してきた。支援員という立場で指摘がしづらかったが、4月から7月にかけて7件の暴言と侮辱行為について管理職に報告をしたところ、管理職は口頭で注意をしたが、改善は見られなかった。その後Aさんが教育委員会に直接報告をしたところ、一時的には改善が見られたが、その後また暴言を見聞きし、再度管理職に報告をしている。

 その後Aさんは9月に別のクラスの介助員をするように管理職から指示をされ、現在は別のクラスで働いているため、当該教諭の現状はわからないという。Aさんは「特別支援学級という、担任教諭と介助員しかいない閉じた空間だから自分以外は暴言を見聞きしていない」「介助員という立場で管理職に報告しても、なかなか真剣に取り合ってもらえない。管理職へ報告したのちに、自分は希望していないのに当該教諭が担任するクラスから配置転換があった。そして保護者への報告は不要と言われたことに違和感を持った」と、特別支援学級の閉鎖的な空間、そして暴言があったことを隠蔽するような対応ができてしまうことが問題だと指摘している。更に、その他の学級の担任教師も含め、「もともと通常学級を担任していて、初めて特別支援学級を担当する先生が多い」「研修がもっと充実していたら適切な接し方がわかるのではないか」と研修が足りていないことが問題ではないかとの指摘もしている。

 なお、本件について現在も続いている可能性があると捉えられたため、当該教育委員会に問い合わせをしたところ、教育委員会としては、「調査をしたが、暴言ではなく、言葉遣いが良くなかったと認識している。そのため、言葉遣いを気を付けるように校長から指導をした」との回答であった。

「特別支援学級の担任一人でどうにかしなければならない」

 Bさんは現在は行政で働いている、元特別支援学級の担任教師である。特別支援学級担任時に同じ学校で働く同僚の暴言や暴力について保護者や支援員から報告を受けた経験がある。例えば子どもができなかったことに対し、子どもを侮辱するような暴言や、目の前でプリントをびりびりに破くような行動があった。管理職に報告をしたところ、管理職が当該教師に指導をし、一時的に暴言・暴力はなくなったが、子どもへの接し方が大きく変わることはなかったという。Bさんは、「学級主任としてもっと当該教師の授業を見て指導をする時間が確保できたらよかった。特別支援学級は最大8人の年齢もタイプも異なる子どもたちがいる中、担任が一人でどうにかしなければならない。もっとお互いの授業を見合ったり、指導を受けたりできるぐらいの余裕が必要」と特別支援学級の担任の負担の高さや余裕のなさが背景にあるのでは、と指摘している。

 特別支援学級は担任一人に対して定数は最大8人。 今回問題が起きた姫路市のある兵庫県教育委員会も特別支援学級担任の負担が高いため、定数を減らすように国に働きかけているという。

写真:アフロ

「隠蔽しようがない組織に直接連絡ができたら良い」

 今回の問題は特別支援学級であったが、特別支援学校においても体罰・暴言を見聞きしたという声もある。

 Cさんは知的障害のある子どもたちが通う特別支援学校の教諭として働いている。数年前に働いていた特別支援学校において、姿勢が崩れたら背中をバンとたたく、子どもが走っている時に子どもを後ろから押す、歩行が不安定な子どもを蹴る、などの体罰が日常的にある教諭から行われていた。

 当時まだ若手教諭だったCさんは直接本人に伝えることはできず、副校長にメールで告発をしたが、改善はされなかった。その後、近所の人から体罰を目撃したとの連絡が教育委員会にあり、ようやく調査がされたという。聞き取りがあった際にCさんはこれまでの体罰についても伝えたが、その後具体的な処罰があるわけではなく、教諭はそのまま働き続けたとのこと。

 保護者らは本教諭が体罰をしていたことは知らず、体罰におびえて授業中に逸脱した行動をしない子どもたちを見て、本教諭のことを「指導力が高い先生」と評価していた。Cさんは「保護者に学校で何があったのかを報告することが難しい障害のある子どもたちが多い中で、体罰が行われていることを知らずに、保護者が当該先生に感謝をすることがある。子どもは痛いのが嫌なだけなのに。それを受けて、体罰をしている教諭も、『自分の指導は間違っていない』と勘違いをしてしまうことがある」と、障害のある子どもが体罰を受けていたとしても保護者や周りに伝えることが難しく、体罰が問題化しづらい構造について指摘している。

 また、管理職へメールをしても解決がされなかった点について、「内部告発だと学校でもみ消される可能性が高い。学校でもなく、教育委員会でもなく、隠蔽しようがない組織に直接電話する、メールする、など出来たら良い。告発者が守られるべき」とどんな立場であっても気付いたらすぐに告発ができ、かつ調査がなされる仕組みが必要であるとした。

特別支援教育に望むことは「まずは暴言や暴力をやめてほしい」

  夜野アサギ(仮名)さんは聴覚障害特別支援学校に通っていた時に受けた体罰・暴言が原因で卒業後の現在もその苦しみが続いている。「毎日のように『おまえらは最低だ』『お前らは馬鹿だ』と言い続けた先生がいた。卒業して8年近く経つが、夢の中でその人にどなられて叫んで起きる」と話す。「学校にもよると思うが、自分が行ったところは閉鎖的だった。人と人との距離が近すぎる。先生同士で、あの先生がおかしいと思っているのに、誰も止められない。狭い社会の中で縮こまっている」「先生たちがやる気がなかったわけではない。子ども全員の学力もまったく違う状況で余裕がなかったのではないか」と、閉鎖的な空間であったこと、先生たち自身に余裕がなかったことが問題だったのではないか、と指摘している。夜野さんが今後の特別支援教育に望むことは、「まずは暴言や暴力をやめてほしい」である。

特別支援学級・特別支援学校の構造的な問題

 上記を踏まえると、特別支援学級や特別支援学校で体罰や暴言が起こる構造的な問題として、①報告をしても十分な調査や指導がなされない、②障害のある子どもは声をあげづらく閉鎖的な空間であり問題化しづらい、③担任教師一人が背負う負担の多さと余裕の少なさ、④担任教師が障害のある子どもとの接し方について学ぶ機会の少なさ、などがあることが分かる。

 これらを解決するためにはどうしたら良いのか。

 障害者の権利擁護を専門とする、兵庫県立大学環境人間学部准教授の竹端寛氏に本件の構造的な問題及び解決策について話を聞いた。

学校と精神科病院は障害者虐待防止法の通報対象外

ー今回姫路で起こった虐待問題の要因は何だと考えますか。

 障害児への虐待は、そもそも子どもが声をあげづらい存在であり、さらに障害という属性故に、隠蔽がされやすいです。学校が障害者虐待防止法の通報対象外であるため、法律を変えない限り、このような問題は起こり続けるでしょう。

 精神科病院も虐待防止法の通報対象外ですが、同じ構造があります。それは、「外からの風が入りづらい」「子どもや患者の声が聞かれづらい」ということです。「専門家」である教師や病院スタッフの言うことと、障害のある子どもや患者さんの言うことだったら、確実に教師や病院スタッフの声の方が通りやすいのです。専門職と当事者という関係性が非対称であり、学校も病院も密室で、第三者が介在しにくいにもかかわらず、専門職に対しては性善説で「虐待なんてするはずがない」ということを前提に法律も作られていることが問題です。

 もし、学校が障害者虐待防止法の通報対象であったら、今回の姫路市の件は、市区町村に通報された段階で、学校と教育委員会の壁を飛び越えて、調査がなされるでしょう。同じような虐待が例えば放課後等デイサービス等の福祉事業所で起こったら、すぐに調査が入ります。しかし、学校が通報対象外であるために、3年にわたって虐待を止められなかった。これは明らかに法律の不備です。

 また、特別支援においても精神科病院においても、関わり方がわからない人が働いている割合が高いです(※2)。本来その子のペースに合わせた関わり方を追求していけば、コミュニケーションをとることは可能であるにもかかわらず、関わり方を知らずに、虐待をしてしまう。学校、精神科病院、そして相模原の事件も同じ構造でしょう。「ちゃんと教えなきゃ」「ちゃんと支援しなきゃ」という熱心さが逆に歪んでしまうこともあります。

 今回の件を、「ろくでもない人格の人が起こした問題」として、ただ当該教師を懲戒免職にするだけでは、問題がまた起こるでしょう。本来は学校組織のゆがみです。組織構造の問題として引き受けなければならない。教育委員会がその責任を取らなければいけないのに、校長が悪い、教師が悪い、と問題を矮小化して終わらせてしまったらまた同じことが起こりかねません。

 このゆがみは、分離教育を前提としている今の障害児教育そのもののゆがみだとも思っています。インクルーシブ教育に舵を切れず、特別支援教育を開くことが出来ないでいることも、構造的な歪みや悪循環を強化していると感じています。

ーこのような問題はどのように解決をしていったら良いのでしょうか。例えば海外ではどのような対策が打たれていますか。

 障害のある子どもの虐待が隠蔽されやすいのは海外も一緒です。例えばアメリカのカリフォルニアでは権利擁護機関に調査権限があり、この種の問題への対応方法は日本とは大きく違います。

 カリフォルニア州にはDisability Rights California(DRC)という障害者の公的権利擁護機関があります。州がお金を出し、民間が運営する機関で、障害当事者が理事会の過半数を占めています。カリフォルニア州で暮らす障害者が自分自身の権利を侵されていると感じた時や、支援への不満や疑問を抱いた時には、この機関に連絡をすると調査がなされます。

 例えば、保護者から「うちの子学校で閉じ込められました」という連絡があり、すぐに学校への調査に行った結果、学校の中に隔離部屋を作って、そこに障害のある子どもを閉じ込めていることがわかりました。そしてそれはその学校のみでなく、いくつかの学校で起こっていたのです。DRCはその実態を暴いて、調査報告書にまとめたあと、州法の改正を求めたのです。このような権利擁護機関はアメリカの全州にあります。

ー日本でもそのような権利擁護機関をつくることが良いのでしょうか。

 今の日本の権利擁護の実情に当てはめると、そこまで一気に変えるのは難しいでしょう。まずは、学校と精神科病院も障害者虐待防止法の通報対象とし、その上で調査がなされる仕組みをつくる必要があります。調査チームは教育委員会ではない方が良いでしょう。学校と教育委員会は人事交流が盛んにあるため、いろいろな力が働いてしまい、なかなか客観的な調査が難しい。自浄作用では限界があります。

ーなにか学校現場でできることはありますか?

 子どもの権利条約でも障害者権利条約でも大切にされているのが、「意思決定支援」です。今は学校でも病院でも意思決定支援が非常に限定的なのではないでしょうか。子どもや患者が自身の意思を表明し、その意思に基づいてものごとを決めていく。そのような支援がなされずに、「他者の指示を聞く」ことを目的とした支援ばかりがなされると、本人の声は抑圧されて、健全な声が出てきません。結果、なにか嫌なことやおかしいと思うことがあっても、声をあげることができないのです。研修をするのであれば単に「虐待防止法について学びましょう」ではなく、いかに本人の意思決定支援をするか、支援者や教師が関わり方を変えることができるか、の研修が必要です。

 また、学校も病院も、自分たちですべてを抱え込んでしまう傾向があります。何か問題が起きたときに、閉じるのではなく、むしろ多職種で協働して解決していくために開いた組織にする必要があります。地域の中で本人とともに多様な専門職や家族が連携しながら様々な視点を合わせて本人の最善の利益を考えるチーム支援をしていくことが望ましいでしょう。虐待などの問題が起きた時のみでなく、普段から学校、福祉関係者、家族など他機関が本人中心の支援会議をしながら、継続的な意思決定支援をしていくプロセスが大切です。

二度と同じ問題を起こさないために

 本問題が起きた後も同じ兵庫県において特別支援学級の生徒に対し十数回にわたりわいせつ行為をしたとして男性教諭が懲戒免職となった。取材でも明らかになったように、このようにニュースになる問題は氷山の一角であるであろう。

二度と同じ問題を起こさないためには、本件を当該教師や校長の個人の問題として矮小化せず、国単位、自治体単位、学校単位で構造を変えていく必要がある。具体的には竹端氏から障害者虐待防止法の通報対象に学校もいれ、第三者の調査チームが調査できるような仕組みを作ること、意思決定支援を充実させること、学校のみで解決をするのではなく多職種チームで解決ができるようにしていくこと、などが提案された。どうしたらこれらが実現できるのか、学校や自治体と共に考えていきたい。

※1 姫路市委員会は原因追及のために検証委員会を設置し、第1回が11月5日に開催された。

※2 特別支援学級における特別支援学校の教員免許保有率は30.8%、特別支援学校における免許保有率は79.8%(平成30年度)

竹端寛氏から提供
竹端寛氏から提供

【竹端寛(たけばた・ひろし)准教授プロフィール】

京都市生まれ。兵庫県立大学環境人間学部准教授。大阪大学人間科学部卒、同大学院修了。博士(人間科学)。山梨学院大学教授を経て、現職。脱施設化と権利擁護研究を土台に、ダイアローグを基盤とした地域福祉・多職種連携などの研究や研修にも携わる。著書に『「当たり前」をひっくり返すーバザーリア・ニィリエ・フレイレが奏でた革命』『権利擁護が支援を変えるーセルフアドボカシーから虐待防止まで』(現代書館)、『枠組み外しの旅ー「個性化」が変える福祉社会』(青灯社)等。

博士(障害科学)/インクルージョン研究者

一般社団法人UNIVA理事/国士舘大学非常勤講師。小6でアメリカへ渡り、障害児教育に関心を持つ。その後筑波大学にて多様な子どもが共に学ぶインクルーシブ教育について研究。小学校講師を経て、株式会社LITALICO研究所長として、学校・少年院等との共同研究や連携などに取り組み、その後一般社団法人UNIVAの立ち上げに参画、理事に就任。インクルージョン実現のために研究と実践と政策を結ぶのがライフワーク。経産省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員、文科省新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議委員、日本LD学会国際委員など。共著に「発達障害のある子どもと周囲の関係性を支援する」など

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